僕とフォルマーレ様③
それから更に南下して2週間後、僕らは王国に着いた。
フォルマーレ様の姿絵が一般家庭にも浸透している王国では、フォルマーレ様は顔パスで関所を通り抜けることが出来る。
フォルマーレ様が帰ってきたことはすぐに広まった。
王都へ着くと、王国民達がもの凄い歓声で迎える。
「女王様ーおかえりー!」
「「「おかえりなさーい!」」」
そこに、チェロ・ソーニョが現れる。
「おかえりなさいませ、女王陛下」
「……」
そこへ、マルツォがやって来た。
「おかえりなさいませ、フォルマーレ様」
「ただいま、マルツォ」
フォルマーレ様が御者台から下りる。
「今すぐに城へ向かいます。あなたも来なさい。チェロ・ソーニョ」
「はッ!」
「あなたもです。アルコバレーノ様」
「はい」
そこへチェロ・ソーニョが待ったをかける。
「この失敗作も城へ連れて行くのですか?」
「失敗作とは何です? あなたが成功者だとでも?」
「違いますか?」
「違いますわ」
「それでは行きますわよ」
※※※
僕らは城へ着くと、そのまま謁見の間へと向かった。
玉座にはフォルマーレ様の妹君、ローザ女王陛下が座っていた。
玉座からローザ女王陛下がフォルマーレ様の元へと駆け寄り抱き締める。
「お姉様!」
「なにがあったの、ローザ」
「お姉様……う……うぅ……」
涙を流すローザ。
「あの方が、チェロ・ソーニョがセッテ様を攫いましたの」
「チェロ殿、これはどういうことですか?」
「残念ながら、セッテ殿には王配は難しいと思いました。よって排除したのです」
「排除とは穏やかじゃないですわね。セッテ殿をどこへやったのです? まさか殺したとは申しませんわよね」
「まさか。セッテ殿には今、南国のビーチで旅行を満喫して頂いていますよ」
「南国のビーチ?」
「ええ、従者からはとても満足されているようだと聞いております」
フォルマーレ様が片手を挙げると、暗部の者がフォルマーレ様の影よりズズズと出てきた。
腕の長い、能面をつけた黒い忍者の様な服の男が現れる。
「エレミータ、あなたは何をしていたの? セッテ殿を探してちょうだい」
忍者の様な男は両手を交差して胸に当て、膝をつく。
「仰せのままに」
ズズズとフォルマーレ様の影の中へと沈んでいく忍者の様な男。
「ククク……アハハ!暗部も御せないローザ様とセッテ殿に政治が出来るとお考えになりますか?」
「あなたの仕業ですわよね」
エレミータがズズズとフォルマーレ様の影から出てくる。
身体をロープで縛られた青あざだらけの顔をしたセッテ殿を担いで来た。顔はパンパンに膨らんでいる。
「セッテ様!」
ローザ様が自分の膝にセッテ殿の頭を乗せる。
僕は白魔法を使った。
「ハイヒール」
セッテ殿の顔から腫れが引いていく。
「う……うぅ……ローザ」
「セッテ様をこのような目に合わせた連中を連れて来ました。フォルマーレ様」
続けて能面の忍者姿の男は高そうな服を身に纏った男達をロープで縛って連れて来た。
「公国の貴族達ですわね」
「チッ!だから早く殺しておけと言ったんだ」
チェロ・ソーニョが舌打ちをした。
「チェロ、なぜこんなことをした?」
「うるさい。AIごときが人間様に兄風情とは笑わせる」
「お前もまさか、転生者か?」
「ああ、そうだとも。主・人・公・様」
僕は弟を殴った。
「ぶへらあああぁぁぁッ!」
初めて身内を殴った拳は痛かった。それがたとえ転生者であっても……。
やり過ぎたかな……いや、どうせこうなってしまってはチェロは……。
「チェロ・ソーニョと公国の貴族を処刑します」
フォルマーレ様が言った。
僕に止める権限はない。
「なにを? なにを言ってやがる!フォルマーレ!」
「チェロ……貴族の義務を果たせ」
「ふざけるなNPCごときが!」
「この痴れ者を牢屋に連れて行きなさい!」
「ちょ……フォルマーレ。フォルマーレ様!待ってください!」
警備兵がチェロを連れていく。
「公国の貴族達も連れて行きなさい」
公国の貴族達は縛られている為、警備兵に抵抗出来ず担がれて連れていかれる。
フォルマーレ様が手を叩く。
「ほら、みんな持ち場に戻りなさい」
謁見の間にいた者達が、持ち場に戻って行く。
「アルコバレーノ様、アルコバレーノ様もお部屋へ」
懐かしい声が聞こえた。セバスティアーノがそこにいた。
「アルコバレーノ様のお部屋はいつでも使えるように整備されていますので」
鼻の奥がツーンとする。
「アルコバレーノ様がいつでも戻られるように、セバスティアーノ殿には王城にいてもらったんです」
僕はフォルマーレ様に感謝した。
※※※
1週間後。
断頭台が備え付けられた処刑場。
チェロと公国の貴族達が並べられていた。
皆腕を後ろ手に縛られている。
「冤罪だ!これは赤目達が仕組んだ冤罪だーッ!」
チェロが叫ぶ。
公国の貴族達から処刑が行われていく。ドンッドンッドンッと、音がする度に首が飛んだ。
チェロの番が来る。
処刑人がチェロに尋ねる。
「最後に言うことはあるか?」
「最後ではない!私は冤罪と言っているだろう!そこの赤目に懸想した愚かな女王陛下が我々を欺いたのだ!私は被害者だ!」
処刑場に上るフォルマーレ様。
「私はもう女王ではありません。今の女王は妹のローザ女王陛下です。そして、王配はセッテ様です」
「チェロ・ソーニョが王配になるという噂話を信じた者もいるでしょう。ですが、それは正しくありません」
僕に手招きするフォルマーレ様。処刑台に上がる僕。
フォルマーレ様に女王になってほしい人間達は、チェロの話に耳を傾けていた。ざわざわとする観衆たち。
「私の婚約者は今も昔も、このアルコバレーノ・ソーニョ様ただお一人です。赤目になったとて白紙ではありません」
赤目に不信感のある王国民達はチェロの話に流れそうになっていた。
「そもそもアルコバレーノ様が赤目になったのは、この国を守る為でした。アンデッドのスタンピードをただお一人で、命を賭して防いだ為です」
僕は自分の言葉で語った。
「僕が赤目になったのは彼女の愛するこの国を守る為でした。アンデッドのスタンピードを一人で制圧し、大怪我を負った僕がフォルマーレ様の元へ戻るには、赤目になる必要がありました」
処刑を見守っていた観衆が、僕の言葉に耳を貸すようになった。
「僕は……愛するフォルマーレ様の元へ戻る為に、赤目になりました!」
観衆達の一部から感嘆の溜め息が漏れる。フォルマーレ様の頬が朱に染まる。
チェロが再び叫んだ。
「お前らは女王がローザ様でもいいのか!? フォルマーレ様以外に、女王の代わりが務まるのか!?」
観衆達の中から、声がする。
「フォルマーレ様にも幸せになる権利があるはず……」
「そうだ。今まではフォルマーレ様が俺達に幸せになれるような国づくりをしてくれた。今度はフォルマーレ様が幸せになる番だ」
観衆がチェロの処刑を求める声と共に、フォルマーレ様の幸せを願う声に変わった。
「アルコバレーノ様……私と結婚してくださいますか?」
僕はフォルマーレ様の前に跪き、左手に口づけをする。
歓声が沸くと共に、チェロの首が飛んだ。




