第十四話:頭を撫でられるけど撫でられない立場
◇side ネヨウ◇
久しぶりに起きたら木製建造物の中で、いつの間にか長い耳を持つ、エルフのような人類が誕生していて、崇められていた。
ヒト化トンカゲは唐突に祭りだとか宣言し、色々と置いてけぼりのネヨウ。
「祭り?」
「えぇ、皆この日の為に準備しておりました」
「うーん、寝起きで状況が分からないから教えて~」
一体何があってトンカゲはヒト化し、人類は、エルフたちは自分を崇めているのか。
そうして聞いたのだが……。
「ネヨウ様~」
「お目覚めですね~!」
「やっと目覚めましたのね」
「わぁいっぱい来た……」
その質問は、建造物の入り口から次々と入ってくるエルフとは違う姿形の人類によって阻まれた。
その人数は……数えきれないほどであり、皆ネヨウの周囲を囲むように押し寄せてくる。
「「「「ネヨウ様ー!」」」」
「ひぇ」
なんという数の暴力。
このままでは貧弱なネヨウは押し花になってしまう。
「オチツキナサイ!」
そんな時、左頭上から甲高い、だが少々艶美な声が発せられた。
その声でネヨウへ押し寄せていた者たちはハッとしたような顔をして、次の瞬間にほぼ全員が動きを止めた。
「うぅ……」
押し花問題は女神の体でどうにかなった。
だが寝起きの喧噪ほど辛いものはない。
しばらくネヨウの機嫌は悪かっただとか。
「なるほど~」
現在、場所は外。
周囲は村のようなものになっており、木造の家々が点々と立っている。
そしてエルフたちが何やら駆け回っている。恐らくトンカゲの言う祭りの準備だろう。
「こちらです」
そんな中ネヨウはまるで執事のようなトンカゲの案内に付いていきながら、押しかけて来たヒト化仲間たちから、この数千年間の出来事を聞いていた。
ちなみに全員での移動は流石に邪魔すぎるので、今ネヨウの周囲は数人である。
眠る前に居た、ほぼ全員の動物がヒト化していて、ネヨウはそれはそれはとても驚いた。スヤスヤも少し大きくなり声が大人っぽくなっているし。
エルフといい、この世界はゲームやアニメの世界か何かだろうか。いや、豊穣の力というものがある時点で今更か。
そんなこと考えながら、ネヨウは脳内で仲間たちから聞いた数千年の出来事を要約する。
ネヨウが眠りについてから千年程が経った頃、この地に人類が訪れ、トンカゲ等は危害を加えないことを条件に彼らとの共生を始めた。
ネヨウの周囲は植物豊かであり、食料には困らなかった、そのためその要因であるネヨウは人類に神格化され、今日まで神として崇められることに。建造物、神殿もそうして建てられただとか。
そしてその神の使いとして周囲に居た動物たちは「聖獣」と呼ばれるようになり、その中でもモリスやトンカゲなどの、ネヨウから直接、名を貰った十八名は「神獣」と呼ばれているのだそう。
聖獣たちのヒト化についてはここ数百年で出来るようになったこと、らしい。
「そうそう、人間は元々耳が短く、寿命も短かったのですよ」
そう言ってくるのはヒト化したモリス。
今の彼女はショートヘアの茶髪に緑眼、そしてネヨウと同じぐらいの小柄な体格をしている。
前の「キュイ!」と鳴いていた可愛くて小さいモリスが、いつの間にか自身と同じぐらいの大きさになっており、少々複雑な思いをネヨウは抱いた。
それはそうと、元々エルフはエルフじゃなかったらしい。
「人間にも私たちと同じく恩寵を授けられるとは。と私、寛大なネヨウ様に感服しておりました!」
ネヨウの影響でただの人間から種族までもが変わるとは。
「僕はただ寝てただけなんだけどね~」
恩寵とか言うが、なんか勝手に不思議な力をこの体が出しているだけなのだ。そんな崇められるようなことはしていない、と思う。
まぁ、神ではあるから信仰されるのは間違いではないのだけど。
「ここです」
そこでそう立ち止まるトンカゲ。
「へー」
お祭りをするからとトンカゲに案内された場所は、神殿から少し歩いたところにある、服が布切れの時代にしては豪奢な櫓のようなものだった。
「この上ですが、登れますか?」
「もちろん」
「では参ります」
ネヨウたちはその櫓の一階部分の内部にある階段を上っていく。
そこそこ長い回り階段だった。
「わー」
そうして最上部にたどり着き、目にしたのはそこそこ良い景色だった。
展望台のように村を広範囲見渡すことができる。四方は開かれており、そこから通ってくる空気がとてもおいしい場所、というのも付け加えておこう。
(というか村大きいね)
高台から見て分かったが、村は割と広範囲に広がっている。
自分が眠っている間にこんなに変化があるとは、とちょっと感動ものだ。
「うん?」
そんな時、ネヨウの第六感、いや第七感が睡眠スポットの検知をした。
そうして辺りを見渡すと。
「ベッドがあるー!」
なんと、階段を上がって西の方角の外際に白のベッドがあった。
きちんと脚付きで、ヘッドボードもある。
見た限り布団も布製だ。
ネヨウはベッドへ近づき、布の手触りを確認することに。
「あー」
しかし、こう、なんとも言えない。
布の荒さが少し、それにあまりふかふかもしていない。
時代が時代だ、そこそこ手触りが良いだけマシか。
「これからが期待だね~」
今まで使用していた葉っぱ布団は割と良い葉を使っていた、だがそれでもやはり寝るなら布が良い。
布は出せないので、こればかりは、これからの人類の発展に大いに期待するしかな——。
——いや、綿花!
