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センガ老人とヴァルゴが話をしている間、ギィ青年は厨房で料理を作り、タイミング良く二人のテーブルに給仕し続けていた。
また新たに二皿、湯気の立つ香ばしい料理が運ばれて来る。
「今度は蒸し鶏肉の甘酢がけじゃな」
「このまま店に出してもおかしくありませんね」
ヴァルゴは一口味わってから、お世辞抜きの感想を述べた。
「はっはっは、料理も修行の内でな。あやつもここに来て腕を上げた」
空になった別の皿を下げて厨房に戻るギィを見ながら、センガが言う。
「曾孫さんですね。今は従者のギィ・ボンさんでしたか」
「情報屋は何でもお見通しの様じゃな。ワシらについてはどこまで知っておる?」
センガはヴァルゴの方に向き直る。
「全てを知っている訳ではありません。お二人の素性を知ることは出来ても、なぜここに道場を作ったのかは、想像の域を出ませんし」
「面白そうじゃな。どう想像したか聞かせてもらえんかの。もし違っていたら、正解を教えてやる」
「この国に支部道場を作るのが目的かと、最初は思いました。しかし、この道場では、何も指導もしておられないと聞きました」
「ああ、ヴォーン同様、ワシはここへ来てから誰にも指導しとらんよ。ちょいと余興で、試し割りのコツを教えた位じゃ」
「次に曾孫さんを次期総帥として鍛える為に、各地から武芸者の集まるこの場所を選んだのかと思いましたが、これも違う様です」
「ギィも他の門下生達とは何も稽古しとらん。表向きは他流試合を禁じておるからの」
「何か祖国で揉め事に巻き込まれてこの国に逃亡されたのかと、失礼な事も考えましたが、特にその様な事もなく、むしろ不世出の達人として、各界から尊敬されているご様子ですし」
「一時期、迫害を受けた時期もあったが、それはもう半世紀以上も前の話じゃ。今は順風満帆と言った所かの」
「結局の所、全て道楽でやっているとしか思えません。第一人者と目される人が、往々にして気まぐれである事は珍しくありませんから」
「それが、お前さんの結論か?」
「はい」
「はっはっは、半分当たりじゃ」
センガは、ぐい、と自分の湯呑茶碗の酒をあおった後、急に真面目な顔になって声を落とし、
「実はな、ひい孫を武芸者でなく、究極の料理人にしようと」
「嘘ですね」
「もちろんじゃ」
そう言って、センガは高らかに笑った。
ここから先、この老人の言う事は話半分で聞こう。
ヴァルゴは冷静に思考のスイッチを切り替えた。




