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ザントは運が悪かった。
注文していた品物を武器職人から受け取り、車で帰る途中、反政府派の残党に捕まってしまったのである。
帰り道の途中にある廃山荘が、反政府派の残党のアジトの一つとして使用されており、そこには既に、別件で誘拐されていた三人の人質が監禁されていた。内務大臣の妻と二人の子供である。
「三人を解放して欲しくば、現在刑務所に服役している同志達を釈放せよ」
公には報道されていなかったが、反政府派の残党は、密かに政府を脅迫している最中であった。
そんな訳でアジトの警戒レベルが上がっていた所に、ザントの車が通りがかったのである。
突如人気の無い山道に現れた、三人の銃を持った男に車を止めさせられ、荷物を検められると、トランクの中から出て来たのが、大量のトンファーと三節棍、さらにおまけで付けてくれたヌンチャクが一組。
怪しむなと言う方が無理である。
結果、ザントは銃を突きつけられ、目隠しをされ、後手に縛られ、アジトに連行された。
そのアジトから約十キロ離れた場所に設けられた対策本部に、ついに「勇者」ヴォーンが乗り込んで来た。
「挨拶は抜きです。状況を説明して下さい」
「では私が」
ヴァルゴ・プレシオと名乗る五十代半ばの背の高い男が、ヴォーンに現在の状況を簡潔に説明した。
既に人質が廃山荘に監禁されている事は分かっており、その建物内部の見取り図も入手済みで、中にいる人間の数も把握している。今はその情報を元に、特殊部隊の突入作戦を検討している所だと言う。
「相手の人数も武器も少ない為、制圧だけなら問題ありません。問題は四人の人質の安全を保証する事です」
「山荘に十五人、道路の見張りに三人、人質が四人で、計二十二人か。食糧はどうしているんです?」
「三日に一度、連絡を兼ねて仲間の一人が、車で運び込んでいた様子です。今は警戒レベルが上がっているので、しばらく来ないかも知れません」
「その仲間の名前は分かりますか?」
「ポール・ヴィロン。本業はパン屋です」
「そうですか。では、私は今から一人でアジトへ行って、人質を取り返して来ます」
ヴァルゴを始め、その場にいた特殊部隊の面々も、驚いてヴォーンを見た。ヴォーンは淡々と話を続ける。
「車とパンを用意してもらえますか? パンは普通に売っているもので結構です。段ボール箱一杯に詰めて、車の後部座席に置いて下さい」
「武器は?」
「要りません。却って怪しまれます。ウチの門下生はそれで捕まりました」
「しかしパン一箱で、どうやって十八人の銃を持つ敵と戦うつもりですか?」
「相手に警戒心を起こさせない事が、最大の武器です」
「勇者」ヴォーンが一体何を考えているのか誰にも分からなかったが、何しろ「勇者」ヴォーンなので、誰も異を唱える事は出来なかった。




