第十一話:ニートのオバケ女
ちょっとモチベが湧かないので、二章は不定期更新とすることにしました。
反応いっぱいあったらモチベがめっちゃ湧いて更新速度が上がると思いますので、よろしくおねがいします。
「……」
自室に籠って膝を抱える日々。
ニートのオバケ女、醒那が死に、龍介の心は酷く乱れていた。
「っ……」
あの時の、自分と猫を助ける為に醒那がバスに撥ねられた光景が、また脳内に蘇ってくる。
——事故の前日。
この日は醒那が公園へ来なかった日だった。
だけど代わりに。
「にゃー……」
「猫?」
公園に赤く染まった左後ろ足を、ぎこちなく動かしている三毛猫が現れた。
龍介がそっと近づいてみるも、猫は驚く様子がなく、活気が無い。
「大丈夫?」
「にゃー……」
呼びかけるも「にゃー……」と鳴き続けるばかり。
「野良猫だよね? いや、どこかの猫?」
龍介が近づいても驚かないのは人慣れなのか、衰弱の証拠なのか。
この怪我は何にやられたのだろうか。
何かできることはあるか。
「あ、そうだ」
そこで龍介は、猫に何かを食べさせてあげようと思い立った。
人に飼われていようと、怪我をして衰弱はしているはず。
そして今日は給食から持って帰ったコッペパンがある。
そう思い、ランドセルからコッペパンを取り出そうとして、気づいた。
(猫ってパン大丈夫なのかな?)
人間が食べられても猫は食べられない、というものがあると聞く。
もしコッペパンが駄目だったらもっと弱ってしまう。
「ちょっと待っててね」
そのため龍介は一度家に戻って、調べてみることにした。
「お待たせ」
調べた結果コッペパンは上げないほうが良いらしく、代わりに冷蔵庫の中にあった、味付けをしていない鶏肉を親には内緒で少しだけ持ってきた。
「食べな」
龍介は鶏肉が乗った紙皿を猫の目の前に置く。
「良かった、ちゃんと食べられるんだね」
すると猫はゆっくりと口を近づけ、それを食べ始めた。
「にゃー」
ものの数分で鶏肉を食べ終えた猫。
「満足したかな?」
「……」
「わかんないか」
猫とは会話できない。
醒那以外にもう一人、猫でも良いから会話する友達が欲しいな、なんて思ってしまう。
「じゃあ俺は帰るね。気を付けろよ」
あれからしばらく猫と共に公園で過ごした龍介は、猫に問題が無さそうなことも確認し、時間も遅くなってきたため家に帰ることに。
「にゃー」
「ごめんね、俺ん家はペット禁止なんだ。また明日来るから」
一応足は怪我をしているため、猫を病院へ連れて行くこと、保護してもらうという選択肢も頭の中には浮かんでいたが、近いところで動物病院なんて無かった。
そして何より、少し愛着が湧いてしまった龍介だった。
だが、ここで別の行動を取っていれば、あんな運命にはならなかったかもしれない。
翌日。いつものように学校を早退して公園に向かう、昨日の猫は変わらず居た。
そのことに安堵し、龍介はしばらく猫と戯れていた。
「にゃー」
「よぉーしよしよし」
久しぶりに遊ぶことへの高揚感を感じて、笑顔が勝手に現れる。
そんな楽しい時間。
それは唐突に終わりを迎えた。
「お、龍介じゃーん」
「おお、デブぅ」
「音痴デブー」
公園に現れた男児三人組。
それは龍介にいつも嫌がらせをしてくる、いじめっ子たち。
「……」
先程までの高揚した気分が一気に沈むのを感じる。
それと同時に、なんでこいつらがここにいるのか、いつもは来ないのに、と龍介の心臓が早鐘を打ち始めた。
するとその時。
「あ、猫だ」
「っ……」
三人組のリーダー的存在、早本大也が龍介の手元にいる猫へ意識を向けた。
「猫と何してんの? ちょっと俺に触らせろ」
「……」
「にゃー……」
