第八話:人間が生まれたら殺しにいくとか
『お、天然オカマだ。おもろw』
『うわ、ちょっとこっち見ないで』
『男でそれ?』
「おう、久しぶりにこれ見た~」
ここは夢の中。
すれ違いざまに色んな学生が何かと罵ってくる。
「あ、今日は体が前世のやつだ」
やけに目線が高いと思って体を見て見れば、とても見慣れた中学の男子制服と前世の体が目に入る。
「別に、可愛いから良いでしょー」
前世の中学生の頃は、髪型をボブにしていた。割と見た目には気を使っていたから、結構可愛かったはずだ。
高校生の途中から見た目に気を使うことは無くなり、そこからは色々と酷かったが。
「はぁ、どうにかならないかねぇ~」
最近はやけに悪夢を見る。これは長い期間寝ているのが影響しているのだろうか?
ともかく早く夢を変えよう。
そう思いネヨウは夢を操作する。
景色が徐々に変化していく。
「あー?」
だが、どうやら失敗したらしい。
場所は実家。目の前には見知った顔の男女が二人、一人はちょっと久々だ。
その二人はこちらに体を向けて言う。
『醒那、似合ってるな~』
『かわいいー!』
(はいはい)
「いつもの草原」
すぐさま夢を変え、今度は成功。
夢は緑豊かな平原へと変化した。
「かわいい、ね。あの時は良かったのにね~」
そう、小学校入学前までは、あれが無ければ。
過去の夢ばかり見るのは、そういう未練があるからなのかもしれない。
「お目覚め」
しばらくして、緑の世界が黒に染まり始めた。
そろそろ夢から覚めるらしい。
「はぁ……」
先程の悪夢が胸に残る。
もう過ぎたことだけど。
「何で死んじゃったのさ」
「パパ」
夢の中に蟠りを捨てるようにそう言葉を吐き出した後、ネヨウの意識は覚醒した。
「んぅ~」
土の匂い。ふさふさとした何かの感触が沢山。
目を開く、するとそこには緑。
「……草?」
それが草だと理解するのに、あまり時間はかからなかった。
「ピーピー!」
「キャーキャー」
「ギャアギャア!」
「うん?」
周囲から音、色んな鳴き声が聴こえてくる。
ネヨウはもしやと思い、体を起こして周囲を見渡す。
「動物……!」
そこはまるでジャングルの中のようだった。
見渡す限りに木々が生い茂り、中には鮮やかな花を咲かせていものもある。
そして、特にネヨウの注意を引いたのが、こちらを見ている様々な動物たち。
動物は小動物が多い。
「オハヨウ! オハヨウ!」
左上から甲高い片言言葉が発せられる。スヤスヤ君も起きているようだ。
「おはよう、スヤスヤこれは何があったか分かる?」
ネヨウが起きても、動物たちは逃げ出さない。それどころか、中には近づいてくるものも居る。
一体何があって植物がこんなにも生い茂り、動物たちが周囲にいるのか。
何となくスヤスヤに聞いてみることにした。
「シッテル!」
そうしてスヤスヤは片言で語り始めた。
スヤスヤの話を要約するとこうである。
ネヨウは数億年寝ており、その間に植物と動物は誕生した。
豊穣の女神であるネヨウの影響によって、地上の植物は割と早めに誕生し、それに呼応するように動物たちも誕生して、進化を遂げてきたとか。
動物が周囲に集まっている理由は、神のネヨウの近くが一番安全で、且つ植物によって食料が充実しているから。
どうやらネヨウの近くは特に植物が多いらしい。流石豊穣の女神なだけある。
そんなこんなで今の状況になったという。
「へー、ありがとうスヤスヤ」
「ドウイタシマシテ!」
スヤスヤは、当然!といったようにスズランを揺らして言葉を返した。
「あ……リス? いやモモンガみたい」
するとそこで一匹の小動物がネヨウの足元までやって来た。
その姿は典型的なリスやモモンガを想起させるもの。全体的に茶色い毛並みを持ち、羊が持っていそうな毛で出来た丸い綿が、角の代わりのように付いている。
(かわいいー)
「おいで~」
ネヨウは久々の動物に触れたく、その小動物を手で招く。
「キュイ……」
恐る恐ると言った様子でモモンガ擬きは更に近づいてくる。
ふむ、前世でのモモンガやリスとは違う。なら呼び名をここで決めるとしよう。
「……君はこれから【モリス】ね」
これではどちらかと言うと名づけだが、まあ呼びやすければいい。
由来は言うまでもなく、モモンガとリスの組み合わせである。
この雑さは流石ネヨウと言ったところ。
「キュイ!」
名前を付けられたと理解しているのか、モリスは先程よりも元気のある鳴き声を上げて、ネヨウへと駆け足に近づいて来た。
「おー」
そしてネヨウの腕を伝って肩、そして頭へと飛び移った。
「チョット! ココハボクノバショ!」
「キュイキュイ!」
頭には先客が居る、スヤスヤとモリスは口喧嘩を始めた。ネヨウの耳は前世と違い少し上にあるため少々うるさい。
「喧嘩しないでね、スヤスヤは左耳近くって決まってるの、定位置が欲しいならモリスは真ん中とか、先客に配慮してね」
「キュイ……」
頭上から、どこかしょんぼりした鳴き声が発せられた。やはりモリスは言葉を理解できてるらしい。
と、ネヨウがそんなことを考えていると。
「ギャーギャー!」
「ガアガア!」
「ピーピー!」
先程までモリスの様子を眺めていた動物たちが続々と寄ってきた。鳥、兎のようなものや犬、猫のようなものまで沢山だ。
「みんな仲良くしてくれるの? やったー」
ほとんどを寝ていたとはいえ、今まで世界は静かであった。確かにそんな世界でネヨウは自由という名の解放感を感じていた。
だがこうして動物たちの鳴き声に包まれることにも別の解放感があり、別の心地よさがある。
静かな世界の寂しさも感じない、かと言って前世の地球のように騒がしすぎるわけでも、人間関係のように難しいものがあるわけでもない。
(あれ? もしかしてこの時代が最高?)
人間なんていなくても、もういっそのこと動物達とだけ過ごそうか。人間が生まれそうならそれを殺しにいくとか……冗談。
そんなことを一瞬考えるぐらい、今の状況が最高に心地の良いものだとネヨウは感じられていた。
「えーとじゃあ君は……」
そんな思考はさておきと、ネヨウは次々と近寄ってきた動物たちに名前を付けていった。
様々な動物に囲まれ、微かに笑みを浮かべてその動物たちに話しかける白髪翡翠眼の儚い獣神美少女。
それはこの世のものとは思えない神秘を醸し出していたのだが、生憎とそれを見て反応する知的生命体は、まだこの世に誕生していなかった。




