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第五羽 托卵

 巨大ヒナの鳴き声が山へ響き渡ると、それに応えるように遠くの空から羽ばたきが聞こえてきた。やがて巨大な影が巣を覆い、おれたちは反射的に空を見上げる。


 親鳥だ。


 そのくちばしには頭を潰されたヘビがぶら下がっている。いつもなら歓声を上げるところだった。だが、その朝は違った。おれも残った二羽も誰一人として餌へ飛び付こうとしない。気になるのは消えた兄弟の事ばかりだった。


 親鳥はそんなおれたちの様子に気付いているのかいないのか、運んできた獲物を巣へ放り込むといつものように巨大ヒナが飛び出した。


『ピギョァァァァ!!』


 まるで昨夜から何も食べていないかのような勢いで肉へ食らいつき、骨ごと砕きながら飲み込んでいく。


 それから一夜が過ぎた。


 親鳥は相変わらず何も言わない。いつも通り餌を運び、巨大ヒナがそれを食い散らかし、おれたちは残り物を漁る。兄弟が一羽減った事に気付いていないのか、それとも気付いた上でどうでもいいと思っているのかは分からなかったが、少なくとも探そうとする素振りだけは一度も見せなかった。


(なんだよ、薄情な奴だな)


 残った三羽は以前にも増して一緒にいる時間が増えた。


 眠る時は身体が触れ合うほど近くで丸くなり、巨大ヒナが食べ散らかした餌の残りを見つければ鳴いて知らせ合う。誰も消えた兄弟の話をするわけではない。それでも、もう誰もいなくなるなという願いだけは、きっと全員が同じように抱いていた。


 だが、そんな願いが通じるほどこの世界は優しくなかった。


 次の朝、琉夏は寒さで目を覚ました。身体を震わせながら羽毛へ顔を埋めたところで、いつも隣から伝わってくるはずの温もりが無い事に気付く。嫌な予感が胸を掠めたのは、その直後だった。


 ゆっくりと顔を上げると、視界に映る兄弟は一羽だけ。そう、昨夜まで隣で眠っていたはずの兄弟が、また消えていたのだ。


(なんだよ、これ・・・)


 しばらく現実を受け入れる事ができなかった。


 残った兄弟もすぐに異変へ気付いたらしい。落ち着きなく辺りを歩き回り、巣の縁まで駆け寄っては何度も鳴き声を上げている。その声には不安と焦りが滲んでいたが、返事が返ってくる事はなかった。


 ヒュォォォォォォォ・・・


 崖の下から吹き上げる風だけが虚しく羽毛を揺らしている。その様子を見つめながら、琉夏の胸の中では一つの考えが少しずつ形になり始めていた。


 一羽目が消えた時は事故だと思おうとした。夜中に寝返りを打って落ちたのかもしれないし、寝ぼけて巣の外へ出てしまったのかもしれないって。


 だが二羽目まで綺麗に消えたとなれば話は別だった。しかも消えるのは決まって親鳥のいない夜で、その度に巨大ヒナだけは何事もなかったように巣の中央で眠っている。


 そこまで考えた時、不意にとある記憶が浮かび上がった。人間だった頃、休日の昼間に何となく眺めていた動物番組だ。


 他の鳥の巣へ卵を産み付け、自分では子育てをしない奇妙な鳥の特集だった。そのヒナは孵ると真っ先に巣の主の卵やヒナを外へ落とし、親鳥から運ばれてくる餌を独占するという。


 琉夏はゆっくりと巣の中央へ視線を向ける。


 巨大ヒナは相変わらず満腹の腹をさすりながら満足そうに眠っている。おれたちとは違う黒い羽毛の下に何かを隠しながら、こちらを嘲笑っているようにしか思えなかった。


 托卵。


 その瞬間、今まで説明のつかなかった違和感の全てが一本の線で繋がり、琉夏の背筋を氷のような悪寒がゆっくりと這い上がっていった。

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