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第十四羽 発語

 死んでいたはずのヒナが飛び上がると、少女は少しだけ目を丸くした。


『・・・生きて、た』


 さっきまで巨大ヒナを迷いなく解体していた鋭い眼差しが、ほんの少しだけ柔らかくなる。


(お・・・?)


 その表情の変化に、琉夏は思わず胸を撫で下ろした。あれだけ手際よく巨大ヒナをバラバラにした相手とは思えないほど、その瞳には驚きと安堵が浮かんでいる。


(なんだ・・・怖い奴じゃないのか?)


 少女はしゃがみ込むと、泥だらけになったルカの翼へそっと手を添えた。羽毛を掻き分ける指先は驚くほど優しく、傷を確かめるようにゆっくりと身体を見回していく。


『ふぅ・・・ん』


(っほ・・・やっぱり普通の女の子じゃん!)


 そう安心したのも束の間だった。


『生き胆・・・神経毒に使える・・・』


(生き、きも・・・?)


 少女は考え込むようにルカを見つめたまま、今度は反対側の翼へ手を伸ばす。


『生き血はたしか・・・腐毒・・・?』


(・・・はい?)


 聞き間違いだと思いたかった。しかし少女は祖父の教えを思い返すように小さく頷くと、迷うことなく小刀を握り直した。


『じいちゃん・・・初めてだけど、キソ・・・やってみる』


(・・・やる?)


 その一言を聞いた瞬間、琉夏の全身から血の気が引いた。少女は悪気など一切ない表情のまま、一歩、また一歩と近付き、小刀を持った手をゆっくりこちらへ伸ばしてくる。


(待て待て待て・・・)


(そんな初めて、わざわざおれで試さなくていいって!!)


 反射的に床を蹴ると、ズザァァァァァッという音を立てて部屋の隅まで一気に後退した。


『ピィィィィィッ!!』


『あっ』


 少女は驚いたように目をぱちぱちさせる。


『逃げた』


(当たり前だ!巨大ヒナを解体してた奴から逃げない奴がいるか!!)


 琉夏は夢中で部屋中を駆け回るが、勢い余って薬棚へ激突してしまう。


 ガタンッという鈍い音とともに怪しげな壺が傾き、変色した木の実や毒草が床いっぱいへ散らばった。


『あっ・・・じいちゃんの毒壺・・・!』


 少女は慌てて駆け寄るとささっと毒草をかき集めた。


(今だっ・・・!)


 その隙を見て琉夏は反対側へ走り出したものの、いつの間に回り込んだのか、少女はもう出口の前へ立っていた。


 右へ逃げれば右へ、左へ逃げれば左へ、小柄な身体とは思えないほど軽い身のこなしでひょいひょいと先回りされ、何度方向を変えても出口へ辿り着けない。


(しつこいぞ、このチビやまんば!!)


 とうとう壁際まで追い詰められると、少女は今度は小刀を床へ置き、両手だけをゆっくりと差し出してきた。


『すぐ終わる・・・痛くしない・・・』


(・・・痛ぇに決まってるだろぉぉぉぉ!!)


 もう駄目だ――そう覚悟した瞬間だった。


『ピョ・・・ぴょっと、待てぇぇぇぇぇ!!』


 叫んだ途端、薬房の空気がぴたりと止まる。


 少女は差し出した手を止め、琉夏も嘴を半開きにしたまま固まった。


(・・・あ?)


 数秒遅れて、自分の口から飛び出したのが鳥の鳴き声ではなく、人の言葉だったことに気付く。


(・・・あれ?)


 琉夏は何度かくちばしをぱくぱくと動かしてみる。


『おれ今、ひょっとして・・・』


 思ったことが、言葉になった。自分でも信じられず、思わずくちばしへ翼を当てる。ふと顔を上げると、少女は差し出した手を宙で止めたまま、瞬きすら忘れたように固まっていた。


『ヒナが・・・しゃべった』

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