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逃げ足道場 外伝 ~昔々、山奥の道場で~  作者: 真宵 駆
◆第一章◆ 仙人の眠る場所

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◆18◆

 その後結婚式は無事終了し、センガとギィと門下生達は、宿泊している部屋に戻っていた。


 かつて不世出の達人と謳われた武芸者であり、現ヴォーン道場特別最高名誉永世エグゼクティブ師範ことセンガ老人は今、約八十歳年下のギィ青年に説教されている。


「ここにいる皆さんは、二週間ずっとこの日の為に、一生懸命練習を重ねて来たんですよ。それをあなたと言う人は!」


 普段温厚なギィが、珍しく激しい剣幕で怒っていた。

 

「あー、いつまでも過ぎた事をグダグダ言うでない。それに会場は大盛況じゃったろうが。結果オーライじゃ」


 いたずらをして叱られている犬が飼い主から目をそらす様に、センガ老人はギィから目をそらしながら言う。


「盛況なら良いと言うものではありません。今までの努力を無駄にされた、門下生の皆さんの気持ちを考えてください」


「ああ、分かったよ。おい、お前ら」


 センガは、門下生達の方を向いて、


「今日は悪かったのう。許せ」


「それだけですか!」


 センガのあまりの態度に、ギィが怒鳴った。


「まあまあ、ギィよ。俺たちゃ、別に怒ってねえから」

「じいさんの言う通り、結果オーライだ。客も皆喜んでたじゃねえか」

「そりゃ、二週間の努力がパァになったかも知れねえが、それはそれでいい稽古になったし、中々面白かったぜ」

「どうせまたすぐに、村でお披露目会があるんだろ? その時の余興でやりゃあいいさ」

「もうその辺で、ご老人を許してやってはどうだ、ギィ?」


 門下生達がギィを宥めようとする。


「皆さん、この年寄りを甘やかさないでください。一事が万事、叱る時は叱っておかないと、また何かやらかしますから、絶対に」


「さっきから聞いておれば、お前は師に対して何様のつもりじゃ。もうちょっと言い方というものが」


「師は弟子に模範を示す者ですが、今日の放埓な振舞いのどこに、師としての模範があったのか、是非お伺いしたいものです」


「よかろう。まず第一に、状況の変化に対して、最初の方針に囚われず柔軟に対処した。これは良い模範じゃろ?」


「その状況の変化も、元はと言えば、師が泥酔した事が原因なんですが」


「第二に、武芸者として難易度の高い技を見事に成功させ、祝賀の席に華を添えた」


「その技を披露する際の、支離滅裂で礼を失した態度は、祝賀の席に相応しいものとは到底思えませんでした」


「第三に」


「何より、そうやって見苦しく言い訳を並べ立て、全く反省しようとしない所が最悪です」


『ああ、うるさいうるさいうるさい! 言えと言ったのはお前じゃろが! そんなにワシが悪いか!』


 ついに、センガは自国語で逆ギレし出した。


『今日の行いがどうこうと言うより、そうやって、自分が悪いと思っていない所が一番悪いのです。過ちを過ちと認めないことが一番の過ちだと、古の聖人も仰っています』


 ギィも自国語で説教を続ける。


『知った風な口を利きおってからに。武芸者の癖に理屈ばかり達者な奴は大成せんぞ』


『どうしても反省しないと言うのなら、こちらにも考えがありますが』


『ほう、面白い。そう来なくっちゃならん。理屈でなく実際に行動する方が、武芸者に相応しい態度じゃ。まあ、お前如き若造に叩きのめされるワシでは』


『帰ったら、老師秘蔵の酒コレクションを全てドブにブチ撒けます』


『すみませんでした。反省します。ワシが全面的に悪かったです』


 若造に三秒で叩きのめされたセンガ老人だった。

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