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誘拐事件以来、憑き物が落ちた様に武芸修行に身が入らなくなったザントは、その代わりに、二週間に一度会いに来る息子リーガに、自分の稽古の時間を割き、手を取って熱心に武芸を教える様になる。
殺伐とした道場の片隅で、親子が基礎的な型の練習に励んでいる様子は、見る者の心を和ませる癒しの光景となった。
「ミニチュアサイズの武芸者か」
「ちょこちょこ動いて、可愛いもんだ」
「ああいう小さい内から、武芸を仕込むのも面白そうだな」
若い親子連れを見るにつけ、己の年齢と独り身の境遇を振り返ってナーバスになる門下生達も、武芸と言う自分達の領域にやって来た者に対しては、むしろ先輩として、かつて来た道を新参者が辿って来るのを、微笑ましく見守るだけの余裕があった。
良く学ぶ者は良く教えたがる者になる。
やがて、自分の稽古を放り出して、リーガにちょっかいを出す門下生が増えて来た。
「違う、そこはもっと腰を入れろ」
「引き手を利かせるんだ、こう」
「拳を飛ばすつもりでいけ」
多人数から懇切丁寧過ぎる指導を受け、リーガの動作が少しずつ様になって来る。
この小さな弟子が上達して行くにつれ、教えた甲斐があったと、我が事の様に嬉しく思い始める門下生達だった。
その結果、ますます指導に身が入り、それに応える様にリーガも上達するという、好循環が生まれる。
「私は駄目でしたが、リーガは、将来名立たる武芸者になれるかも知れません。素質と才能があります」
目を輝かせて力説するザントに対し、
「この親バカめ」
センガ老人は、そう一喝して大笑いした。




