第二十羽 予感
ルカは大木の洞からひょこっと顔を出すと、周囲をキョロキョロ見回した。
『キソー!』
返事はない。代わりに、朝の森には小鳥のさえずりだけが響いている。
『まさかおれ、捨てられたのか?』
嫌な予感が一瞬頭をよぎる。
だが、よく見れば大きな荷物はそのまま洞の奥へ置かれていた。旅を続けるつもりなら置いて行くはずがない。
『なんだよ!びっくりさせんなよ』
どうやら近くへ出掛けているだけらしい。
それにしても、昨日までは鳥のヒナとして巣でエサを待っているだけだったのに、こうして名前を呼ぶ相手がいることが不思議だ。
暇を持て余したルカは、洞の前をぴょんぴょんと跳ね回る。小石を転がしてみたり、落ち葉を嘴でつついてみたり。
『・・・腹、減ったなぁ』
そんなことを呟いた、その時だった。
ガサッ。
『ん?』
茂みが大きく揺れ、自然とルカは動きを止める。
ガサガサ……。
もう一度。
『キ、キソか!?』
しかし、返事の代わりに姿を現したもの。
『グルル・・・』
『うわっ!狼か!?』
よく見ると違う。三本の尾が左右へゆらりと揺れる犬のような獣だ。身体つきは幼く大人ではなさそうだが、小さなルカにとっては十分脅威だ。
『しっぽが三本あるっ!?この世界どうなってんだよ!』
三尾の山犬もさわがしい鳥のヒナに戸惑っているらしい。耳を伏せ、低く唸りながら慎重に距離を測っている。
『ま、待て待て!』
ルカは慌てて翼を大きく広げた。
『おれなんか食ってもうまくねぇぞ!?』
『グル?』
『ほんとだって!ちっせえし、骨と羽しかねぇから!』
三尾の山犬が一歩近付くと、ルカは一歩下がる。三尾の山犬が首を傾げると、ルカもつられて首を傾げる。互いに警戒しながら様子を窺うその姿は、どこか間の抜けた睨み合いだった。
『く、来るなよ?』
『クン・・・』
『だから、来るなって!』
ルカが思わず嘴を大きく開いて威嚇すると、三尾の山犬も負けじと牙を見せる。驚いたルカが飛び上がり、三尾の山犬も驚いて後ろへ飛び退く。
その様子に、ルカは思わず眉をひそめた。
(・・・あれ?)
もしかして。
(こいつも怖がってる?)
その瞬間だった。
三尾の山犬の耳がピクリと動くと、さっきまでルカを見ていた視線が真逆の森の奥へ向いた。張り詰めたように身体を低くし、鼻先をひくひくと震わせている。
その時だった。
『ルカ!!』
森の奥からキソが駆け戻って来た。
『危ない』
『え?』
その勢いのままルカを抱き上げると、そのまま辺りを鋭く見回す。
『何かいる。この辺ずっと探ってる』
キソは小刀へ手を添えたまま、森の奥から視線を外さない。
『獣の足跡』
『けもの・・・あー!それなら、もうおれが見つけたぞ!』
ルカは翼で茂みを指差した。
『ほら、あの変な犬!』
キソは反射的に振り向くと、茂みの奥に三尾の山犬がキソとルカを睨んでいた。
『・・・ん』
『な?あんなチビ助ならキソ楽勝だろ?』
しかし、キソは小さく首を横へ振った。
『ちがう』
『え?』
その一言と同時に、三尾の山犬も森の奥を睨んだまま低く唸り始めた。
『グルゥゥ・・・ゥゥ』
キソと山犬の様子に、ルカも恐怖が込み上げる。
『お、おい・・・なんだってんだよ』
次の瞬間――。
『グオオオオオオオオオッ!!』
茂みの奥のさらに奥から、山全体を揺らすような咆哮が森へ響き渡った。




