◆17◆
「酔うにはまだまだ酒が足りん。おい、今日の主役、色男、幸せ者、『勇者』ヴォーン、お前もちょっとこっち来て手伝え。開けてないビール瓶を一本持って来い」
そのいささか品性に欠ける酔っ払いの呼び出しに応じ、メインテーブルから立ち上がったヴォーンが、開栓されていないビール瓶を持って、センガの所までやって来た。
「その瓶はまだ開けてないな? よし、じゃあそれを頭の上に、こう、立てて持ってろ」
ヴォーンは言われるまま、ビール瓶を両手で支える様にして、自分の頭上に立てた。
「さて、今日ここに集まった皆さんは運がいい。なぜかと言うに」
そう言って、センガは突然大きく跳躍し、ヴォーンが頭上で支え持つビール瓶の上端に、鋭い蹴りを入れた。
コンッ、と鋭い音がして、会場の天井に、ビール瓶の王冠が叩き付けられる。
センガは着地して、落ちて来たその王冠を、パシッ、と手でつかみ取り、
「ワシは、滅多に人前でこの技を披露しないからじゃ! おい、ヴォーン、その瓶を皆に良く見せい」
ヴォーンはビール瓶を高々と掲げ、会場内の来賓達に見せた。
瓶の先端に被せてあった王冠が、今はもう無くなっている。
再び会場内に、どよめきが起こる。
センガは、ヴォーンから瓶を受け取り、そのままラッパ飲みで一気に中身を喉に流し込み、
「ぷはっ、ビールなんぞ、酒の内に入らんわい」
「もう祝辞関係ねえな」
門下生達が驚くやら呆れるやらで見ている前で、センガはペタンと床に尻もちを付き、瓶を持ったまま大の字に引っくり返ってしまった。
ギィは慌ててセンガの元に駆け寄り、その体を支え起こしながら、手にしたマイクに向かって、
「以上の演武をもちまして、祝辞と代えさせて頂きます。道場生一同、お二方のお幸せを心よりお祈り申し上げます」
盛大な拍手の中、センガはギィに背負われて退場した。門下生達も、手早く道具を片付けてから、その後を追う。
と、来賓達の中から、一人の男が興奮した表情でギィの元にやって来て、
「失礼ですが、もしやこの方は、二年前に放浪の旅に出たと言う、あの不世出の達人と謳われた」
「あっははははは、人違いじゃ。ワシはただの酔っ払いジジイじゃあ!」
ギィに背負われながら、センガが陽気にわめく。
「しょうがねえな、このじいさんは」
門下生達は、互いに顔を見合わせて笑った。




