第二羽 羽化
気がつけば辺りは真っ暗だった。かすかに何かが聞こえるような何も聞こえないような、妙な感覚だった。
確か俺はヒナを助けて戻ろうとした時に足場が崩れて・・・そこまで思い出した瞬間、全身がゾッとする感覚に襲われる。慌てて体を起こそうとしたけど、思うように動けない。手も、足も、首すら自由にならなかった。
(くそっ!なんだこれ!?)
異様に狭い。まるで全身を硬い壁に押し込まれているような感覚だ。
嫌な予感が頭をよぎる。
(まさか俺、死んだと思われて棺桶に入れられたのか!?)
冗談じゃない。まだ生きてる。ちゃんと生きてるぞ!
琉夏は必死にもがいた。腕を振り回し、足を蹴り、頭を何度も周囲へ打ち付ける。どこを叩いても硬い感触しか返ってこない。それでも止まれなかった。このまま本当に棺桶の中で・・・想像するのも怖い。
焦りに任せて何度も頭をぶつけていると、不意にパキッという小さな音が響いた。
(んっ!?)
パキッ、パキパキッ・・・。
頭突きをかましたところから細い光が差し込んできた。突然の眩しさに希望に似た何かが芽生える。
(いける!脱出できる!?)
さらに全身に力を込め、思いっきり頭を打ち付ける。
パキッ!!
今度は確かな手応えがあった。頭上の亀裂はみるみる広がり、差し込む光もどんどん強くなっていく。
(うぉぉぉぉぉ!)
琉夏は本能に似た何かに突き動かされるように、夢中になって頭をぶつけ続けた。
そしてついに――
バリンッ!!!
全身を包み込んでいた頭上の壁が砕け散る。
(ぷはぁぁぁぁぁぁっ!!)
『ピィィィィィィィ!!』
新鮮な空気が一気に流れ込んできた。
助かった!間に合った!外へ出られた!!その事実だけで胸がいっぱいになる。
自分の声がおかしい気がするけど、そんなことはどうでもいい。とにかく今は・・・。
(腹が減った!!)
モーレツに腹が減った。それ以外の思考が吹き飛ぶくらい腹が減った。
(かーさん、飯ぃぃぃぃぃぃ!!)
ここは一丁、好物の唐揚げ定食でも!いや、あれ?なんかそんな気分じゃない。牛丼だ!カツ丼大盛りだ!!とにかく何か食わせてくれ!
『ピピッ!!』
すると次の瞬間、謎の威圧感とともに何かが口元へ押し付けられた。
(んぐっ・・・め、飯っ!!?)
待ってましたぁぁぁ!!って、硬っ!揚げすぎたとんかつか?いや、もう何でもいい!
琉夏は反射的に差し出されたものへ食らいついた。想像していたよりもずっと大きいけど、それでも構わない。腹の虫が暴れ回っている今の琉夏にとって、目の前の食べ物は救世主そのものだ。
口いっぱい夢中で咥えて飲み込もうとする。何を食べているのか確認する余裕などない。ただ空っぽだった胃にカロリーを補充する感覚に酔いしれたい。
(うめぇぇぇぇ!生き返るぅぅぅ!!)
さっきまで死を覚悟していたことすら忘れそうになる。ところが、ようやく空腹が落ち着いてきた頃になって、琉夏はあることに気付いた。
なんか暗いと思ったら、目を開けてない。いやいやいや、なんで今まで気付かなかったんだ。自分でも呆れながら、とりあえず目を開こうとする。
(んー、んん??あれ?)
開かない。まるで瞼同士がくっついてしまったかのように、ぴくりとも動かない。今度はなんだよと、さすがに少し焦る。
崖から落ちて棺桶に閉じ込められて、ようやく脱出したと思ったら今度は失明とか洒落にならない。
琉夏は額にしわを寄せ、全力で瞼を持ち上げようとした。
(俺の視力は両目とも二・〇なんだぞ!!)
意味があるのか自分でも分からない理屈を叫びながら、根性だけで瞼を持ち上げる。
すると、うっすらと視界に細い光が差し込んだ。
(おっ!?)
さらに力を込めると、視界が少しずつ縦に広がっていく。
そして完全に開いた琉夏の目の前に現れたのは、顔ほどもある巨大なくちばしだった。




