第十七羽 決意
ここは、ただ人がいなくなった村じゃない。焼け跡も、壊れた家々も、この静けさも――何かが起きたことを物語っていた。
ルカに問い掛けられたキソは布から目を離さないまま、小さく頷くと重い口をふっと開いた。
『二日前・・・突然、空が赤くなったの』
そう切り出すと、キソは、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
突然村へ現れた男たちのこと。薬草畑が炎に包まれ逃げ惑う村人たちのこと。そして、最後まで自分を逃がそうとしてくれた祖父のこと。
ルカは一度も口を挟まなかった。ただ黙ってキソの話に耳を傾け、時々、布の掛かった祖父へ視線を向けるだけだった。
キソの話が終わる頃には、陽は高く昇っていた。
『なんだよ、それ・・・』
ルカは拳……じゃなく翼をぎゅっと握る。ここへ来てから見てきた景色が、今になって一つへ繋がった。
『許せねぇな』
胸の奥から湧き上がる怒りは、自分でも驚くほど強かった。
『なあ、キソ』
『・・・?』
ルカは焼け跡へ視線を向けたまま続ける。
『このままここに一人でいたってさ、またそいつらが来るかもしれねぇだろ』
キソは何も答えず、ただ静かにルカの言葉を聞いていた。
『だったらさ』
ルカは口元を少しだけ緩める。
『こっちから行こうぜ?』
『・・・行く?』
『ああ』
キソは目をぱちぱちと瞬かせた。
村を出る――そんなことは、一度も考えたことがなかった。
生まれてから今日まで、この村だけがキソの世界だった。祖父がいて、村人がいて、毒草を摘み、毒を学ぶ。それが当たり前の日々であり、その続きを疑ったことなど一度もない。
だからこそ、鳥のヒナが当たり前のように「行こう」と言ったその一言は、キソにとって世界をひっくり返すほど意外な言葉だった。
『村をこんな目に遭わせた奴を探すんだよ』
しかし、キソは静かに首を横へ振った。
『もう、いない』
『え?』
『みんな・・・キソが毒で殺した』
少女の口から飛び出したとは思えない言葉だった。あまりにも淡々としたその一言に、ルカは思わず一歩だけ後ずさった。けれど、祖父の前へ静かに座るその横顔を見ているうちに、それが自慢でも後悔でもなく、ただ事実を話しているだけなのだと分かった。
『で、でもさ』
気持ちを切り替えるようにルカは口を開く。
『そいつら言ってたんだろ?』
キソがルカの小さな顔を見る。
『毒の村を滅ぼしたら、褒美が出るって』
『・・・』
キソは黙って頷いた。
『だったら、本当に探さなきゃいけねぇのは襲わせた奴だ』
ルカは腕を組み、焼け跡を見渡しながら一度言葉を切った。
『こんな村を襲って誰が褒美なんて出すんだ?それが分かんなきゃ、また同じことが起きる』
キソは祖父の眠る布とルカの顔を何度も見比べると、やがてゆっくりと祖父の前へ向き直り、小さくしゃがみ込んだ。
『じいちゃん・・・』
キソは布へそっと手を添える。
『キソ、友達が・・・できたよ』
その声はあまりにも小さく、少し離れた場所にいるルカには届かなかった。
『だから・・・少しだけ、旅に出るね』
一度だけ唇を噛みしめ、それから静かに顔を上げた。
吹き抜けた風が白い布を優しく揺らす。それはまるで、祖父がいつものように「いってらっしゃい」と笑いかけてくれたようだった。




