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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆19◆

「まったく、下戸という奴は恐ろしい事を考える。ワシャ生きた心地がせんかったわ」

 

 村に戻ったセンガは、郵便局の待合スペースに集う村人達に、ヴォーンの結婚式での顛末を語った。


「それはセンガさんが悪い。ギィ君が怒るのも無理もないわ」


 おばさんの一人がそう言うと、その場にいた皆が一斉に笑う。


「なんじゃ、皆あやつの味方か。寂しいのう」


 センガは少しすねた振りをしてみせた。


「そんな事より、ヴォーンさんのお嫁さん、どんな人だったの? 綺麗な人?」

「製薬会社のお嬢様って話だけど」

「こんな田舎暮らしで我慢出来るかしら」


「容姿については、ほれ、式当日の写真を何枚か持って来たから、皆で回して見てくれ。なかなか可愛らしい顔をしとるじゃろ」


 池に投げ入れたパンくずに鯉が群がり集まる様に、センガが渡した写真におばさん達が一斉に群がった。


「あらほんと、目がぱっちりしてて、可愛いじゃない」

「でも、あまりお嬢様っぽくない感じね。もっと髪フワフワなお人形さんみたいなのを想像してたけど」

「二十二歳だか三歳だかにしては少し幼いわね。十代に見えるわ」

「こうして並ぶと、ヴォーンさんが犯罪者に見えるわね。そういう趣味だったのかしら」


 おばさん達は、鯉の様に口をパクパクさせながら言いたい放題だ。


「式が始まる前に、少し話をする機会があったんじゃが、中々どうして、病弱なお嬢様にしては、心根のしっかりした娘さんじゃった」


「意外ねえ。写真で見る限り、むしろ少し弱々しい感じだけど」

「案外そういう子が、気が強かったりするのよ」

「アタシのとこの甥っ子の嫁がそれだわ。別居して正解だって、姉がうんざりした様に言ってたわよ」


「はっはっは、単に気が強いのとは、ちょっと違うかも知れん。その娘さんの目を良く見てみい。いかにも腹が据わった感じがせんかの?」


「そうかしら? そんな感じはしないけど」


「写真じゃと分かりにくいか。こういう目をした武芸者は怖い。どんな最悪な状況でも平常心を乱す事なく、最善を尽くせるからじゃ。体が弱くなければ、最強クラスの武芸者になれたろうに。惜しい話じゃ」


「武芸者にしてどうすんのよ」


 おばさんのその一言に、郵便局内は再び笑いに包まれた。

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