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『夜明けのゾンビ』 ―無職の俺とポメラニアンにも、世界の終わりがやってきた―  作者: 天本一三


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10月20日

 母さんは今はリビングで静かに眠っている。結局悪性のインフルエンザだったようだ。

 昨日から復活した親父はやけに神妙な面持ちで包丁を握っていた。今まで親父が料理するのを見たことは無かったが、「一つも無駄にする訳にはいかないからな」と言いながら、持ち前の几帳面さを発揮して丁寧に切り分けていた。

「お前も食うなら今のうちだぞ」朝の運動がきいてきたのか最近食欲が出てきた俺は、親父だけに食わすわけにはいかないと、急いでかぶりついた。まともなものを食うのは久しぶりだ。

「母さんの味がする」俺と親父は可笑しそうに顔を見合わせてうなずいた。

 親父と二人で黙々と食いながらテレビのニュースを聞いていると、事件の件数はもはや正確に把握することはできなくなったようだ。加速度的に増えていく彼らに、今のところ決定的な対策はとられずにいる。あちこちで個人や自警団によるゾンビ退治事件も起こり始めたが、それほど拡がってはいないようだ。なぜならゾンビ化した人たちにも家族や友人がいたわけで、その人たちもやはりまだ最終手段に訴えることはできなかったのである。

 今日はそれに加えて別のニュースも注目されていた。ある若い男性が今の状況に絶望し、あいつらに喰われるくらいならと、自殺を図ったらしい。自殺は成功し、男性は一度死んだが、三十六時間ほど経ったあとにゾンビとして蘇ったというのである。このニュースは衝撃をもたらした。今まではゾンビに噛まれた人間がまたゾンビになると思われていたが、それ以外で死んだ人間も蘇るということだからだ。

 なぜ今まで他の死因の人たちがゾンビ化しなかったのかは分からない。日本では死んだら火葬することになっているから遺体が残らなかったせいもあるだろうが。

 もしこの現象が誰にでも起きるようになれば、この世界から普通の死というものが消えてしまうことになる。

「マジで?」俺は自分の頭を疑った。今更ながらとても現実とは思えなかった。

「もしそうなったら、おまえともずっといられるな」

 一心に骨付き肉にかぶりついているプウを見て、それも悪くないかと思った。

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