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てぃーえすすいみんらいふ  作者: ぬい葉
第一章:女神の放浪

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第四話:説明が長くて難しい……

 ◇ ◇ ◇



 夢を見た。


 母に暴力を振るわれる。

 可愛らしい服を着た、前世の幼いネヨウは頭を抱えて蹲っていた。


(……書き換えっと)


 今まで何度も行ってきた明晰夢で望む夢の形に。


 世界が忌み嫌う記憶(実家)から大草原に移り変わる。


「羊さんたち~」


「「「メェー」」」


 ネヨウが大草原に転がり呼びかけると、それに応じるようにどこからか無数の羊が現れ、ネヨウの周囲で羊たちはそれぞれが眠る体勢を取り始めた。


「夢、ね~」


 視界には澄んだ青の空が広がっている。

 こんな景色は夢の中でしか見られない。


「……あ、姿が変わってる」


 ふと、今自身が猫耳女神の姿であることに気が付いた、先程までは前世の姿だったのに。

 見慣れない姿のこれが今夢に出てくるのは、一度脳内でこの姿を可視化したからだろうか。



「なんて、どうでもいいよね~」


 ただそんなのは酷くどうでもいいことだ。


 ただただ、いつも通りつまらない。明晰夢など、慣れた今では新鮮味も無い。


 夢もそろそろ閉じるとしよう。


「じゃあね、羊さんたち~」


「「「メェ~」」」


 自身の創り出した幻の羊たちに気の抜ける挨拶をして世界を閉ざしていく。

 世界が段々と暗闇に包まれていく、羊たちもこの暗闇を感じているのだろうか、それとも夢の世界は存在していて、その世界でネヨウの意識が落ちようとしているだけなのだろうか。


(まぁ、どうでもいいよね~)


 こんなに自暴自棄気味なのは多分夢のせいだろう。


 そんなことを思いながらネヨウの意識は消えていった。




「うーん?」


 目覚めた感覚。

 しかし目を開けたはずなのにネヨウの視界は未だに真っ暗。

 まだ夢の中なのだろうか? いや、これはちゃんと起きているはず。


「う、動けないし」


 だが体も固められたように動かせない。


(あー、あれかな~)


