別視点チェロ・ソーニョ
まどろみの中で、俺の意識は名前を呼ばれて浮上する。
「チェ……ロ・ソーニョ……」
「起きろ。チェロ・ソーニョ」
「お前は、フォルマーレ様の暗部……」
「どうやって俺を助けた?」
「お前の首に魔石を埋めた」
「なに? 俺を赤目にしやがったのか」
「お前の力が必要だ、チェロ・ソーニョ」
「お前の名前は確かエレミータだったか?」
「そうだ」
「なぜ俺を助けた?」
「お前にしか、フォルマーレ様を女王陛下に出来ないからだ」
「不可能だ。お前も見ていただろう。そのフォルマーレ様はアルコバレーノにしか動かせない」
「それは分かっている」
「なら、なぜ俺に頼むんだ」
「お前がアルコバレーノの弟だからだ」
「俺がアルコバレーノを動かせると思っているのか?」
「ああ、お前意外にアルコバレーノを動かせない」
「アルコバレーノは俺にも動かせないぞ」
「お前はアルコバレーノに顔を見せるだけでいい。後は我々フォルマーレ様の直属の家臣がやる。お前にはアルコバレーノを一瞬油断させることだけに期待している」
「アルコバレーノをお前らが消すと言うのか?」
「そうだ」
「フォルマーレ様が黙っちゃいないぞ」
「後のことは後で考えればいい。とにかくアルコバレーノが邪魔だ」
エレミータが俺の影へと沈んでいく。
「とりあえず、魔王国にまで行け」
「随分と強引で傲慢なんだな」
「私はフォルマーレ様以外に忠誠を誓ってはいない」
「フン。アルコバレーノが気に入らないのは俺も同じだ。奴を消すくらいは手伝ってやろうじゃないか」
まず俺は実家に帰った。
「父上、今帰りました」
「おお!チェロじゃないか!よくぞ無事で帰って来てくれた」
「瞳の色は赤くなってしまいましたが」
「そんなものはどうだって良い。お前が無事であることに変わりはないのだから」
「父上、く……」
俺は父の言葉に思わず涙した。
「父上、馬車をお貸しください」
「ああ、勿論構わんが、お前はどこへ行くんだ。お前はローザ王女に命を狙われているんだろう」
「はい。ですが、私の向かうのは魔王国です」
「フォルマーレ様の元か?」
「はい」
「何をする気だ?」
「エレミータ出てこい」
ズズズと俺の影から能面を付けた忍者の様な格好の男が現れる。
「こいつはフォルマーレ様の暗部の者です。こいつにアルコバレーノの奴を始末してもらいます」
「なんと!フォルマーレ様の暗部を味方に付けたか」
「はい。なので、家紋を消した馬車を貸して下さい」
「わかった。すぐに用意させる。待っていろ」
俺はエレミータへ聞いてみた。
「なぜフォルマーレ様の幸せの邪魔をするんだ? 少なくともフォルマーレ様は、女王をしているよりも、アルコバレーノに嫁いだ方が幸せだと思っているぞ」
「私達はフォルマーレ様の幸せのみを願っている。その次にこの国の幸せだ。アルコバレーノがその枷になるというのなら、殺すまでだ」
「フォルマーレ様の幸せはこの国の幸せであるべきということか」
「その通りだ」
エレミータと初めて視線が交わった。
「俺はあくまで、この国のトップになる為に動くぞ。フォルマーレ様も勿論その隣にはいるが」
「フォルマーレ様がこの国の女王陛下でいるのなら、それで構わない」
「なぜ、そこまでフォルマーレ様にこだわる?」
「フォルマーレ様は、我々に仕事を与えてくれた。過去に君主にも脅威とされて、王国から切り離された我々の存在を見つけ、その上、側近として扱ってくれた。我々は女王陛下に忠誠を誓っているわけでなく、フォルマーレ様に忠誠を誓っているのだ。ローザ様では不足なのだ」
「それにだ。フォルマーレ様以外の嫁を作るやつに、フォルマーレ様をやるわけにはいかん」
「ん?」
「フォルマーレ様だけを愛する男でなければならない」
「ハハハ、なるほどな!いいだろう。俺はフォルマーレ様だけを愛すると誓おう」
「そうであるのなら、フォルマーレ様の王配として認めよう」
エレミータと意見が一致した。俺は俺の目的の為に動くが、フォルマーレ様も転生者だ。
転生者なら人間だ。転生者なら愛することも出来る。その辺のNPCとは違うのだ。
「家紋を消した馬車を持ってきたぞ」
父が俺に馬車を渡して来る。俺は馬車に乗り込んだ。
御者が馬車を走らせる。
「エレミータ、暇だ。俺の話し相手になれ」
俺の影からズズズと出てくるエレミータ。
「何を話そうか?」
「お前ら一族の歴史でも教えてくれ。なぜ突然君主に追い出されたかもな」
「我々の一族の始まりは王国の歴史の始まりまで遡る。元々は帝国の一部だったこの王国は、帝国に虐げられた者達の蜂起で生まれた国だった」
「なに? そんな歴史は教わっていないぞ。眉唾ではないのか?」
「眉唾などではない。王国には人族しかいないだろう。王国で獣人を見たことがあるか?」
「ないな。獣人は共和国と帝国と魔王国にしかいない」
「そうであろう」
エレミータは能面を外す。
「王国は人間以外の者には非常に差別的だ。人間の国に獣人がおると不味いだろう」
「なるほどな。面の中は犬だったか」
そこには犬獣人の姿があった。
だが、俺にとっては人間も獣人も同じようなものだ。同じNPCだからな。
「別に人間だろうが、獣人だろうが構わん」
「貴様は獣人に対する差別はないのか?」
「ない」
「ほう、それは意外だったな。そうか。それならば貴様にも力を貸してやろう」
「ああ、助かる」
俺とエレミータは利害が一致したので協力関係を築いていくことにした。




