別視点 フォルマーレ
私は王国の女王になった。でも胸にぽっかり大きな穴が空いていた。
父は健在のまま私を12歳で女王にした。
父は忙しければ彼のことは忘れると言った。
私は5歳から10歳の頃が未だに忘れられない。
あの時は何も考えずにいられた。
あの頃は自分の人生で一番幸せだった。
一番輝いていた。
私は未来が分からなくなったあの日、王国の女王を辞める決意をした。
未来が分からないので……攫われた。
先の見えない不安の中で、やっぱりあの人は助けに来てくれた。
「大丈夫ですか? フォルマーレ様!」
頭をそっと撫でられる。
「フフ……」
私は安心して微笑んだら、デコピンをされた。本気でデコピンされれば、頭が吹き飛んでしまう為に、場を和ませようとしているのはわかっているのだけれど、あまりにも痛すぎましたわ。
「わざと攫われましたね?」
わざと攫われるわけがありませんわ。もしかしたら命を失うかもしれませんのに。
「チガイマスーワザトジャナイデスー……」
私を攫ったのは、やはり王国のチェロ・ソーニョだった。
チェロ・ソーニョはアルコバレーノ様の弟だ。そして転生者だ。
チェロ・ソーニョはあくまでもゲームの流れを重視している。
チェロ・ソーニョの放った間者を処刑して、王国から宣戦布告のような書状が届いたのを見ただけで、妹からチェロ・ソーニョに権力が移っているのが分かる。西の公国から逃げ出した貴族連中も絡んでいるのだろう。
私は妹の身の安全を確かめる為、王国に一時帰郷することにした。
アルコバレーノ様との二人旅だ。
二人旅……そう考えただけで顔が熱くなる。
「フォルマーレ様、そろそろ出発しますよ」
今日は世界樹の下のダンジョンで、レベルを上げる日だ。
ダンジョンの一層目早速蟻の女王がいた。
蟻の女王は、迷宮一回にびっしりと卵を植え付けている。
アルコバレーノ様が蟻の女王を倒し、私は蟻の卵をレイピアで一つ一つ串刺しにしていく。
卵にはまだ魔石が無いので、アンデッド化する不安はない。
「フォルマーレ様!終わりましたわ」
アルコバレーノ様はその赤い目で人の能力が数字で分かるらしい。ゲームでは無かった能力だ。
「85レベルですね。まだまだ行きましょう」
アルコバレーノ様は中々にスパルタで、レベルが300いくまで49回も蟻討伐を繰り返した。
「はあはあ、流石に疲れましたわ」
「それじゃあ、最下層に向かいますよ」
最下層には巨大なドラゴンがいた。
私はこれを倒すのかと思ったが、違った。
どうやら道を譲ってくれるらしい。
本能がこのドラゴンを拒絶する。今すぐに逃げるべきだと。
しかし、ドラゴンは私を襲わなかった。
階段を下りると、そこには魔法陣があった。魔法陣の上に立つと、服がオリハルコンのショートドレスへと変わっていく。レイピアもオリハルコンに変わった。
「アハハ、凄い、なにこれ!」
「フォルマーレ様に適した防具に姿を変える仕組みになっています」
地上へ戻ると、アルコバレーノ様が小さな幌馬車を引いて来る。
「これに乗っていきましょう。小さいですが、軽い分スピードは速いです」
フォルマーレ様は中でゆっくりとしていて下さい。
「私も御者台に乗りたいですわ。駄目かしら?」
「構いませんよ。一人で馬車を繰るのも退屈ですしね」
※※※
「……」
「……」
「アルコバレーノ様、何か話して下さいませ」
「……フォルマーレ様は、僕が要塞に行った時どのようなことを考えていましたか?」
「アルコバレーノ様が帝国の要塞に行かれた時ですか?」
「ええ」
「私は……情けない話ですが、ずっと泣いていましたわ」
「泣いていたのですか?」
「あら、意外かしら?」
「ええ、フォルマーレ様は強い人だと思っていましたので」
「強いから放っておいてもよかったって話かしら?」
「いえ、そういうわけでは……」
「アルコバレーノ様がいなくなってから空虚でしたわ」
「それではなぜ、僕を帝国の要塞へと送ったのですか?」
「アルコバレーノ様が赤目になったからですわ。赤目になれば、王国に置いておけば命を狙われます。当時は女神王国領ではなく、魔王国と呼ばれていました。魔王国には赤目がたくさんいます。魔王国と国境を接する帝国の要塞にも赤目とのハーフがたくさんおりました。魔王国には当然伝手は無く。帝国に頼んで要塞に送って頂いたのです。帝国でもまだ差別の少ない要塞に」
「そうですか」
「私も考えていたのですよ。アルコバレーノ様が帝国で生きていられるか? どこに送れば幸せになれるか? アルコバレーノ様が、ビアンカさんを連れてきた時、分かっていても絶望してしまいましたわ」
「……ごめん」
「あ、謝って貰っても困りますわ。アルコバレーノ様が幸せなら、それで良かったのですから」
アルコバレーノ様は申し訳なさそうに言った。
「ありがとう……ございます」
私は背伸びをした。
「うう~ん。もうなんだかどうでもいいですわ~」
「……」
「はい、そこ!無口にならないでくださいませ!」
「何を話しましょうか?」
「とりあえず、アルコバレーノ様が要塞を出た後のことを教えてちょうだい!」
「は、はい!」
ここからまた始めましょう。アルコバレーノ様の隣に誰が居ようと、私がアルコバレーノ様を想う気持ちは何も変わらないのですから。




