盗賊退治
「盗賊退治?」
「ええ、そうですわ。魔王討伐はずっと先の話。まずは今問題になっている街道の盗賊さんを一つ一つ潰しに行きましょう」
4日目の授業が終わると、フォルマーレ王女殿下がそんなことを言いだした。
「盗賊退治は、王国軍や領地持ち貴族が行うことではありませんか?」
「そうですわね。ですが、王国軍や領主軍でも手を焼いている盗賊団が多いのですわ」
「それを僕がやっつけるという話ですか?」
「ええ、その通りです。勇者には箔をつける必要があります」
「おっしゃることは理解しましたが、僕一人で盗賊団を壊滅させることなんて可能なんでしょうか」
「何もお一人でとは言いませんわ。王国軍と共に、盗賊団を壊滅するのです」
「王国軍の栄誉を奪うことになりませんか?」
「勇者と王国軍が共闘した…と言えばよろしいかと」
「待ってください。盗賊団には4大魔術師がいるのではないですか?」
「ええ、もちろん。でもこちらにも4大魔術師がいます」
「僕は役に立てますか?」
フォルマーレ王女殿下が首を横に振る。
「役に立つ必要はないのです。正直まだ私たちは子どもですし、今すぐ直接盗賊を倒せとは言えません。ですが、王国軍と幼い頃から共闘していた、という噂が広まれば、アルコバレーノ様と共に戦いたいという猛者たちがこの王都に集まってきますわ」
「なるほど…」
僕は両手を組んで目を瞑る。王女殿下は眉をㇵの字にしておずおずと尋ねてくる。
「小狭いと、そう思いますか?」
「いえ、僕が足手まといにならないかと心配なだけです」
「それは……私にもわかりません。ですが、勇者という存在はどんな形であれ人を惹きつけますわ」
王女殿下は今まで見たことのない困った顔をしている。そんな顔をさせてしまったことが申し訳ない。
「やりましょう。それがこの国の未来に繋がるのなら、やるべきです」
※※※
僕と王国軍は、王都近隣にある盗賊団の拠点へとやってきた。森に囲まれた洞穴だ。
「勇者様、初陣のご感想は?」
馬車に乗ってやって来た最後尾の僕の元に、身長が高くいかり肩の美丈夫が馬に乗ってやって来た。イルフォルテ大将だ。
「いや、正直緊張しています。空気が張り詰めていて息苦しいですが、なんとか耐えられそうです」
「ハハハハハッ! この空気に負けないことこそが大事なのです。ピリピリした空気に気圧されないこと。将来有望ですな」
イルフォルテ大将は、僕を馬車から降ろすと、手を伸ばし自分の馬に乗せた。
「直接戦う前に、まずは戦場の空気というものを知る所から始めましょう」
イルフォルテ大将の馬に乗せられた僕は、ただ前を見て頷いた。
「空気が変わった、そろそろ来るぞ」
イルフォルテ大将が呟く。
洞穴から大きな火の玉が飛んで来る。王国軍は水の魔法で防ぐ。洞穴から馬に乗った盗賊たちが次々と出てくる。王国軍の騎士部隊もまた、盗賊たちに迫る。あちらこちらで殺し合いが始まった。僕は怖くて震えている。
大きな盗賊団だけあって4属性魔術師が多い。王国軍にもまた、4属性魔術師は多いが、様子がおかしい。今はまだどちらが攻勢にでるか分からない状況が続いているが、なんだか徐々に攻め込まれている気がする。
「あいつら、魔族を味方につけたか…」
僕の上でイルフォルテ大将がぽつりと言った。
「フハハハハ、王国軍なんぞ、我々魔族に比べたら無力よ」
普通の人間に見えるが、赤い目の小柄で手足に入れ墨をいれた男が笑った。
「我が名はモルテ。4大精霊と契約し、死を運ぶ者なり」
王国軍がざわめいた。4大魔術を使えることと、4大精霊を従えることは全く別の話だ。
中将がイルフォルテ大将の元へとやって来る。
「イルフォルテ様、ここは一度引き下がった方が宜しいかと思います」
「ならぬ。今回は勇者様の初陣だ。初めての戦で逃げ出したとあらば、フォルマーレ王女殿下の資質が疑われることになる。それだけは避けねばならん」
