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夜明け近くのまだ暗い山道を、ヴォーンは大して急ぎもせずに車を走らせていた。
「せめて何か変装した方が良いのでは? 付けヒゲやカツラならすぐに用意出来ますが」
対策本部を出発する前に、特殊部隊の一人がそう提言したのに対し、
「不自然な小細工はすぐに見抜かれます。自然体の方が却って怪しまれないものです」
そう言って、ヴォーンはそのまま出て行った。
やがて車は、人質が監禁されている廃山荘の近くまでやって来る。
と、道の両脇から、銃を持った三人の男が現れ、その内の一人が真正面から、強力なライトの光を運転席に容赦なく浴びせた。
ヴォーンが車を止めると、残り二人の男が運転席の所までやって来て、一人が無遠慮にドアを開け、もう一人が銃口をヴォーンに突きつけ、
「動くな。荷物を検めさせてもらう」
これに対し、ヴォーンは全く驚いた様子もなく、
「ここを通してくれ。俺はポールの代理でパンを持って来たんだ」
「ポールの代理?」
「ああ。ポールは今、警察にマークされていて、しばらく動けない。とりあえず、俺がつなぎの食糧を持って来る様に頼まれた」
男が車の後部座席を見ると、なるほど、口の開いた段ボール箱に、ビニール袋に入った市販のパンがぎっしり詰まっている。それを見て、男はごくりと唾を飲み込んだ。普段、十分に食べさせてもらっていないのだろう。
「一応、中を検めさせてもらう」
男は銃を引っ込め、後部座席のドアを開けて、段ボール箱を手前に引き寄せ、手を突っ込んで中を調べた。
「よし。確かにパンしか入っていない。念の為、トランクも開けろ」
ヴォーンが言われるままにトランクを開けると、男は中をざっと調べ、
「異常なし。通っていいぞ」
トランクが閉められ、ヴォーンの運転する車は、三人の男に見送られながら、廃山荘へと通じる脇道に入って行った。
教訓その一。
自分の利害に直結する物事に関し、往々にして人は冷静な判断が出来なくなる。
この場合、「パン食いたい」という欲求が、三人の見張りをダメにした。




