◆52◆
「ふむ。かなり意外な人選です。ですが、確かにミディなら、その役にうってつけかも知れません」
ヴァルゴはあごに手を当て、少し考え込むような顔をして言った。
「彼を良く御存じですか」
ヴォーンが聞く。
「ええ、実を言えば、ミディは私の旧くからの友人ですから」
「それなら話は早い。私が彼を大統領に推す理由もお分かりでしょう。地味ではありますが、組織を効率的に指揮する事に関して言えば、非常に優れた能力の持ち主です」
「しかし、ミディはあなたに比べると、国民の間での知名度が今一つ足りません」
「大統領選まで、まだ時間は十分あります。その間に知名度を上げる手段はいくらでもありますし、選挙期間中は私も応援演説位しましょう。自分で言うのも何ですが、『勇者』ヴォーンの推薦となれば、かなりの票が入るのではないでしょうか」
「勝ったも同然です」
「では、ヴァルゴさん。ミディ・フェロンを次期大統領に据える方向で、現政権のメンバーの方々にも検討してもらう様、よろしくお伝え願います。それが国益の為にも、一番良い選択ではないかと思います」
「一度、持ち返って相談してみましょう」
そこで話は終わり、何となくだまされた様な、腑に落ちる様な落ちない様な不思議な感覚を残しつつ、ヴァルゴは道場を後にした。
と、山道を下りきった所に停めてあった車の傍らで、彼を待つ者がいる。
「はっはっは、その顔じゃと、お前さんもヴォーンに化かされたな」
その小柄な老人は、ヴァルゴを見て笑った。
ヴァルゴは特に動揺した風も見せず、
「センガ・イーさんですね。初めまして、ヴァルゴ・プレシオです」
「おや、ワシを知っておるのか」
「ええ。その名前が偽名である事も知っています」
「ほう、流石情報屋じゃな。ところでお前さん、せっかくこんな遠い所まで来たんじゃ。ちと、道場の寮に寄ってワシと一杯やっていかんか?」
「すみませんが、車を運転して来たので、アルコールは」
「寮に空き部屋があるから、今晩は泊まっていくといい」
「それならば、喜んでお言葉に甘えましょう」
二人は車に乗り込んだ。




