授業が始まった
授業が始まった。
「アルコバレーノくん。この術式を答えて見て」
「風魔法であるサイクロンの術式です」
「ええ、そうですね」
緑髪の黒縁メガネの少女? 女性が魔術の教師だ。彼女は背が低く黒板に手が届かないので、宙を浮きながら授業をしていた。彼女が続ける。
「この術式を反転させて、数字の1を足すと何になりますか? では、ロッソくん」
「わかりませーん」
「じゃあ、アルコバレーノくん」
「火炎の魔法陣になります」
「正解です」
やる気のないクラス。学級崩壊していて、授業中なのにワイワイガヤガヤしている。中には、堂々と食事をとっている者もいる。
「せんせー。僕らはどうせ一兵士として死地に向かわせられるだけなので、勉強の意味はないと教わりましたー」
「いいえ、あなた達平民でも、城の官僚として立派に働いている人たちもいます」
「せんせー。僕ら奴隷は間違いなく死地に送られると兄に言われましたー」
「うぐ…では、生き残るために精一杯勉強してください」
「せんせー。それは無責任です」
「うぐ…では、もう今日の授業は終わりです」
奴隷の学生たちは最前線に送られる覚悟をしている。それぞれが一時的に平民として生きられる今を謳歌しているのだろう。まあ、僕もまた最前線に送られるのだが。
※※※
実技の授業。
黒髪の身長3メートルはある筋肉ダルマが教師だ。
僕は素手で彼とスパーリングをする。僕は身体強化を使わないことが条件だ。彼は四大魔術を容赦なく使ってくる。
「ぐはははは、ここからは本気でいくぞ。『底なし沼』」
僕の身体が土の中に沈んでいく。僕は両手で液状化した土を思いっきり叩いて底なし沼から飛び出す。
「ぐははは、やるなあ。じゃあ、これはどうだ? 『ヘルフレア』」
僕は高速スピンをしてヘルフレアを分散させる。
「次は僕の番ですね」
僕は筋肉ダルマの懐に入ると、顎を狙ってアッパーカットする。
筋肉ダルマは、顎の下に丸太のような両手を当てて、それを防ぐ。しかし、僕は丸太のような腕を弾いて、顎に一発入れた。
筋肉ダルマは白目を剥いて倒れる。だが、すかさず治癒の魔導士である教師が治療し、再び戦闘を開始する。
「どうした。今日はまだ三回しかノックアウトされてないぞ」
「これからです」
「ぐはは、頼もしいな」
僕と筋肉ダルマは授業の間死闘を繰り広げる。
他の生徒はというと、各々で得意な魔法を使って遊んでいる。
※※※
ようやく午前の授業が終わった。
食事をしようと食堂へ、そしていつもの席へと向かう。フォルマーレ王女殿下の前だ。
「アルコバレーノ様は、今日は何を学びましたの?」
「魔術の術式と一対一の戦闘訓練かな」
「あら、やはり校長に抗議をしに行かなくてはなりませんわね」
「いや、今のままでいいんです」
「なぜです?」
「僕の魔法じゃ戦略を描けない。必然として、僕は最前線で戦うことになる」
「それは……ですが、あなたが死ねば私たちは大敗しますわ」
「その為の、生き残る訓練だと思い知ったのです。殿下たちは指導者として戦況を見抜いて兵隊を動かし戦う授業を、僕は個人の武として相手の大将クラスを倒さなければならない授業なのだと理解しました」
「それは危険ではありませんか?」
「危険は承知です。僕一人でなんとか大将クラスを…いや、魔王を倒してみせます」
「あなたの決意は分かりました。しかし、婚約者として言わせてください…」
「…どうか、死なないで」
「はい。それは…必ず」
僕らの前に食事が運ばれる。
「それでは食事にしましょう」
僕は王女殿下の皿から玉ねぎを取り、王女殿下は僕の皿からトマトを取った。目と目を合わせて笑い合う二人。
※※※
「諸君、諸君は選ばれたのだ」
