◆13◆
「そんな訳で、近々ヴォーンの結婚式が首都で行われる。ワシもこの道場を代表して出席する予定じゃ。『ヴォーン道場最高名誉師範』とか何とか、適当に役職をでっち上げてな」
寮の食堂に門下生達を集め、センガ老人が説明をしている。
「もちろん、ワシはそこで新郎を持ち上げるスピーチをする。『政界から身を退いた後、かの勇者ヴォーンは、その称号にふさわしく、武芸を通じて、この国の将来を担う若者を育成する日々を送っています』、と言う具合にの」
「大嘘じゃねえか。俺たちゃ、あいつに育成された覚えはねえぞ」
門下生の一人が抗議し、他の者達がどっと笑う。
「めでたい席で馬鹿正直に、『新郎は現在、道場主とは名ばかりで、門下生に指導らしいことは何もせず、日がな一日ぶらぶらしながら暮らしております』、などと言えるか。どうせ出席者も、お前らがここで何をしようと知った事ではないわい」
「まあ、そりゃそうだ」
「ただし、スピーチだけではインパクトが弱いので、場を盛り上げる為に、ちょっと武芸者ならではの演出も加えてみようと思う。この中から、五、六人ほど、ワシと一緒に来て手伝え」
「待て、じいさん。俺たちゃ、そういう堅苦しい席が死ぬ程苦手なんだ。そういう場所に三十分いる位なら、ここで十時間サンドバッグを打ち続ける方が、よっぽど楽だ」
「そんな事は分かっとる。お前らの出番は十分足らずで済むから安心せい。余興として、試割りを披露するんじゃよ」
「板とか瓦とかブロックとか割るのか」
「いや、ここはもっと派手に『氷柱割り』をやろうと思う。こう、長さ一メートル位の太い角材みたいなでかい氷を、間にレンガを挟みながら、いくつか段重ねに積んで、上から一気に手刀や拳で破壊する奴じゃ」
「ああ、アレか。確かに派手だな」
「ワシがスピーチで、『若い二人のこれからの人生に、どんな困難が立ちふさがろうとも』、とか言って合図する。そこでお前らが、氷柱をバキバキと叩き割り、ワシはこう続ける。『力強く乗り越えていかれることでしょう』とな。どうじゃ?」
「上手いな、じいさん。いいと思うぜ」
「そうと決まれば、氷屋に氷柱を発注する。それでコツを掴むまで練習じゃ。単に稽古としても、面白い趣向じゃろ」
センガの提案に門下生達は、新しいおもちゃを与えられた子供達の様に、目を輝かせ始めた。もし当日までに、誰も割る事が出来なかったらどうしよう、などと心配する者はここには一人もいない。
「それともう一つ、氷柱の様な大がかりなものだけでなく、その場にある物を使った試割りもやってみようと思う」
そう言ってセンガは、空のビール瓶をテーブルの上に置いた。
「これは空き瓶じゃが、当日、式場にはまだ栓を抜いてないビール瓶がたくさんあるじゃろ? そいつを一本拝借して、テーブルの上にこう立てる。で、ワシのスピーチが終わりに近づいたら、また合図するから、お前らはこの瓶の口を、手でこう切って」
センガは右手を手刀の形にして、軽く上に持ち上げ、そこからビール瓶の首の辺りをめがけて、素早く水平に振り抜いた。
ピキ、という短く鋭い音がして、ビール瓶の上端が、口から約三センチほど下の所からきれいに切断され、ふわりと宙に浮かび、コト、と音を立ててテーブルに落ちる。
上部を切り取られたビール瓶本体は、その場に立ったまま、微動だにしていない。
「ワシはその中身を一気に呑み干して、祝いの言葉でスピーチを締めくくる。こういう演出はどうじゃな?」
門下生達は、誰もその演出の良し悪しを評価しようとはしなかった。
センガ老人が、彼等の目の前で、いとも無造作にやってのけた、その信じがたい技に、ただただ驚愕していた。




