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第三羽 生存競争

 そして完全に開いた琉夏の目の前には顔ほどもある巨大なくちばしがあった。


(でっっっっっか!?)


 思わず後ずさろうとする。だが、そのくちばしは琉夏など気にも留めず、何かを咥えたまま巣の中央へ降り立った。


 咥えているのは、死んだトカゲのような生き物。いや、トカゲというには妙に胴が太い。かといってワニにしては小さい。なんだかよく分からないが、とにかく見た目がよろしくない。


 鱗。牙。尻尾。そして時々動く手足。


(うわぁ・・・まだ生きてる)


 顔をしかめた、その時だった。


 ドンッ!!


 横から何かに突き飛ばされた。


『ピィィィィッ!!』


『ピィィッ!!』


『ピィピィィッ!!』


 気付けば同じ巣の中に鳥が何羽も集まっている。いや、鳥っていうかヒナだ。


 そいつらは琉夏を押しのけるようにトカゲへ群がり、夢中になって肉を引きちぎり始めた。


 ぐちゃっ!ぺちゃっ!ぶちゃぁっ!


(なになになになになに!?)


 見るに堪えない地獄絵図から顔を背けつつ、状況を整理すべく脳をフル回転。


 そもそも、なんでおれが鳥の巣にいるのか。少し冷静になって周囲を見回した。


 まず、巣がめちゃくちゃでかい。木の枝を組んだだけとは思えないほど巨大で、下手をすれば一畳くらいある。


 そして、そこには自分と同じようなヒナが三羽。


『ピィ』


『ピィィ』


『ピッ』


 まだ目も開いていないらしく、互いに身体を寄せ合いながらもぞもぞ動いている。


(兄弟・・・なのか?)


 だとしたら、おれもその一羽ということになる。だが、巣の端にもっと気になるものがあった。


 兄弟たちが身を寄せ合ってるすぐ横。そこには、まだ孵化していない卵が一つだけ残されていた。


(でかっ)


 おれたち三羽を並べたくらいの大きさがある。白い殻の表面には薄く青い模様が走り、ときどき内部から淡い光が漏れているようにも見えた。


(なんだよこれ・・・)


 兄弟たちは誰も気にしていない。まるでそこにあるのが当たり前みたいに、その巨大な卵のそばで眠っている。


 だが琉夏だけは妙な違和感を覚えていた。


(いやいや!そんな事より、そもそもおれに身に何が起こってんだ!?)


 崖から落ちた後の記憶が無い。死んだのか?いや、これは夢なのか?


 状況が理解できない琉夏を置き去りにして、ヒナたちのごちそうはあっという間に消えた。


 バサッ!バサッ!!


 考える暇もないまま、再び巣を覆う巨大な影が差した。


 見上げると、また巨大な翼が巣へ降り立ってくる。そのくちばしには、イボだらけの赤黒いカエルのバケモノを携えて。


(げろげろ~!!)


 反射的に全身をのけぞった。その勢いのまま他のヒナたちの陰へ潜り込み、見つからないように身を隠す。


(無理無理無理無理!!)


 あんなもん食えるか!どう見ても毒持ってそうだし、というかヌメヌメしてるし!食っちゃダメなやつだろ、あれは!!


『ピィィィ!!』


 一番体の大きなヒナがカエルの頭にかぶりつくと、まるで高級ステーキでも出されたかのような勢いで丸呑みする。


(まさか、おれもさっきこんな感じで・・・)


 琉夏は自分が食べたであろうものを想像して身震いする。だがしかし、心とは裏腹に胃袋は正直だ。


(ぐぅぅうぅ〜〜!)


 時間が経つほどに空腹が加速していく。この身体が成長に必要なカロリーを欲しているのが分かる。


 次の餌、不気味なバッタ。


(・・・パス)


 その次の餌、緑色のみみず。


(パスパスパーーーース!!)


 気持ち悪いし見たくない。そう思うのに、気付けば旨そうにエモノを飲み込む兄弟たちの晩餐を目で追いかけていた。


(あんなもの、美味いわけが・・・)


 そして一時間後。


 ガフガフッ・・ゴクッ!!!


(トカゲうんめぇぇぇぇぇぇ!!!!)


 琉夏は夢中でエモノにかぶりついていた。


(誰にも渡さねえ!俺が全部食う!!)


 そんな勢いで運び込まれた化け物を我れ先にと呑み込んでいく。


 というのも、琉夏は他のヒナたちより有利だった。


 目が見えない他のヒナたちがピィピィとちんたら餌を探しているのを横目に、根性で開けた目がエサの位置を正確に捉え、どの兄弟たちよりも真っ先に喰い付けるのだ。


 バサ・・・バササー!!


(来たっ!飯!!)


 大きな翼が舞い降り、餌が射程圏内に入った瞬間におれはもうかぶりついている。


(悪いな、兄弟!これも生存競争なのだ)


 慣れとは恐ろしいもので慣れる。


 赤いトカゲ。黄色いカエル。そもそもよく分からない虫。最初は悲鳴を上げていた見た目も、今ではただの食料にしか見えなくなっていた。


 むしろ最近では、


(お、みみずじゃん!もらお)


 とか、


(この虫硬そ〜・・・パス)


 などと思う始末である。


 そんなある日、おれの食料事情を根底からひっくり返す事件が起きた。


 巣の端で放置されていた巨大卵に、ついにヒビが入ったのである。

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