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「ザントったら、一時はどうなる事かと思ったけれど、最近になってようやく元気が出て来たのよ」
ザントとリーガが稽古に励んでいる間、ヴェレは道場の居間で、ちゃぶ台を挟んでクリスとお喋りを楽しんでいた。既婚女性が二人以上集まれば、話題は自然、旦那か子供の話になってくる。
「リーガ君のおかげね。やっぱり男の人って、自分の息子さんに夢を託すものだから」
クリスがそう言いながら、傍らに座っている娘の方を見ると、アリッサはスポンジと毛糸で作られた小さなヌンチャクを振り回す事に夢中になっていた。
「娘だからなのかしら、ウチの人はあまりそういう傾向はないわね」
「そう言いながら、与えてるオモチャが武芸者そのものじゃないの。ヴォーンさん、結構アリッサちゃんに期待してるんじゃないの?」
「これは門下生の人がアリッサの為に作ってくれたのよ。アリッサも気に入ったみたい」
「血は争えないわね」
ヴェレがくすっと笑う。
そこへ、稽古を終えたザントとリーガがやって来た。
アリッサはヌンチャクを放り出して、リーガの元へ大急ぎでペタペタと這って行く。
「あらあら。リーガ君の事がよっぽど好きなのね」
クリスが微笑みながら言う。
「アリッサ、ただいま」
リーガが手をのばすと、アリッサはその手を、ぺち、とはたいた。
「アリッサ、あくしゅ」
そう言ってさらに近寄って来たリーガの顔を、ぺちぺちとはたくアリッサ。少しご機嫌ななめの様である。
「これ、アリッサ!」
クリスが立ち上がろうとするのを、ヴェレが笑って制し、
「いいのよ、クリス。アリッサちゃんは、多分こう言いたいのよ。『私をほったらかして、今までどこへ行ってたのよ!』って」
「それは私に対する当て付けかい、ヴェレ」
ザントが苦笑しながら妻に言う。
「さあ、どうでしょうね」
さらにヴェレは立ち上がって、放り出されたヌンチャクを拾い、それをアリッサの元に持って行き、
「アリッサちゃん、これ使いなさい」
アリッサはヌンチャクを受け取ると、リーガの顔面に真っ向から叩き付けた。もちろんスポンジ製なので、痛くも痒くもない。
「やめなさい、アリッサ」
クリスが注意しても、ヴェレは、
「大丈夫よ。本物じゃないんだし」
平気で二人の様子を見ている。
と、リーガはアリッサの虚をついて、ひょい、とヌンチャクを取り上げた。返せ、と伸ばしたアリッサの手を取り、
「はい、あーくしゅ」
握った手をそのままリズミカルに上下に振っていると、段々アリッサも楽しくなって来たらしく、やがてキャッキャと喜び始めた。
「ふふ、リーガ君の方が一枚上手だった様ね、ヴェレ」
「何だかアリッサちゃんの将来が心配になって来たわ、クリス」
それぞれの母親の思惑をよそに、楽しそうに遊ぶ二人の子供達だった。




