第六話:マグマ睡眠のレビュー、必要な人いますか~?
◇ ◇ ◇
「はぁ……」
コーヒーの入ったマグカップを両手に持ちながら、創造の女神ことルーラは、大の字で寝ているネヨウが映るモニターから視線を外してため息を吐いた。
「柄にもない……いえ、その逆なんでしょうかね」
三億年ぶりのネヨウとの会話。
今回久々に感情を動かすことが多かった、主にネヨウのツッコミの際にだが。
何故だか繕っていた態度もメリメリ剥がれていくし、最後の辺りでは言うべきではないことも口にしてしまった。
自分が人と話すのが苦手なのか、ネヨウの性格の問題なのか。
「はぁ……」
暇つぶしに、元人間の神とその世界の移り変わりを観察しようと、面白そうなネヨウを転生させた。
だが、ここまで面白いとは思わなかったのだ。
人間として生まれ育ったはずなのに、神になって早速三億年も眠り、そのことに動揺もしない。
そしてルーラは久々に他者との会話にも楽しいという感情を抱いてしまった。
「私はただ観察を楽しむだけのつもりだったのですがねぇ……」
人と、ネヨウと親しくするつもりは無かった。万が一にも気に入ってしまったら、きっとその存在が死ぬことに……今度は耐えられないかもしれない。
大切な存在が死去した時、自分なら転生をさせたり、ネヨウにやったように不老にでもして生きながらえさせる。
だけどそう、転生を希望せず、消えたいと願う存在もいる。その要望を無視して好きな人間に"嫌われたくない"。
ネヨウの場合は特に思入れも無く、嫌われても問題ないと、いや嫌われること前提で自身の暇つぶしに使った。
だけど、もしこれからネヨウを観察対象としてではなく、"人"として気に入ってしまった場合……。
『ルーラさん、僕の死を認めてくれないかい?』
あの"人"の言葉、声が呼び起される。
それはいつまでも経っても忘れることができない人のもので……。
「あぁ全く、なんて臆病で人間らしい悩みでしょうか……」
創造の女神にも悩みあり。
ルーラは何度目か分からないため息を吐いて、再びモニターに視線を戻した。
◇ ◇ ◇
(うーん、何だか背中がふわふわ、揺れてる、音も……)
柔らかな何かに乗って仰向けになっている感覚、そして不規則に体が揺れ、周囲からは波のような音が……。
それを自覚した時ネヨウの意識は覚醒した。
「わ、ここは……」
視界いっぱいに広がっている濁った橙色。雨はまだ降っているのかたまに目に水が入ってくる。
「……ってここ、なに?」
視線だけで辺りを見渡すが、視界には空とこれまた濁った茶色い地面、いや周囲の音と合わせて波が立っているから地面ではなく液体だろうか。
もっと辺りを見渡そうと、ネヨウは姿勢を変えようとする。
「あぁ、体勢が~」
しかし、足が液体の中に入らない。
ならばと座る体勢を取ろうとするも、茶色い液体が揺れているためすぐさま元の仰向けに転がされる。
「むー、でも周囲には何も無さそう」
体勢を変えることは早くも諦めたネヨウ。
仰向けの状態で見る限りでは橙色の空と茶色い液体以外は何も見えない。
「これって海かな~?」
こんなに広範囲に液体があるものは、前世での海しか思い当たらない。そして空からは今も雨が降り続けていることからこの雨が溜まってできたと考えられる、前世の海も確かそんな感じで出来ているだろう。
ちょっと汚すぎる気もするけど。
「……うん、きっとそう。寝起きの僕ってば天才」
ネヨウは寝起きが一番調子がいい。その時だけは全ての機能が中学生レベルにまで引き上げられるのだ。
ちなみに普段は小学生、たまに幼稚園児である。
「そうとなると僕にできることは寝ることしかないね~」
いや、豊穣の力などを使って足場を作るなどできるだろう。だが流石ネヨウ、そんなことは頭から抜け落ちている。
「起きたばっかりだし、ここのレビューでも」
前回のレビュー書きが思いのほか楽しく、ネヨウはこれを趣味にでもしようかと考えていた。
「いつか【ネヨウの睡眠レビュー集】って感じで、出そう……!」
それを実現するにはどこかに書き記しておく必要がある。そのため、ネヨウは脳内可視化を応用して脳内に一つのノートを作成した。
睡眠の事となると手際が良いネヨウである。
だがネヨウは当たり前のことに気づいていない。豪雨の中の睡眠や、この明らかに体に悪そうな海での睡眠のレビューは、誰も必要としないであろうことに。
いや、ネヨウなどの睡眠好きや、永眠希望者ならあるいは。
「あ、マグマ睡眠のレビューも書かないと」
果たして将来【ネヨウの睡眠レビュー集】は発行されるだろうか、そしてそれを手に取る者は現れるのだろうか。
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【ネヨウの睡眠レビュー集】
あれこのノート、星が『☆』と『★』しか書けないや。
まあ細かいレビューが書けないけどよろしく~。
『マグマ温泉睡眠』
【★★★☆☆:熱いのに強い人にはおすすめ~】
色々と慣れるのに時間が掛かる、けど慣れれば意外と心地いい。
物凄く熱いから、サウナみたいに汗を沢山かいて健康的かもしれない。
熱いのに強い人には特におすすめ、でも逆に熱さが苦手な人にはおすすめじゃないかも、よって星三としました~。
『温かい天然シャワー睡眠』
【★★★☆☆:独特なマッサージ】
全身をほぐしてくれる雨粒マッサージが魅力。おまけで付いてくる睡眠用BGMが更に味わい深くしてる。
でもBGMと空気の湿気は人によっては気になるかも。
ついき:寝心地の悪い海に流される可能性があるから、星三~。
『体が沈まない茶色い海睡眠』
【★☆☆☆☆:面白さはある】
体が全然沈まない、弾力がある面白い海。
でも液体が濁っててあんまり綺麗じゃないし、常時揺れてるし時々波に飲まれる。できることは無いし、それにほんの少し体がヒリヒリする。
色々と睡眠に適さないと感じた。よって星一~。
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「こんなもの……だね」
脳内のノートに今までの睡眠レビューを書いたネヨウは、ノートをしまい、意識を外へ戻した。
「さて……」
視界には相変わらずの汚い空と海。ずっと揺れてるし雨が目に入ってきて少し鬱陶しい。
ここからネヨウにできることはない——と本人は思っている——。
「……寝よう」
よって寝るのである。
「今度はどこで起きるかなー」
願わくば、寝やすい場所へ。
「おやすみぃ~」
そうしてネヨウは目を閉じた。
その後、波の音や揺れで中々寝付けなかったが、ネヨウはゆっくりと時間をかけて意識を落としていったのである。
おやすみ。




