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夜明けのゾンビ  作者: 天本一三


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8/13

11月2日

 街から人が消えた。正確に言うと生きている普通の人たちがだ。いつもの朝の散歩に出ても、聞こえてくる音の中に悲鳴と呻き声が混ざるようになっていた。いつもすれ違うときに挨拶を交わしていた人の姿も見なくなった。朝の空気に混ざっている匂いも変わっていた。

 今日は俺も歩いているところを襲われかけた。そいつは俺を見ると斧をふりまわしながら走ってきたが、俺とプウが走り出すほうが早かった。かなり離れてから振り返ると、そいつは他の人たちに取り押さえられていた。俺はこんな時でも息が上がらないことに気がついた。やっぱり普段の運動がものを言っているのかもしれない。

 こんな状況なので、新聞や郵便の配達もうかつにできないので、どうしても必要な人以外は自分で取りに行くか、高い金を払って武装配達人(最近できた職業らしい)に届けてもらうしかない。

 しかし、物流もほとんど止まりかけの上に、企業もこのままでは仕事にならずに潰れてしまうかもしれない。これほどイレギュラーな事態には単純にお金で解決できることも少ないだろう。

 テレビも今ではニュースより昔の番組の再放送ばかりになっていた。放送局に人が行けないと新しいものは作れないから、まあ仕方がない。皮肉にも昔の番組のほうが面白いと話題になり、平和な日常への感傷と相まって視聴率が上がっているらしい。

 そういえば、以前テレビの討論会でゾンビをどうするべきか議論していたが、あそこで俺はゾンビを殺すと言っていたA某という社会学者がゾンビになったそうだ。彼の心中はいかばかりかと、複雑な気持ちになる。

 時折物陰から出てくる彼らを避けながら、プウと俺は走った。こんな事態になっても律儀に働いている信号で立ち止まりながら、ほとんど車の通らなくなった大通りを見渡す。コロナの時以来、二度とこんな風景は見られないと思っていたが、まさかそれ以上のことがあるとは。

 ふとプウを見るといつのまにか小さな骨を咥えている。

「こらプウ、道端に落ちてるものを食うんじゃない」ため息をつきながらプウを引っ張る。

「ギャルルルル」と上目遣いで睨まれた。

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