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ザントはとりあえず二年間、ヴォーンの道場で修行する事を許された。そしてその入門に際し、センガ老人は一つの条件を付けた。
「最低でも二週間に一度は、奥さんと子供と直接会うことじゃ。お前さんはもう家庭を持ってしまった以上、私的な理由でそこから逃げる事は許されん」
「しかし、道場から我が家までは遠過ぎます。限られた入門期間ですが、移動だけでかなり時間を浪費してしまいます」
「奥さんの実家の自家用ヘリを使える様、ハーフェンと話を付けた。それでお前さんが家に帰るなり、奥さんが子供を連れてここへ来るなり、好きにせい」
「そこまで妻の実家に迷惑を掛ける訳には」
「それを言うなら、お前の入門自体が一番迷惑をかけておる。これはお前さんの武芸への熱意を汲んでの、破格の処置じゃ。済まないと思うなら、この二年間しっかりと修行せい。そして二年後、自分なりに納得の行く結論を出せ」
ザントはセンガに深々と頭を下げ、
「今回の件では、個人的な事情にも拘わらず、何から何までお世話になってしまい、本当に申し訳ありません」
センガはそれを聞いて高らかに笑い、
「何、偉そうな事を言ったが、タネを明かせば、ワシも時々そのヘリに同乗させてもらうつもりじゃ。ハーフェンは中々良い酒を持っておる様じゃからの。良い酒は死蔵せず、飲む奴が飲んでこそ価値があると思わんか?」
こうしてセンガは度々ノイン家を訪れ、ハーフェンと飲み明かす様になった。
一方道場では、妻子持ちのザントが入門した事で、他の門下生達にも影響が出て来た。
ヴェレが幼い息子リーガを連れてザントに会いに来た時など、門下生達はそれを遠くから眺め、
「可愛いもんだな、小さい子供ってのは」
「ああ。まだ三歳だとよ。小動物みてえなもんだ」
「ザントは、今確か二十三だよな」
「俺やお前らより下だ」
「って事は、俺達にも、あの位の子供がいてもおかしくねえんだよな。普通なら」
「やめろ。何かすげえ悲しくなって来る」
「ほら、あれだ、あいつは結婚が早かったから。十九か二十位だったと聞いたが」
「ますます悲しくなってきたぞ。どうしてくれる」
門下生達はナーバスになっていった。
「いや、あいつは早過ぎだろ。晩婚化が進んでるから、俺達も後十年は余裕が」
「十年後に結婚相手がいると思うか?」
ナーバスが加速していく。
「十年後に、俺達何してるんだろうな」
「今と同じ事してるんじゃねえかな。それ以外の未来が見えねえ」
ナーバスの余り、とうとうその日は稽古どころではなくなった。




