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「周囲の反対を押し切って結婚したと言っても、そこは大手メーカーの社長令嬢じゃ、そう簡単に許された筈もなかろう。してみると、誰か親族の中に、奥さんの味方をした有力な人間がいたと思うのじゃが?」
センガ老人は少し真面目な調子に戻って、ザントに問い掛けた。
「ヴェレの父方の祖父で、ノイン化学工業の創業者の、ハーフェン・ノインという老人が、私達の力になってくれました。ハーフェンは小さい頃からヴェレを可愛がっていて、彼女のしたい事は何でも好きにさせていましたから」
「なるほど。じいさんが甘やかしたから、ああいう孫娘が出来上がってしまったと言う訳じゃな」
そう言うと、ギィ青年がまた怒りそうな気配を見せたので、センガはあわてて、
「ああ、こりゃ失礼。奥さんを悪く言ってしまってすまんの。じゃが、ああいうタイプは、見かけは強気でも内面は脆い事が多い。お前さんが家庭をほっぽらかして武芸修行の道に入れば、かつて結婚に反対していた親族は、『それみたことか』と、こぞって奥さんを非難する事じゃろう」
センガは一旦言葉を切って、一口茶を啜り、
「そうなると、奥さんは精神的に追い詰められてしまいかねん。人は追い詰められると何をしでかすか分からん。じゃから、その前に手を打とう。そのハーフェンじいさんとやらは飲める口か?」
「はい。屋敷の地下倉庫に、古今東西の名酒を集めている位です」
ザントの言葉に、センガは目を輝かせ、
「そりゃ、大いに結構。すぐ奥さんに言って、そのじいさんにワシと会う約束を取り付けてくれ。何、国家的英雄『勇者』ヴォーンの代理人と言えば、この国で会わない財界人はおらんじゃろ」
「どうするおつもりで?」
「お前さんの武芸修行を、親族公認にしてやる。ギィ、すまんが、ワシの秘蔵のコレクションから、『二打不要』と書かれた徳利を取って来てくれ」
ギィが酒を取って来る間に、ヴェレが祖父ハーフェンに電話してすぐに話が付き、ヴェレ、ザント、センガ、ギィの四人は、ヴェレが乗って来た自家用ヘリでノイン家へと向かった。
「ワシがじいさんとサシで話を付けて来るから、お前らはどこか別の部屋で待っておれ。これだけの屋敷じゃ、どうせ部屋はたくさん余ってるんじゃろ?」
屋敷に到着するとセンガは三人にそう言い残し、手に例の徳利をぶら下げて一人、執事に案内されて応接室に入って行った。
重厚な装飾の施された室内には、八十歳位に見える、痩せてはいるが矍鑠とした、白髪で白髭の老人が待っていた。
「お前さんの孫娘の事で話に来た。こいつをやりながら相談したいんじゃが、どうじゃ?」
センガが徳利を持ちあげて示すと、ハーフェンは全てを了解した様に深く頷き、
「よし、肴を用意しよう」
すぐに酒の肴が用意され、さらにハーフェン所蔵の名酒コレクションからも五、六本ほど追加される。
それから三時間後、二人の酔っ払いジジイが、すっかり意気投合した様子で肩を組み、ふらふらしながら応接室から出て来た。
「最近の若者は気概が足りん!」
「ワシが会社を興した時、明日の保証なんて何も無かった! が、大きな夢だけはあった!」
「夢を追わずして何が男じゃ!」
「安定志向など、愚者の妄想に過ぎん!」
こうして、ザントの武芸修行はノイン家公認となった。




