第十六話:女神との生活
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イニティーがネヨウの下で生活し始めて、およそ十年、もう大人の仲間入りをしている。
緑豊かで魔物にも追いかけ回されない、この地での生活はとても快適なものであった。
「今日も参拝しよう」
朝起きて女神ネヨウを拝みに行く。これが近頃のイニティーの日課だ。
人間と聖獣たちによってある程度整備された道を歩く。活気のある草木がそよ風に揺さぶられ、まるで女神ネヨウへの参拝を歓迎しているよう。
目的地へ到るや否や、拝みの姿勢を取る。
拝みの姿勢を取ったら、「今日もご恩寵をありがとうございます」と、その恵みを噛み締めるように言葉を紡ぐ。
魔物の脅威は消え、もう誰かが無残に殺されることも無い。
食料も安定しており、木の実、そして聖獣から狩猟が許されている獣の命を頂いて、生活できている。
これら全て、女神ネヨウの恩寵からのもの。
イニティーはこの十年で、女神ネヨウがどれだけ尊い存在なのか、何故聖獣たちが崇めるのか、それらを理解した。
「そこ、転落気を付けろよ、さっき二人落ちたから」
「了解」
魔物の脅威がないため、この地では人口が増え続けている。そのため新たな住居としてイニティーたちは、女神ネヨウによってもたらされた草木を使い、小さいものだが木造の家屋を建設している。
こうして安定した村の発展が行われていった。
「なぁ、俺たちの耳ってこんなに長かったか?」
「ん?……あぁ、確かに」
それから数年が経った頃、知人に言われイニティーはそれを自覚した。
耳が、自分含めた村の人間たちの耳が少し以前と違う。
少し長く、そして尖っている気がした。
「聖獣の皆様に聞いてみるか」
「そうだな」
困った時は聖獣様、神獣様に、これがこの地での常識のようなもの。
そうしてイニティーはこの件を近くに居た神獣、トンカゲに話した。
トンカゲは真面目であり、人間たちと共に働くことが多く、近場に居ることが多いのだ。
するとトンカゲからは「ネヨウ様の力によるもの」と返ってきた。
神の力に長期的に触れると肉体に変化が起きるとのこと。
ただ悪い変化にはならないため、そこは安心して良いらしい。
「耳が伸びる以外に、ほかにも何か変化はありますか?」
「人間の変化はまだ分かりませんが、私たちは寿命が延び、聖法が扱えるようになりました」
「寿命と聖法……!」
聖法とは、女神ネヨウから授かった聖力を行使して行う超常的な現象の事。
似たものに魔法があるが、あれは魔物が扱うものであり、イニティーたちが散々苦しめられたものである。
聖法は今現在では聖獣たちしか扱うことができていない。ただその力は強力で、イニティーたちは聖法に助けられることが多くあった。
それは火おこしや、建設、狩りの時など幅広く。
(寿命が延び、聖法が扱えるようになる可能性がある)
イニティーにとって、それは大変喜ばしいことである。
村はさらに発展し、いずれは聖法を使って自分たちで、外の魔物を狩ることもできるかもしれない。
「ネヨウ様はまだ私たちに恩寵をくださるのか……!」
ちなみにネヨウは特に意識してやってはいないし、力の制御が出来ていないだけなのだが、そこはイニティーたちには分からない。
「どうにかしてこの感謝を表さねば……」
貰ってばかりで自分たちは何も返せていない。
そもそも神に返せるものなどそうそうないのだが。
「何か……そうだ!」
「女神ネヨウ様を祀る御殿、神殿を造りましょう!」
「神殿とは具体的にどのような?」
少し訝しむように言うトンカゲ。
「あ、具体的には……そうですね、ネヨウ様の周囲を囲むように、豪奢な建物を建てようかと」
女神ネヨウのこととなると少し慎重に話す必要がある。
「……祀るために、ですか?」
「はい、それと雨風も凌げた方が良いかと思い」
現在もネヨウの周囲には建造物が無く、雨が降ればネヨウは雨に濡れている。
それを前々から憂いていたイニティーは、どうにかしたいとも考えていたのだ。
「……一度他の者と話してからですね」
トンカゲはイニティーの案を否定せず、こうして聖獣、神獣たちは『ネヨウ様の神殿造り会議』を行った。
会議の結果は神殿造りに賛成が多数。
ネヨウの神殿造りが決まった瞬間である。
神殿造りは十年ほどの期間を要した。
巷ではネヨウに触れないように建設するのが一番神経を使っただとか。
◇side ネヨウ◇
「こうして神殿は造られたのです」
「へぇ~」
なんともまぁ、な話である。
自分の力がここまで影響を及ぼしているとは思わなんだ。
「で、結局寿命とその聖法ってのはどうなったの? あくまで可能性だったでしょ?」
なんか恩寵がどうのこうの言っているが、話を聞く限り聖法が使えるようになる前に、神殿を建てたらしいではないか。
「えぇ、勿論使用できます。寿命についても、お陰様で私はここまで生きてこられています」
「あ、そっか」
寿命はそもそも語り手が証明してた。
「他にも数回大雨が降り、川が氾濫したこともありましたね。草木のお陰で大きな被害はありませんでしたが」
「へぇ」
「ソノトキノネヨウ、カワニ、シズンデタンダヨ。ミンナオオサワギ」
そう補足をしてくるスヤスヤ。
自分が川に沈んでいる補足とか、あまり要らないけど。
それとネヨウが沈んでいるのなら、スヤスヤも一緒に沈んでいることになるのだが。
そう考えると少し申し訳ない話。
「そうなんだ~」
流石に千年の出来事全部話すことはしないみたいだけど、色々あったらしい。
確かに神聖化される理由は分かった。
だけど。
(やっぱり慣れないや)
堅苦しい立場は苦手。
あと。
(睡眠スポット巡り、もう無理?)
ネヨウを軸とした村が出来た。
移動したら困ると言われちゃうかも。
(どうしたものか~)
これからの睡眠ライフは一体どうなってしまうのか。
ネヨウ、神になって初めての悩み事である。




