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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆54◆

 センガ老人とヴァルゴが話をしている間、ギィ青年は厨房で料理を作り、タイミング良く二人のテーブルに給仕し続けていた。


 また新たに二皿、湯気の立つ香ばしい料理が運ばれて来る。


「今度は蒸し鶏肉の甘酢がけじゃな」


「このまま店に出してもおかしくありませんね」


 ヴァルゴは一口味わってから、お世辞抜きの感想を述べた。


「はっはっは、料理も修行の内でな。あやつもここに来て腕を上げた」


 空になった別の皿を下げて厨房に戻るギィを見ながら、センガが言う。


「曾孫さんですね。今は従者のギィ・ボンさんでしたか」


「情報屋は何でもお見通しの様じゃな。ワシらについてはどこまで知っておる?」


 センガはヴァルゴの方に向き直る。


「全てを知っている訳ではありません。お二人の素性を知ることは出来ても、なぜここに道場を作ったのかは、想像の域を出ませんし」


「面白そうじゃな。どう想像したか聞かせてもらえんかの。もし違っていたら、正解を教えてやる」


「この国に支部道場を作るのが目的かと、最初は思いました。しかし、この道場では、何も指導もしておられないと聞きました」


「ああ、ヴォーン同様、ワシはここへ来てから誰にも指導しとらんよ。ちょいと余興で、試し割りのコツを教えた位じゃ」


「次に曾孫さんを次期総帥として鍛える為に、各地から武芸者の集まるこの場所を選んだのかと思いましたが、これも違う様です」


「ギィも他の門下生達とは何も稽古しとらん。表向きは他流試合を禁じておるからの」


「何か祖国で揉め事に巻き込まれてこの国に逃亡されたのかと、失礼な事も考えましたが、特にその様な事もなく、むしろ不世出の達人として、各界から尊敬されているご様子ですし」


「一時期、迫害を受けた時期もあったが、それはもう半世紀以上も前の話じゃ。今は順風満帆と言った所かの」


「結局の所、全て道楽でやっているとしか思えません。第一人者と目される人が、往々にして気まぐれである事は珍しくありませんから」


「それが、お前さんの結論か?」


「はい」


「はっはっは、半分当たりじゃ」


 センガは、ぐい、と自分の湯呑茶碗の酒をあおった後、急に真面目な顔になって声を落とし、


「実はな、ひい孫を武芸者でなく、究極の料理人にしようと」


「嘘ですね」


「もちろんじゃ」


 そう言って、センガは高らかに笑った。


 ここから先、この老人の言う事は話半分で聞こう。


 ヴァルゴは冷静に思考のスイッチを切り替えた。

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