第十三羽 危機一髪
ゴリ……ゴリゴリ……。
何かを削るような嫌な音で、琉夏はゆっくりと意識を取り戻した。
全身が鉛のように重い。身体を起こそうとしても翼は思うように動かず、ぼやけた視界だけがゆっくりと開いていく。
最初に目へ飛び込んできたのは、見覚えのある黒い羽毛だった。
(ん・・・あ!?)
その瞬間、眠気は一気に吹き飛ぶ。
(あいつ!托卵ヤロー!!)
兄弟を次々と巣から突き落とし、自分まで崖へ道連れにした巨大ヒナ。その黒い身体が目の前へ無造作に横たわっていた。
(っく!まだ生きてたか!?)
反射的に構えようと身体へ力を込めた、その時だった。
サクッ。
乾いた音とともに巨大ヒナの首がコロリと胴体から離れ、そのまま床へ転がる。
(・・・・・・は?)
琉夏は、目を丸くしたまま固まった。何が起きたのか理解する間もなく、小さな手が巨大ヒナの身体へ伸びる。
羽を抜き、翼を外し、嘴を切り分け、足を一本ずつ丁寧に並べていく。その手付きには一切の迷いがなく、まるで料理人が魚でも捌くような鮮やかな手際だった。
ザクッ……コキッ……。
骨を外す音だけが静かな部屋へ響き、巨大だった身体は見る間に部位ごとへ分けられていく。
(こ、怖ぇぇぇ……)
さっきまで自分を震え上がらせていた巨大ヒナが、今度はあっという間に解体されていく。その光景を前に、琉夏の背筋へ別の意味で寒気が走った。
恐る恐るその手の主を見上げる。
ぼさぼさで緑色の髪。土や草汁で汚れた服。細い腕には小さな刃物が握られている。
(や・・・やまんばだ、これ!)
子どもの頃に聞かされた昔話が脳裏によみがえった。山奥へ迷い込んだ旅人をとっ捕まえ、自慢の包丁で片っ端から料理してしまうという恐ろしい妖怪。その姿が、頭の中で目の前の人物と重なってしまう。
だが、よく見るとやまんばにしては小さい。人間だったころの自分より、幼い少女だ。
『・・・一羽目』
少女は巨大ヒナの解体を終えると、小さく息をつき小刀に付いた血を布でひと拭きした。そしてゆっくりと顔を上げる。その視線は、真っ直ぐ琉夏へ向いていた。
(ちょっ・・・)
さっきまで巨大ヒナを見事な手際でバラバラにしていた手が、ぬうっと伸びてくる。
(ま、待て待て!!)
次は自分の番だとしか思えない。琉夏は痛みも忘れて飛び起きると、必死に翼をばたつかせながら全力で訴えた。
『ピピ、ピィィィィィィィィ!!!!』
(おれはまだ生きてるってぇぇぇぇぇ!!)