 そこでネヨウは原因を理解した。

 これは脳が起きていて体が起きていないやつだ、と。


 こういうのは全身を動かそうとせず、指先など小さな筋肉から動かしていくと良いはず。


 なので長らく右手の人差し指を動かすことに集中していたのだが。


「動かなーい」


 どうしよう、全く動かないじゃないか。


「って……声は出てるじゃないかー」


 そういえば、感覚でだが目も開けられている。

 じゃあ一体これは何なんだろうか。


 呑気な頭のアホの子、ネヨウが考えても答えは出ない。


「こういう時は、とりあえず無理やり動かしてみる」


 作戦その1、脳筋戦法。

 脳筋と言うが、ネヨウの脳はきっとスカスカの綿(わた)で出来ているだろう。ということで脳綿(のうめん)戦法。

 いや、毛布はポリエステルが好きだから『頭がポリエステルな戦法』とでも言うか。


 作戦2、そんなの存在しない。


「ふぬ、ぬ……うおー」


 やる気があるのか疑わしい声を上げながら、全身力むネヨウ。


 すると……。


 ——パリ、ボコボコ、コロコロ


 そんな感じの音が全身から鳴り響いた。


 いや、これは自身を固めている()()の音か。

 その証拠に音が鳴るごとに次第に体が動かせるようになってきた。


 あと少しで何かから抜け出せるような気がする。


「お、腕が自由になった。あ……足も~」


 そうして次々と体が自由になっていき『頭がポリエステルな戦法』は成功に終わったわけである。



「なるほど」


 ネヨウは改めて自身を固めていたものを触り、その正体に気づいた。


 岩石だ。


「そういえば、マグマで寝てたもんね」


 マグマは固まると岩石になったはず。ならこの状況にも納得である。


 この暗さも、植物の建物の中で光源だったマグマが固まって、光を発さなくなったから。


「今日の僕は頭が冴えてる……ね」


 それはそうと、いつまでも暗いのはどうにかしよう。


「豊穣の力ってやつを使ってみよう」


 自分で作った植物の建物だ、消すこともできるだろう。


 そうしてネヨウは豊穣の力を行使する。


「……慣れ?」


 体感前回よりも使いやすくなっているそれ、慣れなのか創造の女神が何かしたのか。


 ネヨウは感覚で植物の建物を消していく。文字通り消す。


「全く、不思議な力だね~」


『そうですか?』


 何でもなく呟いたところ、突然脳内から女性の声で返答があった。


 この声は……。


「!……でた、想像の眼鏡(めがね)!」


『創造の女神の【ルーラ】です。何故ふざけているのですか?』


 ネヨウのボケにツッコミを入れる創造の女神ことルーラ。声には以前よりも少し張りがある気がする。


 そんなことを考えていた時、ネヨウは植物がすべて消えた感覚を感じ取った、が辺りはまだ暗いままだった。


「ねぇ、なんで明るくならないの~?」


『雨降って地固まる(物理)ですよ』


「雨降ってチ○コ固まる(物理)?」


『あなたそんなキャラでしたか?』


「違うよね」


 おかしい、いつもはこんなテンションじゃない。


「暗いから深夜テンション……か」


 恐らく違うだろう。


 まあ気にしても仕方が無いし、気にするようなことでもない。そういう日もあるだろう。


 ルーラも『まあ、それは良いとして』と仕切り直し、続けた。


『マグマが冷えて固まったのです。その際、あなたとあなたの建造物はマグマの中だったわけで……』


「なるほど……つまり今固まったマグマの中……ね」


『そういうことです。あ、地固まって雨降る、でしたね』


「チ〇コ硬くなって、精〇出る?」


『これは聞き間違いってレベルじゃないですね……』


 地固まって雨降る、ということは外は今、雨が降っているのだろうか。

 そういえば地球も大昔、雨で海ができたとかなんとか。


「……とりあえず、外に出る」


 聞きたいことは後で聞くとして、今はこの暗さを何とかしたい。

 そう思い、ネヨウは行動に移す。


「……ん」


 周りがマグマが固まった岩石だとすれば、ドリルが良いだろう。


 ネヨウは植物を出現させ、ドリルのような形にし、それに回転を加える。

 次第に回転速度は上がっていっているようで、甲高い音が大きくなっていく。


「ふん……!」


 ネヨウはそれを岩石の壁にぶつけた。


「う、うるせー」


 すると物凄く煩く甲高い音が立て続けに鳴った。小さい石の破片もこちらに飛んできて痛い。


(だけど、少しずつドリルは進んでるし、我慢する)


 ネヨウは我慢のできる子なのである。


「……そういえばこの力って、結局何なの?」


 小石の攻撃に耐えながらドリルを進めていたネヨウ、そこでふと女神に聞いた。


『豊穣の女神の力ですが?』


「そうじゃなくて、原理とかどうなってるの」


『原理なんて知りません』


「???」


 お前創造神だろ。ネヨウはそうツッコミを入れたくなった。


 するとルーラは語りだした。


『よく勘違いされがちですけど、この世の全ての事象の原理や理論は後付けです』


「えーどういうことー。この世の全てが音楽理論みたいなものってこと?」


『そうですね、例えとしてはそれが近いでしょう』


 生前楽曲制作をしていたネヨウは、多少なりとも音楽理論の知識がある。


 音楽の理論は、過去の名曲の心地よい響きを後から体系化した、という感じのものだ。

 いわば理論は後付け。ルーラはこのような後付けが世界規模で行われているという。


『本来、事象には複数の原理、理論になる余地があり、それを一番初めに誰がどのように解釈するかでその後の原理、理論が定まっていく。これが()()()()()()()()()()()に見られる唯一の原理であると考えられています』


「うーん?」


『この世界のような割と低位の世界ではそのような出来事はほとんどないのですが、代わりに生物が上位存在や上位世界から事象など他クリエイティブなものそのものを潜在意識にて受信することが多くなります。人間が何か発見や発明する際も、この受信によって行われており、上位世界にあるものを理論を通して再現しているだけに過ぎないのです。あ、今更ですが"この世界"というのは今あなたがいる世界や前世の世界のことです。続けると、上位世界にあるものの再現と言っても人間のような低位の存在はしっかりと理論を辿る、もしくは上位の世界に住む人間なら作らねばなりません。人間は結局どの世界でも低位であり、理論を介する必要があります。しかしどこの世界であっても神などの力を持つ上位存在ならば、理論が無くとも受信、イメージだけで上位世界のものを再現出来ます、勿論理論を介す探求をすることで些細な気づきを得ることもあり——』


「長いし、何言ってるかわかんない」


 話が長い、そして難しい、精神年齢推定十二歳のネヨウには特に。

 ネヨウが先程の話で覚えていることは上位世界、上位存在という単語程度である。


『……あら、少々興が乗ってしまいましたね、先程の話を覚える必要は無いですが。とどのつまり、この世の原理、理論は後付け。あなたは今や豊穣の女神という上位の存在であるため、その力をイメージだけで大方扱える、ので原理を気にする必要はない。ということです』


「なるほど」


 つまりこの世は音楽理論というわけなのだろう。


『……理解できていないでしょう』


「いや、完璧だよ~」


 少なくともネヨウはそう思っているのであった。


「ん、音……」


 ルーラとの会話が一区切りついたところで、ネヨウは音に気が付いた。

 それはドリルの音とは違う、無数の粒が地面を叩くような音。


 雨の音だろう。


『出口が近いですね』


 更にドリルを進めていく。


「わ、眩しい……」


 それから少ししてパッと、明かりが瞳に射し込んできた。それと同時に雨音も鮮明に聴こえるようになり、ネヨウはすぐにそれが出口だと理解した。



「うわぁ、すごい雨」


 光の射す穴を自身が通れるほどの大きさに拡大をした後、ネヨウはドリルを消し、外へと出た。


 そこでまず真っ先に思ったことは、雨音が物凄く煩いということ。次に雨で視界が悪い鬱陶しさ。最後に雨が暖かいこと。


「これは精〇だね」


 などとよく分からないことを言い出すぐらいには雨に対する衝撃は強かった。

 ネヨウ、君は一体どうしてしまったんだ。


『圧巻でしょう?』


 そんなネヨウを気にせず、そう言うルーラ。

 良くも悪くもやはり人の心が無いのだろう。


(いや、今までの会話だと人の心がありそうに思えるんだけど~?)


 目覚めてからルーラとの会話が弾む。これはネヨウが変わったのかルーラが変わったのか、はたまたどちらも変わったのか。

 それともこれがルーラの()なのか。


「そういえば、ここって出来たばっかりの惑星なんだっけー?」


『その通りです、とは言ってももう誕生から数億年は経っていますが』


「すごいスケールだね」


 数億年、まだ人生二十年ほどしか経験していないため、ネヨウにとっては想像もつかないスケールである。


 しかしルーラはそこで『あら、ネヨウも他人事ではないですよ』と言い、続けた。


『あなたは、三億年程寝ていたのですから』


「んー?」

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