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第六羽 共倒れ

 その夜、琉夏は寒さで目を覚ました。


 兄弟が二羽もいなくなったせいだろうか、以前は四羽で押し合うように固まって眠っていた場所も今ではやけに広く感じる。冷たい夜風が羽毛の隙間をすり抜けるたびに身体が震え、琉夏は無意識に残った兄弟の温もりを探すように身を寄せた。


 だが、そこにいるはずの兄弟の姿がない。


(あれ・・・?)


 寝ぼけた頭で辺りを見回すと、巣の端の一角が妙な気配に包まれている事に気付いた。月明かりの届かない場所だったが、目が慣れてくるにつれて、その光景が少しずつ輪郭を持ち始める。


 そこにいたのは巨大ヒナと、残った最後の兄弟だった。


 兄弟は巣の縁へ爪を食い込ませるようにして必死にしがみついている。その身体は半分以上が崖の外へ投げ出されており、少しでも力を抜けば真っ逆さまに落ちてしまいそうだった。


 そして、その兄弟を巣の外へ追いやっていたのが巨大ヒナだ。巣の縁へ背中を向けるように座り込み、その巨大な尻で兄弟へ押しだそうとしていた。


 ぐっ・・・ぐぐぐっ・・・


 押しているというより、体重を預けているだけに近い。だが、小さな体を押し出すにはそれだけで十分だった。兄弟は全身を震わせながら踏ん張っているものの、巨大ヒナが身体を揺らすたびに少しずつ崖の外へ押し出されていく。


 『ピ・・・』


 身体が少しずつ外側へずれていくと兄弟が諦めのような声を漏らす。


 ヘビのように獲物を襲うような凶暴さはない。ただ邪魔な石ころを足でどかすような感覚で、兄弟をこの巣から消そうとしていた。


 托卵ヒナ。


 昼間に思い出したあの言葉が頭の中で鮮明によみがえる。


 一羽目も二羽目も全部こいつだったのだ。そう思った途端、胸の奥から熱い感情が噴き上がった。


(や・・・っめろぉぉぉぉ!!)


 怖いとか勝てるとか、そんな事を考える余裕はなかった。巣の端まで駆け抜け、そのまま巨大ヒナへ飛び掛かる。


『ピキャァァァァ!!』


 くちばしで突き、翼ではたき、黒い羽毛へ爪を立てる。しかし巨大ヒナの身体は岩みたいに大きく、まともなダメージなど与えられている気はしなかった。


 それでも止まる訳にはいかなかった。目の前で兄弟が消えるのを見ているだけなんて出来るはずがない。


『ビギャァ!?』


 不意に入った大きな瞳への一撃で、巨大ヒナが初めて動きを止める。ゆっくりと首を巡らせ、その黒い瞳がおれを映した。


 月明かりを映したその瞳、その無機質な視線が妙に腹立たしかった。兄弟たちを消しておきながら、まるで何も悪い事をしていないと言わんばかりだった。


『ピィ~~~?』


 巨大ヒナはようやく琉夏の存在を鬱陶しいと認識したのか、兄弟を押していた身体を離すと大きく身を捩った。


 だが琉夏も必死だ。


(ここで引けばどうせいずれ落とされる!)


 そんな一心で、小さな琉夏は巨大な身体へしがみつく。巨大ヒナが身体を振るたびに視界が激しく揺れ、何度も放り出されそうになるが、それでも食らいつく力だけは緩めなかった。


 まとわりつく琉夏を振り払おうと、巨大ヒナは身体を床へ擦り付けるように暴れ回る。その度に巣を支えていた枝束が悲鳴を上げるように軋み、足元から少しずつ崩れ始めていた。


 そして次の瞬間だった。


 巨大ヒナが大きく身を捩った拍子に、その足が脆くなった巣の縁へ乗る。


 ミシッ――。


 嫌な音とともに踏み抜かれた枝束がまとめて崩れ落ち、支えを失った二匹の身体が大きく傾く。


(うおぉぉぉぉ!!?)


『ピギャァァァァ!?』


 巨大ヒナが焦ったような鳴き声を上げる。だが、その巨体を支えていた足場はもう残っていなかった。


 おれと巨大ヒナは本能的に翼をばたつかせが、崩れた足場はもう戻らない。二匹の身体は巣材ごと外側へ滑り、そのまま崖の外へ投げ出された。


(しまっ――)


 琉夏がそう思った時にはもう遅かった。


 二匹の足の下から巣が消え、次の瞬間には猛烈な風が全身を叩きつけてくる。落ちる、そう思った瞬間に頭の中に浮かんだのは不思議な事に人間だった時の最後の記憶だった。


 崖の途中で足場が崩れた瞬間、手の中にいた小さなヒナ。そして空へ向かって伸ばした手。あの日と同じ風が吹いている気がした。


(ま、また落ちて死ぬのかよ!!)


 思わず心の中で叫ぶ。


 目の前では巨大ヒナもまた必死にもがいている。憎らしい相手のはずなのに、その姿はどこか滑稽で少しだけ哀れにも見えた。


(いや、兄弟たちは無抵抗でコイツに落とされたんだ!自業自得だ!)


 そうしておれは、巨大ヒナともつれ合ったまま夜の闇へ吸い込まれるように落ちていった。

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