「はッ!」
心の中の自分の叫びで思い出した。
綿花、その他にも植物繊維というものがあるじゃないか!
「ネヨウ様、祭りの準備が整ったらしいです。と言っても人間たちの舞などですが」
「……はーい」
(次の目標だね)
ふかふかお布団を作ることは一旦置いておこう。
「ここにいれば良いの?」
ベッドの上に座ると、櫓上から、下に居るエルフたちが眺められる。
「退屈なようでしたらお戻りになられても」
「……まぁちょっと人と関わろうかな」
前世では最終的に人とは関わらない生活になっていたし、今世もしばらく人と話していなかったから、ちょうど良い機会かも。
ネヨウはしばらく、エルフたちの舞やら、踊りやら、談笑やらをベッドでごろごろしながら眺めていた。
そこそこの頻度でエルフたちが視線を向けてくるので、たまに櫓上から手を振ったりもしてごろごろ。
太陽は真上を少し通り過ぎ、お昼寝に丁度良さそうな時間帯。
「ネヨウ様、村長がお話をしたいと」
そんな時、トンカゲがそう言ってきた。
「村長?」
「えぇ、是非と切望しております」
「別に良いけど」
「その寛大な心に感謝を、すぐに連れてまいります」
ネヨウが気さくに返すと、畏まった様子を崩さず、トンカゲは階段をささっと下りて行った。
「んーなんかさー。違うよね~」
そう、これは何か違う。
「もしや何かご不満がー?」
ネヨウの呟きにそう気だるげに返すのは、ネヨウと同じベッドで寝ている軟体生物のヌーメ。ヒト化すると灰色の長髪に黄金色の瞳、頭に二つの触覚を生やした少女になる。
性格は、ネヨウと似た性格、と言えば分かるだろうか。神獣一の怠けもの。
「あのね、僕こういう風に崇められるのは違う気がしてさ~」
崇められたことなんてないし、そもそも誰かより立場が上になったことも無いから、ちょっとむず痒い。
それに畏まられるより、気さくな感じの方が接しやすい。
「でもそっちの方がいっぱい寝られますよー」
「あ、それは確かに」
恵みをもたらす神であるからこそ許される怠惰な眠り。
そう考えると、崇められるのは宿命というか、これも神としての仕事なのかもしれない。
「ナットクスルノハヤイ!」
そこで少し大人っぽくなったスヤスヤからのツッコミ。
「うーん……まあ寝られるなら良いかなーって」
正直神になった今でも睡眠関係の事しかやることが無いのだ。
いや、神になったからこそ、かもしれない。
「ネヨウ様、村長をお連れいたしました」
そんな時トンカゲが階段を上って現れた。そして彼の隣には。
「あぁ、なんと美しい。このようにお話の機会を設けてくださったことに感謝を申し上げます」
ネヨウを見てそう言う、薄茶色の頭髪に碧眼が特徴的な一人の老エルフがいた。
背筋は曲がっていて、長い時を生きてきたように思われる。
「私たち人間がこの場に辿り着いて早千年、目覚められた沈黙の女神様をこの目で見ることができるとは、何たる幸福」
感服したように顔を綻ばせて、祈るように手を組む老エルフ。
「へー、あなたたちもう千年も生きてるんだね」
「お陰様で」
人間がここに住み始めたのが千年前と言ってるので、エルフ化は一代で起こったものになる。
てっきり、エルフ化は数代を跨いでのゆっくりとした変化だと思っていた。生き物の進化は長い時間をかけて行われるというし。
「それで面会の希望って言うけど、どんな用で~?」
自分が上の立場となって、色々話すのは慣れなくてまだむず痒いけど、それっぽく聞いてみる。
「ネヨウ様にこれまでの感謝を、村を代表して伝えたく」
「そこまで感謝されるようなことはしてないと思うけど」
先程も言ったがただ寝ていただけ。
だからそこまでしなくてもと言うのだが。
そこでヌーメが口を開いた。
「ネヨウ様、気づいていないのかもしれませんが、結構感謝されることをしているんですよ~」
「そうなの?」
「「(一同大きく頷く)」」
そうらしい。
「ふーん、じゃあもし良かったら、そういう話とか、これまでの人間たちの話とかを詳しく聞かせてよ~」
そこまで言うのなら、ちょっと気になってくる。
「お望みとあれば喜んで」
老エルフは一拍置いて続けた。
「あれは私がまだ幼かったころ——」
そうして老エルフから人類千年の軌跡が語られ始めた。




