第十二話:復讐
「……」
ここは小学校。登校時間なため教室内には人が少ない、しかしあちこちから話し声が聞こえてくる。
そんな教室で龍介はただ黙々と待つ。
ランドセルの中で、家からこっそりと持参した一本のナイフを握って、時が来るのを、奴らが来るのを待つ。
「いやー、マジで昨日のアレ面白かったよな~」
「動きがシンクロしすぎのやつね」
「笑いのツボにハマりすぎてw」
「……来た」
奴らの声だ、今も愉快そうに談笑している。
遂に殺す直前となり、ナイフを持つ力が強まる。
「三人で大爆笑だったよな」
「……」
愉快そうに。
自分はこれからこれを壊す。
「今日も学校終わったら遊ぼうぜ」
「もちろん」
「今日は負けないからな!」
(……なんかやる気無くした)
まるで何かにエネルギーを吸い取られたようにやる気が抜け、龍介はナイフを持つ手を緩めてしまう。
どうしてだろうか。
「……」
いや、理由なんて分かりきっている。
(あんなに楽しそうにしてたら、殺しづらいよ……)
結局龍介はどこまでいっても龍介だった。
殺せない。気弱なまま。
——それでいいのか?
そこでまるで悪魔のような囁きが脳内に現れた。
それは醒那を失ったことによる負の塊。失わせた自分とあいつらを酷く憎んでいる。
ここで理性を失ってあいつらを殺したらどれだけ楽なのだろうか。
(……だけど)
本当に殺すべきなのか?
結局それは自分本位の感情だ。
醒那さんはそれを望んでいないと言うかもしれない。
あの人は優しいから。自分が犯罪者になることなんて許さないかも。
『ふふっ』
『なんだよ』
『龍介は優しいんだね』
『別にそんなんじゃない』
『いや、君は他人の痛みが分かる子だから必然的に優しいんだよ』
胸が痛くなる。その優しさは醒那さんが居たからこそ。
『龍介』
あの人の、髪で隠れて良く見えない笑顔が何度も蘇ってくる。
ちょっとおかしくて、笑えるけど、自分に居場所をくれた。
そう、大切な人なんだ。
「……」
そんな大切な人を失わせた大也たちは憎い。あんなことがあった今も楽しそうに談笑している。
だけどあんなに楽しそうに遊んで話せるんだ、虐められる自分さえ居なければ本当にただの子供だったのかもしれない。
自分がもっと強ければ、弱い自分が居なければ。
そうだ原因は全部自分にあるんだ。
「……はは」
龍介はナイフを取り出し、自分の首元に刃先を向ける。
どこからか悲鳴が上がった気がした。
「天国で、会えるかな……?」
それとも地獄行きだろうか。
そうして龍介は目を瞑って、そのナイフを、これまでの鬱憤を全て晴らす勢いで。
自分目掛けて——
「ぐぇ……」
突き刺したはずが、痛みは想像していた鋭いものとは違い、鈍いもので、痛みもすぐに引いていく。
刃物で自分を突き刺す痛みはこんなものなのか、などと思っていると。
「いつまでそうしているつもりですか? 自殺は失敗ですよ、目を開けてください」
どこからかそんな女性の声が響いた。
「……」
幻聴かな、なんて思って無視するも。
「痛っ」
顔を殴られたような痛みを突然感じ、龍介は思わず目を開けてしまう。
「……え?」
思わず開いた視界には、オーロラのような色とりどり光が広がっている不思議な光景と、その中に佇む銀髪蒼眼の、随分とスタイルの良い女性。
先程までの光景と随分違うことに、龍介は唖然とする。
「ふふっ……ようこそ、私のプライベートルームへ」
そんな龍介へ、女性は不敵に微笑んでそう言った。