「おい、聞いてんのか?」
「わ、分かったから。乱暴しないで、ね」
ここで変に抵抗すれば逆に危ない、そう知っているからこそ龍介は大也たちに猫を触らせることに。
「にゃー……」
「お、大人しくしていれば大丈夫だよ」
不安そうに自分を見つめる猫にそう言って、自分自身でも安心を得ようと言葉を発する。
だが、直前で考えた。いつもの大也ならどうしただろうかと。
その瞬間嫌な予感が走る。
そうして大也が近づいて……。
「はい、もーらい!」
「んにゃぁ!」
猫の背を掴み、乱暴に持ち上げた。
「ちょっと、乱暴にしないでって!」
「口答えしてるんじゃねぇ!」
「う゛っ……」
龍介の予感通りだった。
いつも罵ってきて、少し声を上げればすぐさま暴力。
「随分とこの猫が大事みたいだなぁ……お前ら抑えてろ」
そして大事なものは壊していく。
「りょーかい!」
「らじゃー!」
今度は二人の男児に体を押さえつけられる。
「な、なにをする気だよ……」
大也は何も言わずに猫を振り回して公園から出て行こうとする。
「ちょっと。や、やめろってッ!」
段々と大也が何をしようとしているのか、理解してきた。
また虐められている自分。
危険な目にあう猫。
自分が弱いから。
「へへっ、よぉく見とけよ!」
大也が猫を持った手を道路目掛けて振り被る。
「っ、待って……!」
昨日出会ったばかりの猫。
だけど既に龍介にとっては大切な存在。
「おらァ!」
空中に放り出された猫と目が合った気がした。
その目は怯えているようで。
(俺はこれすらも守れないのかよ!)
「うわあぁぁぁッ!!」
「あ、おい!」
火事場の馬鹿力というやつだろうか。
気が付いたら龍介は、自分を抑えている二人を押しのけ、道路へと一目散に駆けた。
そうして結果はあんなことに。
大きく弾き飛ばされた醒那、血まみれ。
駆け付けた醒那が龍介達を助け、死んだ。
——そして今に至る
あの後大也たちは逃げ、呆然としていた龍介は気が付いたら自室にいた。
「……」
龍介にとって醒那はとても大きい存在だった。
出会いはそう、学校を早退して、いつものように公園で土いじりをしていたある時だった。
たまたま顔を上げたら近くの歩道を、長い黒髪のヒョロヒョロの女性、醒那が歩いており、その姿を見て思わず「……オバケみたいな女」と龍介が言葉を零したところ、醒那が反応し近づいてきたことが始まり。
それからは買い物へ行くために外出した醒那と、ちょくちょく会話するようになった。
「話すことない~」
「無理に話さなくていいだろ」
「今日家に虫が居たんだ~」
「虫嫌いなの?」
「普通かな~……あ、やっぱ羽音で睡眠の邪魔されるから嫌い」
「そんな睡眠ばっかで人生楽しいのか?」
「……」
「あ……」
最初は当たり前だが距離は遠く、だけど関わっていくうちに距離は近くなり、龍介にとって気兼ねなく話せる唯一の人になっていった。
それなりの付き合い。
「おーよしよし、僕に何でも言って相談しな~」
「うっせ、子ども扱いすんな」
「泣いてるのを放っておけないよ~」
龍介にとって、初めて自分に寄り添ってくれた存在。
だけど、奪われた。
「醒那さん……」
誰に?
世界に。
いや、本当に?
自分のせい、自分が弱いから。
——本当にそうか?
「いや、あいつらだ……」
あの三人さえいなければ、こんなことにならなかったんじゃないか?
「龍介、いつまで部屋に籠っているの? できれば学校に行ってくれるとお父さんもお母さんも嬉しいな。あと警察の事情聴取も午後ね」
そんな母の声が今日も一階から響いた。
「……行こう」
龍介は立ち上がり、学校へ行く準備を。
「殺しに」
いや、あの三人を殺しに行く準備を始めた。