軍服を纏い、右目に傷のある、白い髪を短く切った女教師。Fクラスの皆に精神論を伝える。
「諸君は死ぬために選ばれたわけではない。この国を、家族を守る為に選ばれたのだ」
ロッソが冷やかす。
「せんせー俺らにこの国を守る価値はあるんですかー」
「お前らは考えない人形か? お前らが戦わねば、お前らの家族が殺されるのだぞ。いいか、お前たちはこの国の為に生きているわけではない。家族を守り、家族を平民にする為に生きているんだ」
生徒の一人がゴクリと唾を飲み込む音が響く。
「俺らが戦ったら家族が平民になるなんて話初めて聞いたんすけど?」
「私も10年前は奴隷だった」
教師が語る。
「私もまた、10年前は奴隷だったのだ。10年前の戦で生き残り家族と共に平民になった」
「いいか、ここで努力できない奴は戦場で死ぬことになる。私がお前らの鏡だ。努力した先の姿だ。お前らは、私だ」
静かに空気が張り詰めていく。
「私は生き抜いた。周りに流されず、するべき努力をしてきたからだ。血を吐く思いで努力してきた。その結果、私は学校で教鞭を執っている。私が教えることはただ一つだ。生き残れ」
※※※
次の日。
緑髪の黒ぶち眼鏡の幼女……もとい、女性教師の授業が行われていた。
「先生、魔族が使う魔術は具体的に何ですか?」
「せんせー。ウィンドカッターを反転させるとなんの魔法になるんすか?」
生徒たちが次々に質問を投げかけてくる。
「皆さん落ち着いてください! 質問は一つずつでお願いします」
「まず魔族の魔法についてですね。魔族が使うのは四大精霊を使役した魔法です。人間たちよりも魔法と結びつきが強い魔族が多いのです。準備をおろそかにしていけば、一度に発動した魔法で人間百人の兵士の命が一瞬で奪われます」
コホンと咳払いすると、教師は続ける。
「その百人の命を守るのが、兵士と共に戦場に出るあなた達です。魔法は魔法陣が無ければ発動しません。それが四大精霊を使役した魔法でも同じです。魔法陣から魔法の特性を看破し、十人規模の魔法で魔族の魔法を防ぐことが可能です。いいですか? あなた達は盾です。魔族の魔法を防ぐ盾。兵士たちが矛になります」
静まり返った教室。桃色の肩できりそろえられた髪の少女が手を挙げる。
「はい、ぺスカさん」
「先生も、昔は奴隷だったんですか?」
「私ですか? 私はまだ8歳なので、戦場経験はありません」
見た目通りの歳だったんかいッ!
「私は、親兄弟を戦場で亡くし、この学校に拾ってもらって教鞭を執っています」
「先生は魔法になんでそんなに詳しいのですか?」
「私の家は代々この学校で魔法の授業を受け持ってきた家系です。三歳の頃から基礎を教わり、五歳で四大魔術を極め、六歳で白魔法や闇魔法を極めました」
「六歳で父母兄弟を失いましたが、当主の座に就き今は学校で授業をしている身です」
教室内がどよめく、自分たちより境遇が酷いとわかると人間優しくなれるものである。どよめきの声もまた、「がんばって」「これからはちゃんと授業聞くよう」と優しい言葉だった。
目を潤ませた幼女がそこにはいた。
「私も頑張るので、皆さんも一緒に頑張りましょう。どうか、みんな生きて帰って来てください。私も授業を頑張りますから」
その発言がクラスの皆の胸に響く。
今や、立場が逆転してしまった。
「試験勉強頑張ってSクラスを抜いてやるぞ、皆」
とクラスを鼓舞する者や。
「必ず生きて帰るから、お仕事頑張って」
とフラグのような言葉を放つ者。
様々な者がいるが、一番多いのは俺たち私たちは幼女相手に何をしていたんだろう。という自戒の念だったとか。
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