王国軍が怯み、徐々に押され出した。
「イルフリートよ、目の前に存在するあらゆる命の輝きを燃やし尽くせ」
魔族とみられる男は、仲間の盗賊を含めて、王国軍を焼き払った。
「仲間ごとだと?」
「人間が我ら魔族の仲間だと。フハハ、笑わせてくれるな。我はこやつらを支配していただけだ」
僕はイルフォルテ大将の馬から降りると、馬車の上に乗せていたおじいさまの木刀を手に取った。
「それなら僕は、支配されていた人間たちを解放するだけだ」
「小僧なんぞに何が出来る?」
「木刀を振り回すことなら出来るさ」
僕は瞬間移動のようにモルテに肉薄すると、モルテに向けて丸太の様な木刀を振った。すると、パンッと音がしてモルテの頭がはじけ飛んだ。
しばらく静まり返った後、王国軍から歓声が上がり、盗賊たちからは安堵の声が上がった。
「イルフォルテ様?」
中将が大将の顔を見て驚いている。大将は満面の笑みを浮かべていた。
「やはり、フォルマーレ王女殿下は本物だ」
大将がくつくつ笑うと中将も笑いだした。
「盗賊に告ぐ! 我らが勇者は本物だ! 大人しく降伏せよ!」
一部の盗賊たちは黙って腕を縄で縛られていく。そんな中、一人の男が声を上げた。
「俺たちは盗賊じゃねえ! さっきの魔族に支配された傭兵団だ!」
イルフォルテ大将が言う。
「だが、街道を行く馬車を襲っていたのだろう?」
「アンタたちも見たはずだ。4大精霊を従える魔族なんぞに俺たち人間が勝てるわけねぇって。アンタたちには勇者様がいるから勝てたに過ぎない」
確かに、モンテという魔族の魔法一回で、数百人の命が失われてしまった。人間には、魔族に対する防衛力が皆無に等しい。一部の冒険者たちがその防波堤となっているが、それも絶対的に勝てるという保障も無かった。その力が今、目の前に歴史的に初めて誕生したのだ。
「詳しい精査の後、改めて無罪か有罪かを判断する。とりあえずは、王都の牢屋に入ってもらうことになるが…」
「う…くっ、仕方ねえ…」
元傭兵は渋々お縄についた。
僕は何が起きたか分かっていなかった。人間の誰もが天災のように怯える魔族を、一瞬のうちに倒してしまった。フォルマーレ王女殿下の言うとおりになったのだ。主人公? そんなことは分からないが、僕に魔族が倒せると証明して見せた。フォルマーレ殿下は本当に凄い。
※※※
「ただいま」
僕が王城に戻ると、フォルマーレ王女殿下が駆けてきて抱きしめてくれた。
「ああ、ごめんなさい。アルコバレーノ様が無事でよかった。本当に」
「ん? フォルマーレ様に謝られることなんて何もありませんよ?」
「ですが、魔族が現れたと聞きましたわ」
「え?」
「え?」
お互いぽかんと口を開ける。
「フォルマーレ様? まさか盗賊団に魔族がいることを知らなかったんですか?」
申し訳なさそうに目を伏せるフォルマーレ王女殿下。
「ま、まあ、結果オーライですよ。王国からしたら盗賊団を討伐出来た。僕からしたら、魔族と戦える力があることに気づけた」
「そう言って頂けるのならば、良いのですけれど…」
「あ、それよりこれ。イルフォルテ大将が姫様に渡すようにと預かってきました」
赤黒い宝石のようなものを僕はフォルマーレ王女殿下に渡す。
「これは……」
「なんでも、魔族の心臓のような物。魔族の魔核だとか」
「こんな貴重な物を私が受け取って良いのでしょうか?」
「イルフォルテ大将が言うには、どうせフォルマーレ王女殿下以外にこれの使い方を理解できる者はいないからと」
「そうですか…いえ、そうですね。私以外に使い道が分かる人間はいないと思いますわ。有難く受け取っておきます」
僕とフォルマーレ王女殿下は互いに笑いあった。
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