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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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35/634

◆34◆

 夜明け近くのまだ暗い山道を、ヴォーンは大して急ぎもせずに車を走らせていた。


「せめて何か変装した方が良いのでは? 付けヒゲやカツラならすぐに用意出来ますが」


 対策本部を出発する前に、特殊部隊の一人がそう提言したのに対し、


「不自然な小細工はすぐに見抜かれます。自然体の方が却って怪しまれないものです」


 そう言って、ヴォーンはそのまま出て行った。


 やがて車は、人質が監禁されている廃山荘の近くまでやって来る。


 と、道の両脇から、銃を持った三人の男が現れ、その内の一人が真正面から、強力なライトの光を運転席に容赦なく浴びせた。


 ヴォーンが車を止めると、残り二人の男が運転席の所までやって来て、一人が無遠慮にドアを開け、もう一人が銃口をヴォーンに突きつけ、


「動くな。荷物を検めさせてもらう」


 これに対し、ヴォーンは全く驚いた様子もなく、


「ここを通してくれ。俺はポールの代理でパンを持って来たんだ」


「ポールの代理?」


「ああ。ポールは今、警察にマークされていて、しばらく動けない。とりあえず、俺がつなぎの食糧を持って来る様に頼まれた」


 男が車の後部座席を見ると、なるほど、口の開いた段ボール箱に、ビニール袋に入った市販のパンがぎっしり詰まっている。それを見て、男はごくりと唾を飲み込んだ。普段、十分に食べさせてもらっていないのだろう。


「一応、中を検めさせてもらう」


 男は銃を引っ込め、後部座席のドアを開けて、段ボール箱を手前に引き寄せ、手を突っ込んで中を調べた。


「よし。確かにパンしか入っていない。念の為、トランクも開けろ」


 ヴォーンが言われるままにトランクを開けると、男は中をざっと調べ、


「異常なし。通っていいぞ」


 トランクが閉められ、ヴォーンの運転する車は、三人の男に見送られながら、廃山荘へと通じる脇道に入って行った。


 教訓その一。


 自分の利害に直結する物事に関し、往々にして人は冷静な判断が出来なくなる。


 この場合、「パン食いたい」という欲求が、三人の見張りをダメにした。

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