フォルマーレ王女攫われる
僕は甘かった。
フォルマーレ様を攫われた。
攫ったのは僕の弟チェロ・ソーニョだ。
チェロは、フォルマーレ様と婚姻関係を結び、王配になろうとしている。
フォルマーレ様に直接聞いた話だ。
フォルマーレ様は自分の身の危険を訴えていたというのに。
「ガッタ、今どこにいる?」
風魔法でガッタの耳へと声を届ける。
諜報活動をしているガッタは、すぐにフォルマーレ様の後を追ってくれていた。
ガッタは女神王国領王都の関所までやって来ていた。
「関所ですにゃ」
「フォルマーレ様を攫った不届き者どもは、関所の警邏を突破できずにいますにゃ!」
「今から向かう!ガッタはなにもしなくていいから変わらず見張っといてくれ」
「了解ですにゃ」
僕は全力で走って十分後に王都中心部から関所に着いた。
「ガッタ! フォルマーレ様は!」
「あそこですにゃ!今はあの野菜の籠の積まれた馬車の中にいますにゃ!さっきまでは小さい幌馬車の中にいましたにゃ!」
「分かった。ガッタ助かった!」
僕は雷の早さで野菜籠の積まれた馬車に飛び乗った。馬車が大きく揺らぐ。
僕は野菜籠を一つ一つひっくり返した。
その一つからフォルマーレ様が包まれた布袋が出てくる。
布袋を裂くと、フォルマーレ様が出て来た。フォルマーレ様は僕の顔を見て安堵すると、泣き出した。
フォルマーレ様を後ろ手で縛った紐を切り、猿轡を裂く。
フォルマーレ様は僕に抱きついてきた。
「アルコバレ~ノ様~」
フォルマーレ様の頭をそっと撫でる。
「フフ……」
フォルマーレ様が悪い顔をしたのでおでこにデコピンを放った。
「痛ぁ~」
「わざと攫われましたね?」
「チガイマスーワザトジャナイデスー……」
フォルマーレ様を攫った輩をロープで縛る僕。
フォルマーレ様がわざと攫われたかはともかく、攫った輩にはきっちり罰を与えなければ。
馬車で女神王国領王都内まで犯人を連れていく。
犯人は二人の男と一人の女だった。
※※※
頭に犬と書いて、女神王国領の憲兵に突き出す。
僕は軽い気持ちで憲兵に突き出したが、フォルマーレ女王を攫ったとして、犯人は公の場で絞首刑にされた。一国の元首を攫ったのだ、当たり前のことだった。しかし、これに文句をつけてきた国がある。南の王国だ。
王国はなんと、フォルマーレ女王をかどわかした犯人を処刑するとは何事か!といちゃもんをつけてきたのである。フォルマーレ様無き王国を憂う志士たちを殺したことは、魔王国としての一面を出してきたな……と。
「そんな無茶苦茶な。私は自分の足でこの女神王国領まで来たのです!」
「分かってますよ」
「ついでに言うとわざと攫われたわけじゃないですからね」
「それも分かってますよ」
「ならなんでこんなことになるのですか……」
フォルマーレ女王は後悔していた。自分が女神王国領に来たばかりに、女神様や自分に迷惑をかけてしまったことを。
「とにかく落ち着いてください。王国とは話をして来ますので」
「アルコバレーノ様だけに任せてよいのでしょうか?」
女神様が呟いた。
「よいのです。元々は僕の責任ですので」
「私も参ります」
フォルマーレ様が覚悟を決めた。
「私を連れ帰りたかったという発言と、突然に誘拐をしてきた矛盾の責任を王国の誰かさんにきっちりと伝えなければなりません」
僕はこくりと頷き、フォルマーレ様の覚悟に了承の返事をする。
「じゃあ、これからすぐに参りましょう」
「姫様、王国へ帰られるのですね?」
「帰るわけではありませんわ。王国へ向かい、改めて女王を辞めることと、痴れ者に鉄槌を下して来るだけですわ」
「もちろん、ばあやも行きますよ」
「今回ばかりは危険ですから、ばあやはここに残ってちょうだい」
「ばあやの居場所は姫様のいるところと言ったではありませんか」
「すぐに戻ってきますわ」
「じゃあ、。レベル上げに行きましょうか」
「レベル上げ?」
「はい、蟻の卵を割るだけの簡単なお仕事です」
「興味ありますわ。参りましょう」
「じゃあ、世界樹の麓へ行きましょうか」
※※※
「て、ダンジョン内でしたのね」
「この中の一階層にいる蟻の卵ですよ」
「へえ、そんなレベル上げがあるんですの……ね……」
僕はフォルマーレ様にレイピアを渡す。
「じゃあ、この卵を破壊してください」
「ず、随分と大きな……卵?」
「僕は蟻の女王を討伐してきますので、ビアンカ、ガッタはフォルマーレ様の手伝いをお願い」
「わかりましたにゃー」
「……ん。分かった」
僕は女王蟻を瞬殺した。すぐにフォルマーレ様のところへと戻ってみると、蟻の卵をもの凄い勢いで貫いていく姿を見た。新鮮だった。
額に滲んだ汗を拭くフォルマーレ様。
「ふう。なかなかに大変ですわね。でも、もの凄くレベルが上がりましたわ」
「フォルマーレ様、次は最下層でドラゴンを倒して頂きます」
「まあ、ドラゴンですか? やっとファンタジーの世界にいるのだと実感出来ますわ」
「それじゃあ、最下層に向かいますよ」
僕達はゆっくり下層へと下りていく。
十階層に着いた。
ドラゴンが道を空けてくれる。
「たくさんバナナを持ってきたよ」
「ほう、これはありがたい」
「良かったよ」
「そこのお嬢さん、そんなにビビらんでもいい。お行きなさい」
ビクッとするフォルマーレ様。
「は……はい……」
フォルマーレ様は本能的にドラゴンに強い恐怖感を抱いていた。
僕はフォルマーレ様の手を握る。
「大丈夫です。先に進みましょう」
「は、はい!」
「倒してないのに通っていいのでしょうか?」
「問題ありません」
階層を下り魔法陣の中へ入ると、フォルマーレ様の服がオリハルコン糸のショートドレスの姿へと変わっていく。
「アハハ、凄い、なにこれ!」
「フォルマーレ様に適した防具に姿を変える仕組みになっています」
レイピアもオリハルコンに変わった。
※※※
「それじゃあ、王国へ向かいましょうか」
「ビアンカ、ガッタ、行ってきます」
「……ん。私も行く」
「王国は危ないから、お留守番してて」
「……ん。私は強い」
「知ってる」
僕とビアンカはお互い向かい合って笑う。
僕はフォルマーレ様の手を取り、王国へと向かった。
女王を走らせて向かうのも何なので、馬車で王国まで一ヶ月の旅が始まる。




