1vsスタンピード
僕とフォルマーレ王女殿下は、早速魔物退治に出かけた。
魔物とは闇属性の魔力を浴びて、狂暴になった動物たちである。退治する方法は、魔核を破壊するか、魔核を取り除くことである。
「ファイアストーム!」
王女殿下が一つの魔法で数十匹の魔物を駆逐していく。
僕は大物の魔物を退治していく。
退治していく度に魔物は増えていく。僕はあることに気づいた。
「こいつら、生命を感じない」
魔物は倒すとアンデッドに変わっていった。
魔核を完全に取り除く前に再生すると、どうやらアンデッドに変わってしまうようだ。
「私が焼き尽くしてみますわ。『ヘルフレア!』」
魔物が業火に焼かれて消えて無くなると、ようやく退治が終了する。
僕は大剣を持ってこなかったことを後悔した。片手剣で肉を魔核から取り除くのに苦戦し、アンデッドに変わってしまうからだ。魔物退治がB級冒険者以上に限られる理由がわかった。
「ありがとうございます。フォルマーレ様」
「構いませんわ。その…助け合ってこその夫婦です」
僕の顔が熱くなる。フォルマーレ様を見ると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。なんだか最近、僕らはバカップルになってしまっているのではないかと思っている。言葉にこそ出さないが。
王女殿下の大魔法と、僕の片手剣で大型魔物合わせて百匹は駆逐した。それでも魔物が減った感じはしないが、王女殿下の魔力が尽きる前に退避することにした。
国宝である物が永久に入るバッグに、魔核を入れて僕たちは冒険者ギルドへと帰る。
※※※
受け付けの巨乳お姉さんは、魔核の数を見ると驚いてくれた。
「これは、質、量共に凄いですね」
「魔核を取り除く前に再生すると、魔物がアンデッドになるので焦りました」
僕がそう言うと、受付のお姉さんは驚いた様子で聞いてきた。
「魔物がアンデッドになる? なんですか、それは」
「アルコバレーノ様が言った通りですわ。魔核を取り除く前に肉が残っていると、もの凄い速さでアンデッドへと姿を変えます」
「しばらくお待ちください」
受け付けのお姉さんは踵を返すと階段を上がっていった。
「お待たせしました」
急いで下りてきた受け付けのお姉さんは、息を切らしていた。
「ギルド長を呼んで来ましたので、今の話の続きをお願いします」
階段から下りて来たのは、隻眼の短髪黒髪の大男だった。
「魔物がアンデッド化するってそりゃあ事実かい?」
僕らは同じ話を繰り返すと、ギルド長は顎に手を当てた。
「そんな話聞いたこともねえぞ」
ぶっきらぼうに話すギルド長。
「だが、聖女様が見たっていうなら疑うわけにもいかねえな」
「おい、パイン。他のA級B級冒険者にも聞いておけ。事が事だ。急げよ」
「はい」
ギルド長に僕らが帰ってもいいか尋ねると。
「いや、少し待っててくれ。他の冒険者と摺り合わせたい」
※※※
A級冒険者の訓練場で試験をしていた銀髪の剣士ロベルトが言った。
「ああ、それは確かにあるかもしれない。魔物の肉は埋めるか燃やし尽くすことと義務化されている。気にはしてなかったが、埋めた肉からアンデッドが生まれていた可能性はある。魔核も増えすぎて放置してたしな」
他の冒険者も同じように答えた。
「じゃあ、面倒だが、これからは肉は燃やして埋めず魔核は出来るだけ持ち帰って来て欲しい」
ギルド長が頭を下げる。
「ああ、わかった。だが、小さい魔核まで持ち帰るのは無理だ。聖女様たちみたいに便利なバッグがあるわけでもねえしな」
「わかった。小さな魔核なら小型魔物のアンデッドが増えるだけだ。大丈夫だろう」
「さあ、解散だ」
皆がギルドの貴賓室から出ようとすると、僕らだけが残された。
「すみません聖女殿下。殿下たちには話があって残させていただきました」
