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第十八羽 足跡

 村を出た二人は、襲撃者たちが残した足跡を逆に辿るように山道を下り始めた。


 踏み固められた土には、大勢の人間が歩いた跡が今もはっきりと残っている。キソはその跡を見失わないよう足元を確かめながら歩き、ルカは肩へしがみついたまま、初めて見る異世界の景色をきょろきょろと見回していた。


 どこまでも続く深い森。見たこともない色の花々。太い幹へ絡み付く蔦は人の腕ほどもあり、枝葉の隙間から差し込む木漏れ日が地面へまだら模様を描いている。


『すげぇ・・・ここ本当に地球かよ』


 思わず漏れた呟きに、キソが首を傾げた。


『ちきぅ・・・?』


『いや、おれの知ってる世界の山とスケールが全然違うっていうか・・・』


 キソはよく分からないという顔のまま頷き、また黙々と歩き始める。そんな調子で山道を進んでいると、不意にキソの足が止まった。


『しーっ』


 キソはルカのくちばしにそっと人差し指を添えると、静かに身を屈めた。目線を上げたまま腰へ差していた吹き矢を取り出す。


 ショリショリ……。


 視線の先には、一羽の野ウサギが草を食んでいた。


 ヒュッ。


 ほとんど音もしない一吹きだった。


 毒針を受けたウサギは数歩だけ跳ねると、その場へ崩れ落ちる。


『・・・おお』


 ルカが感心したように目を丸くすると、キソは当たり前のようにウサギを抱き上げた。


『今日の、ご飯』


『ひと吹きで仕留めたのかよ!?』


 日が傾く頃には、小さな沢へ辿り着いていた。


 キソは火打石で焚き火を起こし、手際よくウサギを捌き始める。その鮮やかな包丁さばきに、巨大ヒナを解体していた時の光景が重なり、ルカは思わず顔を引きつらせた。


『・・・また始まった』


『?』


『いや、なんでもない』


 焼き上がった肉へ、キソは迷いなく粉末にした毒草を振り掛ける。


『おいそれ、また毒かよ!?』


『大丈夫、火を通せば無害』


 一口サイズに切ってもらったウサギの毒粉焼きを半信半疑で口へ運ぶと、香ばしい肉汁と懐かしさもあるスパイシーな香りが口いっぱいへ広がった。


『うまっ!カレー味じゃん!』


『・・・かれー?』


『カレーっていう最高の料理に似てるんだよ!』


 その言葉に、キソは少しだけ得意そうに笑った。




 日が落ちる頃、山を抜ける気配はまだなかった。


『今日は・・・ここで寝る』


 キソはそう言って足を止めた。


 途中で見つけた大木の洞は、大人が一人入れるほど大きく空洞になっており、夜更けには降り始めた雨もしのぐことができた。


 雨粒が木々を叩き、森全体が静かな雨音へ包まれていく。


『旅って、こんな感じなんだな』


『・・・少し、疲れた』


 キソは眠たそうに目を擦ると、ルカをそっと胸元へ抱き寄せる。


 焚き火の赤い火だけが、小さな空洞を優しく照らしていた。二人はその温もりに身を寄せ合うようにして、いつしか眠りへ落ちていく。


 だが――。

 


 その夜、二人の眠りを見守っていたのは、雨音だけではなかった。


 大木から少し離れた茂みの奥。雨粒が黒い毛並みを静かに濡らし、雫が一滴、また一滴と地面へ落ちた。


 赤い瞳は眠る二人をじっと見据えたまま、瞬きひとつしない。




 ザー……。


 雨は止む気配もなく、森の奥では枝葉を打つ音だけが静かに響いていた。

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