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第十二羽 出会い

 夜が明けても、キソは祖父の傍を離れることができなかった。


 眠るように目を閉じた祖父の手を静かに胸元へ重ねると、その亡骸へ一枚の布を掛ける。そしてしばらくその場へ座り込んだまま、何も考えずに朝焼けへ染まる空を見つめていた。


 どれほど時間が過ぎただろうか。ふと立ち上がった時、キソは自分の手に薬籠が握られていることに気付く。


『山・・・行かなきゃ・・・』


 祖父はもういない。収穫を待つ村人もいない。それでも身体だけは、何事もなかったかのように山へ向かって歩き始めていた。




 朝露に濡れた獣道を進みながら、見慣れた毒草を一つ、また一つと籠へ入れていく。


 サクッ。


 根元へ小刀を添え、茎を傷付けないよう静かに摘み取る。その手付きは、昨日までと何一つ変わらない。


 祖父に教わった通り、葉の色を確かめ、茎を傷付けないよう根元から摘み取る。薬にも毒にもなる草ほど採集は慎重に――そんな言葉が、今も耳の奥へ残っていた。


『キソ・・・上手になったでしょ?』


 ぽつりと呟き摘んだ毒草を籠へ入れると、キソはまた何事もなかったかのように歩き始めた。


 ザッ……ザッ……


 どれほど歩いただろうか。


 籠が半分ほど埋まった頃、大きな崖の前で不意に足が止まる。


『・・・?』


 シン――。


 風に乗って不思議なにおいがした気がした。


 気づけば、さっきまで聞こえていた鳥たちの囀りがない。風が木々を揺らし、枝葉が擦れ合う音だけが静かな山へ流れていた。


『なに・・・?』


 小さく呟き、辺りを見回す。


 その時。


 ヒラリと風に乗って、一枚の羽根が目の前へ舞い落ちた。


『羽・・・?』


 そっと拾い上げると、見る角度によって光彩が変化する不思議な色だった。


『こんなきれいな鳥、この山に・・・』


 キソは羽根を籠へ入れることなく、そっと匂いを嗅ぐ。それは風に乗って匂った不思議なにおいと同じだった。


 辺りを見回し、その匂いを辿るように歩き始める。


 ザッ……ザッ……ガサッ……。


 木々が途切れた、その先でキソは息を呑んだ。


『・・・っ』


 崩れた枝葉の中に、見たこともない巨大なヒナが横たわっている。


 生まれたばかりとは思えないほど大きな身体は地面へ叩き付けられ、黒い羽毛は土と血にまみれていた。首は不自然な方向へ折れ曲がり、その姿だけで助からないことが分かる。


『お前も・・・』


 キソはそっとその身体へ手を添える。


 ……温もりはもうない。


 生まれたてのヒナは希少だ。羽も、肝も、嘴も、その命に無駄なものは一つもない。このまま山で朽ち果てるくらいなら、せめて毒師として最後まで役立ててやりたい。


 そう思い、その巨体を持ち上げたその時だった。


『あっ』


 巨大ヒナの翼の下から、小さなヒナがころりと転がり落ちた。しかし全身が泥と血で汚れ、首をだらりと垂らしたまま動かない。


『この子も、か……』


 キソは小さな雛をそっと抱き上げると、巨大な雛の背へ乗せる。


 まだ羽も生え揃っていない二つの命は、まるで最後まで寄り添うように静かに重なっていた。


『帰るね』


 誰へ向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


 薬籠に詰まった様々な薬草と毒草。その上へ巨大ヒナと小さなヒナをそっと乗せ、ゆっくりと来た道を歩き始めた。


 ザッ……ザッ……。


 小さな背中は二羽を乗せた薬籠を抱えながら、静かに山を下っていった。

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