◆14◆
「ふむ、これはあまり面白くないか。オチとしては、いささか弱いかのう。皆、何かもっと良い案はないか?」
センガ老人は、静まり返ってしまった空気の中、困惑した表情で門下生達に問い掛ける。
「いや、じいさん、そういう問題じゃねえって!」
「トリックだよな? 予め瓶に細工してあったんだよな、な?」
「瓶切りって、そんな風にスパッと切れるもんじゃねえだろ。もっと下のくびれた所で、ギザギザに割れるから!」
我に返った門下生達は、一斉に椅子から立ち上がり、センガの回りに群がる。その中の一人が、切断された瓶の口の部分をテーブルからつまみ上げ、その鋭利な切れ口を、信じられないと言った目でしげしげと見つめた。
「何じゃ、お前らの中で瓶切りやる奴はおらんのか。こういうのは好きそうじゃと思っていたが。見ての通り、種も仕掛けもありゃせんわい」
「信じられねえ。油をしみこませた紐巻いて、火ィ点けて、水ぶっかけて、ヒビ入れたんじゃねえのか?」
「疑り深いのう。じゃあ誰か、裏口に置いてあるケースに空き瓶が入ってるから、そこから一本取って来い。もう一度切ってやる」
門下生の一人が食堂を飛び出し、すぐに二十本入りケースごと抱えて、センガの元に戻って来た。
「一本でいいと言ったろうに。まあいい。その中から一本取り出して、ヒビが入ってないか良く確かめてから、テーブルの上に置け」
その門下生は言われた通りに、空き瓶を一本取って注意深く調べ、何の細工も無いことを確認してから、テーブルの上に立てた。
「よし。そうしたら、こうやってスッと」
そう言って、センガが手刀を瓶に対して水平に振りぬくと、先程と全く同じ様にして、瓶の上部が切断されて落ちた。
門下生達から感嘆の声が上がる。
センガは、熊の様な顔と図体をした門下生に向かって、
「熊、じゃなくてレット。特にお前なんか、こういうの得意そうな印象があるんじゃが」
「確かに、瓶は何度か挑戦した事がありますが、成功した事はほとんどありません」
レットはケースの中から空き瓶を一本取り出して、テーブルの上に置き、
「そっちは危ないから、ちょっとどいてくれ」
そう言って、自分から見て左の方の人払いをしてから、右手を手刀の形にして、何度か瓶の首に軽く当てる仕草をした後、それを高々と掲げ、
「ヤァッ!」
気合と共に、瓶の首に水平に勢い良く打ち付ける。
打たれた瓶は縦に急回転しながら吹っ飛び、そのまま壁に衝突して粉々に割れた。
「失敗です。よしんば成功したとしても、こんなに鋭利な切り口にはなりませんが」
レットは、川で魚に逃げられた熊の様に、がっかりした表情になった。
「これはこれですごいがの。じゃが、馬鹿力だけでは瓶は切れん。特に置いただけの空き瓶はな。最初は何かで瓶を固定してから練習するといい。その際には」
センガの言葉を無視して、既に門下生達は各々空き瓶を取り出し、勝手に瓶切りに挑戦していた。
あっちでガッシャン、こっちでガッシャンと、瓶が切れずにただ割れる音だけが響く。
「くそっ、切れねえな」
「もう空き瓶ねえのか。ちょっと、裏口へ行って取って来る」
「空き瓶より、栓がしてある方が切り易いかもしれねえな。重いから安定してるし」
「こらこら、もったいない事をするんじゃない! まずは空き瓶だけ使え。第一、慣れてない奴がいきなり瓶切りに挑戦すると、上手くいったとしても切り口で手を切るぞ。最初は布を巻くなりして慣らさんと」
「うわっ、手ぇ切っちまったぁ! 血がすげえ出てる!」
「お前ら、行動する前に、ちっとは人の話を聞け」
センガは呆れた様に笑った。




