僕とフォルマーレ様
馬車で王国を目指していると夕方になった。丁度町まで着いたので宿を取る。
「フォルマーレ様、今日はここら辺で宿を取りましょう」
「ええ……野宿でも良いですのに……」
「いいえ、盗賊という危険もありますし。今日はまだ明るいうちに泊まりましょう」
「まあ、仕方ないですわね。安全第一ですわ」
「すみません」
僕らは王都から南下して30キロほどの町に泊まった。
「すみません。部屋が残り一部屋だったので、フォルマーレ様が使ってください」
「アルコバレーノ様はどうするのです?」
「僕は馬小屋で寝ようと思います」
部屋を出ようとする僕の袖を取るフォルマーレ様。
「いけませんわ。同じ部屋にベッドが二つあるのですから、一つずつ使えばいいじゃありませんの」
「未婚の男と女が同衾などと、洒落になりません」
「あら、一つのベッドに二人で寝る時を同衾と呼ぶのですわ。ベッドが二つあるのに、同衾もなにもありません」
「構わないのでしょうか?」
「アルコバレーノ様はビアンカ様のことを気にしておられるのでしょう」
「ええ」
「それなら、気にしなくて大丈夫ですわよ。私が襲うなんてことはありませんから」
「同じ部屋に泊まったという事実が大事なのです」
「それも構いませんわ。ビアンカ様には黙っておきますから」
「では、一緒に眠ります」
「その前に食事食事―ですわ!町の宿屋でご飯を食べたことはほとんどありませんので、期待していましたの」
フォルマーレ様が食堂のある一階へと駆け下りていくので、慌てて追いかけた。
カボチャのパイとクリームシチューに黒パンが出てきた。
「質素ですが、とても美味しいですわ。これが世に聞く黒パンなのですね」
フォルマーレ様は食事を取り終えると、「シェフ!」と呼んで「美味しかったですわ」と伝えて部屋へと戻って行った。
シェフ……店主と目が合う僕。「……美味しかったです」と答えて、フォルマーレ様に食事のスピードを合わせていた僕も一緒に部屋へと戻る。
フォルマーレ様はベッドに腰掛けていた。
「久しぶりね、こうやって過ごすのも」
「そうですね。もう何年が経つでしょう。7年……ですか?」
「7年よね。懐かしいわ」
「5歳の頃から10歳まで一緒に過ごしたのに、たった7年で、忘れられてしまったわ」
「そうですね。5年も一緒にいたんですね」
「5年も一緒にいたのに、薄情よね」
「僕が……ですか?」
「ええ、そうよ。7年前はずっと一緒だったのに、今はもう手の届かないところにいるわ」
「何をすれば、アルコバレーノ様は再び私に目を向けてくれるのかしら」
「分かりません。ですが、今では考えられないですね」
フォルマーレ様の隣に座る僕。
僕にしなだれかかるフォルマーレ様。
「7年前までは、私の居場所だった」
僕の胸が高鳴る。
「フォルマーレ様、近すぎます。フォルマーレ様?」
フォルマーレ様は涙を流して眠りについていた。僕は居た堪れなくなってフォルマーレ様をベッドに寝かせ、僕も隣のベッドにて眠りにつく。
※※※
「……さま……アルコバレーノ様。起きましたか? 遅いですわよ」
「もうそんな時間ですか?」
「朝の5時になりましたわよ。朝食を食べて向かいましょう」
「朝の5時ですか……朝食はどうしましょうか?」
「それなら、宿屋のシェフにサンドイッチを作って頂きましたわ」
「フォルマーレ様の方が旅慣れしていませんか?」
「前世では趣味で海外によく行っていたので」
「海外とは、外国のことですか?」
「ええ、飛行機や電車で旅してましたわ」
「ひこう……き……てなんです?」
「飛行機とは空飛ぶ鉄の船ですわ」
「船は懐かしいですね」
僕の実家は海に面していて、南の大陸と船で交易していた。
「あの船がどうやって空を飛ぶのか分かりませんが」
「船に羽が生えていて、空を飛ぶんですわ」
「船に羽ですか? なるほど……」
「そこまで真剣に考えなくてよいですわ。とりあえず空を飛ぶ船があるのだと知って頂けたらそれで」
「はい、じゃあそろそろ出発しましょうか」
フォルマーレ様はにっこりと微笑む。
「ええ、参りましょう」
僕らは宿屋の店主に一声かけると外へと出た。
僕は馬小屋から馬を出す。馬車へと繋げると、馬を走らせる。
かっぽかっぽと小気味良い音で走り出す馬達。
僕らは御者台に座り、5歳~10歳の話に花を咲かせた。
王妃陛下のティ―タイムのお菓子をくすねたり、寝ている国王陛下の髭を剃ったり、イタズラもたくさんした。主にフォルマーレ様が。僕はとばっちりを受けていた。
一緒にダンスの練習をした。フォルマーレ様は運動神経が壊滅的で、普通にステップも踏めない。僕は動きを小さくし、声に出しながら、リズムを取った。フォルマーレ様はその後、次第に上達していった。
十歳の頃に僕が赤目になり、帝国の要塞へと送られる時、正直、僕はフォルマーレ様が信じられなくなった。しかし、フォルマーレ様が要塞に送ってくれたことを今なら感謝出来る。
僕はフォルマーレ様に本当に愛されていたんだと、今なら素直に捉えることが出来る。きっと今なら、昔のフォルマーレ様と僕の関係に戻ることが出来るだろうなと思った。




