第四羽 弱肉強食
巣の端で眠り続けていた巨大な卵に、ついに亀裂が走る。
ピシッ。
最初は小さな亀裂だった。だが、その一本を皮切りに卵全体へひびが広がる。
バキィッ!!
殻が勢いよく弾け飛ぶと、中から現れたのはおれたち兄弟とは比較にならない大きさのヒナ。
『ピィ・・・!』
(何だよコイツ、でかすぎだろ!!!)
生まれたばかりとは思えない、どう見ても規格外。まだ殻から出たばかりのくせに一番大きな兄弟よりさらにひと回りはでかかった。
『ピギャァァァァァァ!!』
その鳴き声と同時に巣が揺れる。
(なんかこいつやべえ!!)
その嫌な予感は見事に的中する。
バサァッ!!
親鳥が餌を運んできた。いつも通りなら、おれが真っ先に飛び付くはずだった。
だが。
ドゴッ!!
(ぐはぁー!?)
おれの身体を吹っ飛ばしながら巨大ヒナが飛び出した。その身体が邪魔で誰も近付けない。
『ズゾゾゾッ・・・ごきゅん!!』
気付けばトカゲは巨大ヒナの腹の中だった。一瞬の出来事に目を開き始めた兄弟たちも呆然としている。
だが、それは始まりに過ぎなかった。
親鳥が餌を運んでくるやいなや、目の前の餌を丸ごと飲み込み、まだ足りないとでも言うように鳴き続ける。最初のうちはおれたちも負けじと飛び付いた。
だが無駄だった。押し潰され、弾き飛ばされ、ようやく咥えた肉片も横から奪われる。
(このままじゃジリ貧だ、なんとかせねば・・・)
最初のうちはおれたちも負けじと飛び付いていたが、体格差はどうしようもない。巨大ヒナが身体を乗り出しただけで弾き飛ばされ、ようやく咥えた肉片も横から丸呑みにされる。
そんな事を何度も繰り返すうちに、おれたちは巨大ヒナの食事中に足元へ散らばる食べ残しを狙うようになっていた。
その日、おれが見つけたのはトカゲの片脚だった。
(あ!!脚!飯!!)
巨大ヒナが食べ散らかしたトカゲの片脚を咥え、琉夏は巣の端まで逃げた。久しぶりのまともな獲物に胸が高鳴ったが、巣の端へ逃げ込んだところで一羽の兄弟と目が合った。
そいつは何も言わなかった。ただ、おれの咥えた尻尾を見ている。
(痩せてるな・・・)
巨大ヒナが生まれる前は丸々としていた身体も、今では羽毛の下から骨格が透けて見えるほど細くなっている。もっとも、それはおれも同じだった。
見られるのが嫌で背を向けたものの、兄弟は奪いに来ない。ただ黙って見ているだけだ。その視線が妙に気まずくて、ひとかじりした後、残りを兄弟の方へ転がしてしまった。兄弟は驚いたように首を傾げていたが、やがて恐る恐るそれを咥えると美味そうに丸のみした。
(仕方ない、次はこうはいかねえぞ)
別に優しくしたかったわけじゃない。何よりその視線をこれ以上向けられるのが落ち着かなかっただけ、それだけの事だ。
だが翌日になると、今度はそいつがおれを呼んだ。
巨大ヒナの食べ残した羽虫を見つけたらしく、近付いてみると自分では食べずに待っている。まさかと思ったが、どうやら昨日の借りを返すつもりらしい。
結局その羽虫は別の兄弟に譲った。
そうして似たような事が何度も続いた。誰かが食べ残しを見つけると腹が減っている兄弟がいれば呼ぶ。次の日には立場が入れ替わる。
最初はただの気まぐれだったのかもしれない。
だが同じように巨大ヒナへ餌を奪われ、同じように寒い夜を耐え、同じように空腹を抱えて過ごすうちに、おれたちの間には少しずつ不思議な連帯感が生まれていた。