ギルド長が王女殿下に身分証を渡すように言う。ギルド長は身分証を受け取ると、炎の魔法で燃やしてしまった。
「な、なぜですか?」
「私の勘が疼くのです。聖女様を王都から出してはならないと」
「根拠は?」
「聖女様のパーティーにアルコバレーノ様がいることが問題なのです。申し訳ありませんが、アルコバレーノ様は身体強化しか使えません。何かが起きた時、聖女様が無茶をされては困るのです。聖女様はこの国の希望です。勇者をつけるのであれば、先ほどのロベルトを付けるべきだと判断しました」
「アルコバレーノ様は弱くはありません!」
「ええ、アルコバレーノ様は弱くはありません。ですが、魔族を相手にした時、彼は聖女様に守られるだけの存在になります」
「そんなことはありません!」
「それでは、アルコバレーノ様に魔族の使役する四大精霊の攻撃を防ぐことが出来ますか?」
「それは…」
「アルコバレーノ様だけなら逃れられるでしょう。しかし、あなたの足ではアルコバレーノ様についてはいけない」
僕は思わず叫んだ。
「フォルマーレ様は僕が守りきって見せます」
「根拠は?」
「……」
「無いのでしょう。ギルドとしては、アルコバレーノ様単独で再び調査をして頂きたい」
僕はフォルマーレ王女殿下の前で膝をつく。手にキスをすると誓った。
「フォルマーレ様。僕はこれから単独で問題の解決に向かおうと思います」
眉をひそめるフォルマーレ王女殿下。僕は言葉を重ねる。
「僕を、信じてくれますか?」
互いに笑みを浮かべる。貴賓室の扉をコンコンと叩く音が聞こえてくる。
「王城から聖女様を迎えに馬車が来ました」
「それでは、聖女様。セバスティアーノ殿がお待ちです」
フォルマーレ王女殿下は僕に口づけしてきた。
「どうか、ご無事で」
僕は頭を沸騰させながら答える。
「はい。心配ありませんよ」
僕はフォルマーレ王女殿下の乗る馬車が見えなくなるまで見送った。
「アルコバレーノくん、君にはして欲しいことがあるんだ」
王国で唯一勇者と認められたAランクパーティーに所属する剣士ロベルトが言った。
「なんでしょうか?」
「きみには南の森を調査して欲しい。南の森には大型魔物が多い。きみに向いているだろう」
「そういうことなら、承りました」
クスクスと笑う勇者パーティーに不審を感じながら答えた。
※※※
南の森。
なんだか不気味な静けさだ。
魔物の気配がない。しかし、死臭がする。
「「「グォ―――――ッッッ!!」」」
森の奥から死臭の咆哮が響き渡る。
生気がない。しかし強大なエネルギー達が、僕に向かってくる。
山が崩れたかと錯覚するように、土砂崩れのようにアーマーベアーやレッサードラゴン達がなだれ込んでくる。
僕はその影響で折れた丸太と片手剣を手に立ち向かう。
丸太で叩き動きを止め、アンデッドの肉を削るように片手剣を滑らせた。
数は多いが、僕は身体強化したこの身体で雷にように素早く動き、巨大な金槌のように打撃を与え、良く研がれた刃のように肉を削ぐことが出来る。
僕は慎重に、一匹ずつ敵を屠っていく。誰が用意していたか分からないが、スタンピード並みに魔物が溢れてくる。その全てがアンデッドであり、今この時間に大量に溢れるように逆算していた者がいるはずだ。こんなことをやってのけるのは、魔族か、でなければ、人間でも上位の数パーセントの力を有した、そう…
「…勇者くらいだ」
そんなことは今はどうでもいい。今は身体が軋もうと、脳が焼き切れるほどに思考しようと、ここで魔物を止めなければならない。僕の後ろには100万の民がいる。騎士団も準備は出来ていないだろう。僕は言葉の通り、死力を尽くしてやり遂げなければならない…。
僕はその日、一人でスタンピードと戦っていた。
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