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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆32◆

 アリッサを寝かし付けたリーガが居間に戻ると、今度は自分の母ヴェレが、クリスの胸にすがって泣きじゃくっている所だった。


「おかあさん、おちついて」


 リーガはヴェレの所に行き、その背中をポンポンと叩く。


 ヴェレは振り返ってリーガをきつく抱きしめ、


「リーガ、あなたのお父さん、あなたのお父さんが!」


 激しいパニックに陥った母の頭をよしよしと撫でながら、リーガが目を横に向けると、ヴォーンが何やら電話で話しているのが見えた。


 ヴォーンは電話を終えると、ヴェレとリーガの所にやって来て、


「二人共安心してください。たった今、警察への協力の申し出を受理されました。これからザントを取り戻しに行って来ます」


 さも何でもない事の様に淡々と、しかし優しい口調で、そう言った。


 ヴェレは顔を上げ、ヴォーンをまじまじと見て、


「本当ですか? 本当に夫を取り戻してくれるんですか?」


「はい。もうすぐ警察のヘリが私を迎えに来ます。それで直接現地に行き、ザントを救出して来ますから、どうか落ち着いて待っていて下さい」


 ヴェレとリーガの目の前に立っているのは、紛れもなく、四年前の内戦時、救助困難な状況下で幾多の人命を救った英雄だった。


「夫を、どうか、お願いします」


 ヴェレは少し落ち着きを取り戻し、リーガを抱きしめたままヴォーンに頭を下げる。


「道場主として、門下生の危機を放っておく訳にはいきません」


 そう言って、居間から出て行こうとするヴォーンの背に向かい、


「待て、ヴォーン。ワシらに何か手伝える事はないか?」


 センガ老人が声を掛けた。


「では、懐中電灯を持って一緒に外に来て下さい。ヘリの誘導だけお願いします」


「それだけか?」


「行くのは一人で十分です。むしろ一人の方が都合がいい」


「ふむ、何か策があるのじゃな。よし、ギィ、お前も懐中電灯を持って来い。クリスさんはここで、三人の様子を見ていてくだされ」


「分かりました」


 クリスは落ち着き払った様子で、センガに返答する。


「ぼくもてつだいます」


 リーガが母の手をほどいて離れ、センガに協力を申し出た。


「よかろう。懐中電灯を振るだけなら、お前さんにも出来る仕事じゃな。ついて来い。ヴェレさん、この子をちと借りるぞ」


 ヴォーン、センガ、ギィ、リーガの四人は、手にそれぞれ懐中電灯を持って、道場から少し離れた所にある広場まで来た。いつもヴェレ達を乗せて来る自家用ヘリも、そこを発着所に使っている。


「ヘリの音が聞こえてきたら、懐中電灯を音のする方向に向けて振って下さい」


 ヴォーンが三人に指示する。


「ちなみに、何でもない時にヘリを照らすと、威力業務妨害で捕まることがあるので注意して下さい」


「今、そういう豆知識はいらんわ」


 センガがヴォーンに突っ込みを入れた。

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