◆39◆
ヴォーンは、廃山荘に来てからずっと抱えていた、パンの詰まった段ボール箱を長椅子の上に置き、倒した見張りの男の服を調べ、鍵束を探り当てて取り出した。
それを使い、ヴォーンが部屋の鍵を開けて中に入ると、そこにはいずれも猿轡を噛まされ手足を縛られた状態の、三十代後半位の女性が一人と十歳位の男の子が二人、それにザントが、古びたソファに座らされているのが目に入った。
ヴォーンは自分の上着の内ポケットから小型ナイフを取り出し、まず子供達の母親と思しき女性を解放した。あふれ出る感謝の言葉を優しく制して、
「それより、お子さんの縄を解いてあげて下さい。私はこちらをやりますから、そちらをお願いします」
もう一本同じナイフを取り出し、その女性に渡した。
二人の子供が解放された後、ヴォーンはザントの縛めも解き、
「ちょっと待っててくれ」
そう言って部屋の外に出て、長椅子に置いてあった段ボール箱を持って戻って来た。
「お腹が空いたでしょう。好きなパンを取って食べて下さい。箱の底に缶入りの紅茶もあります」
紅茶は食堂で見つけ、二階へ向かう前にくすねておいたものである。ヴォーンという男は、普段は面倒くさがりの癖に、こういう時はマメだった。
「ザント、君はすまないが、一緒に来て手伝って欲しい。銃を持って立っているだけでいいから」
ヴォーンとザントは部屋を出て、見張りが壁に立て掛けていた銃を取り、残りの部屋を調べながら廊下を進んで行く。
「ヴォーン先生。私は銃を持った男達を前にして、何も出来ませんでした」
ザントが歩きながら申し訳なさそうに言う。
「この場合、それが正しい判断だ。下手に抵抗すれば、最悪殺される」
ヴォーンは淡々とそれに返答する。
ザントは首を横に振り、
「何もしなかったのではなく、何も出来なかったのです。妻子を放置してずっと武芸に専念して来た男が、です」
そう言って俯いた。
「気にするな。銃を持った多人数の人間に、たった一人、素手で立ち向かえるものか。そんな事を可能だと思うのは武芸者ではなく、ただの馬鹿だ」
ヴォーンは、色々と突っ込み所だらけの慰めの言葉をザントに掛けた。




