女神降臨
女神王国領。
僕は女神王国領で学校に通う。卒業残り一年で彼女はやって来た。
青いドリル頭の少女がジャージの男性の先生に案内されて入ってくる。
「私はフォルマーレです。女神王国領の皆様と和平の為に南の王国からやって来ました。残り一年ですが、よろしくお願いしますわ」
驚愕する僕。フォルマーレ様が僕の前に座る。
「よろしくお願いしますわ。女神王国領の勇者様」
「……うん、よろしく」
フォルマーレ様が僕に満面の笑顔を向ける。僕も軽く笑んで受け止めた。ビアンカはぶすっとしている。
「女王様が国を空けて平気なのですか?」
僕はちょっと意地悪な質問をしてしまった。
「女神王国領の女神様に、和平の為に留学をと頼んできましたわ」
「王国も友好国になるのですか?」
「ええ、女神王国領を囲む三国が和平を結びましたもの。王国も和平を結ばなくては一人ぼっちになってしまいますわ」
「あら、この幼児も留学生ですか?」
「こちらは帝国の第5王子のチェーザレ王子です」
「あらまあ、おいくつですの?」
「四十一じゃ」
フォルマーレ様がカーテシーをした。
「これは、チェーザレ王子失礼致しましたわ」
「女王が軽々しく王位を持たぬ者に頭を下げてよいのかの?」
「私はもう女王ではありません。王位は妹に丸投げしてきましたわ」
「フォルマーレ様、王国は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。もう問題が起こっても私には想定出来ませんから」
「それは……大丈夫と言えるのですか?」
「あら、私にも無限の知識があるわけじゃありませんのよ。これから先の責任は取れませんわ」
「そういうものですか」
「そういうものです。今ではもうあなた達と同じです」
「どういうことですか?」
「未来は誰にも分からないということです」
「なるほど……」
「お前ら静まれー、もう一人紹介したい方がおられる」
中へ入って来たのは白金の美女。
「女神様だー。はい、拍手―」
パチパチとまばらな拍手が女神様に降り注ぐ。
女神王国領の皆は固まっていた。
恥ずかしそうにぺこりとお辞儀する女神様。
ジャージの男が言う。
「これから一年間、皆がお世話になる担任だ。こちらもよろしく頼むぞ」
深くお辞儀をして部屋を後にするジャージの男。
ジャージの男が扉を閉めると、女神様が出席を取った。
人生分からないことばかりだと、投げやりな笑い声を出す僕。
しかし、分からないことばかりだと転生者、フォルマーレ様から言われた。
分からないことばかりなら、最早転生者と立場は同じだ。彼らは人生を楽しむ為に来たんだろう。それなら、僕らも頑張って幸せになろうと決めた。
僕はフォルマーレ様に観光名所を尋ねられ、ビアンカと三人で世界樹のアルコバレーノ村へと戻る。
果樹園へと帰って来た。
いつものようにお父さんは申し訳なさそうに売上額の半分を渡してくる。
「まあ、懐かしい果物がこんなにたくさんあるのですね」
「フォルマーレ様、王国には果物も豊富だったイメージがあります」
「ええ、たくさんあったのですが、イチゴやリンゴは見ませんでしたわね」
「確かに。そうでしたね」
「フォルマーレ様、イチゴから食べてみますか?」
「ええ、とても楽しみですわ」
イチゴをもいで食べるフォルマーレ様。飲み込んだ後、一筋の涙を流す。
「ええ、ええ美味しいですわ……」
「フォルマーレ様」
僕はフォルマーレ様にハンカチを渡す。
「これからは自粛せずに欲を満たして参りますわ!」
付いて来ていたばあやがフォルマーレ様の頭を鷲掴む。
そして怒った。
「自粛はなさいませ。欲は満たしても構いません」
「まあまあ、良いではありませんか?ばあやさま。フォルマーレ様、私と一緒に食べ歩きを楽しみましょう」
いつの間にかやって来ていた女神が言った。
「私も自粛致しません。これから人生を謳歌するのです。ね、フォルマーレ様」
フォルマーレはうんうんと頷く。二人して果樹園の果物を食べて行く。
ばあやが注意を促す。
「まあまあ、お二人とも太りますよ」
「女の子はポチャくらいが良いのです。痩せすぎは心配されますわ」
ばあやが止めを刺しに来た。
「お二人とも好きな相手に振り向いて欲しいから女神王国領の中学校まで来たんじゃないのですか?」
「そうでした。でも、楽しむときに楽しまないでどうするのです?」
「私は別に……そういうわけじゃありませんからね……女神として、学校が正しく機能しているかを知る為に来ているのですから」
「一人脱落しましたよ。姫様」
「だ、脱落なんてしていませんわ。そうでしょう、アルコバレーノ様」
「それは……何と言えばよいのか」
「……むう。はっきりするアルコバレーノ」
「……」
言葉に出来ない……。
「まあ、お二人ともせっかく貴重な時間を割いて果樹園に来て頂いたわけですから。どうか、楽しんで行ってください」
「「はい!」」
※※※
翌日。
学校。いつも通り座っていると、チェーザレ王子がよいしょよいしょと僕の膝の上に上ってくる。
「どうじゃ、複数の女に求められているというのは?」
「わかりません……いえ、嬉しいのですが、その……」
「その、なんじゃ?」
「いざ、本気の気持ちでぶつかって来られると、萎縮してしまうというか……どういう態度で示したら良いのか分からなくなってしまって」
「お主も貴族じゃろう。側室がニ~三人いても構わないのではないか?」
「ビアンカが元々貴族ではありませんから、複雑なのです」
「それを仕方ないと思わせることが出来るのが英雄じゃ」
「僕は英雄ではありませんから」
「英雄は望んでなるものではないわ」
「ええ、ですから……」
「お主はまごうことなき英雄じゃ」
「帝国に赤目を受け入れさせ、共和国や公国の民を救った。そのおかげで十年に及ぶ戦争に終止符を打てた」
「僕一人の力ではありません」
「まあ、そうじゃな。お主一人の力ではない」
「じゃが、動かしたのはお主じゃ」
「僕は世界を、動かせたのですか?」
「ああ、この世界を支配していたルールを破壊した。一から選択肢を選び取れる環境を作りだした世界に自由をもたらした。まさに英雄と呼べる所業だ」
「そうでしょうか」
「お主は勇者というよりは英雄と言う言葉が正しかろ」
「女神様はともかくフォルマーレ様には責任が有るように思うのです」
「フォルマーレ様にはお主は命を助けられたからのう」
「そうなのです。それに、フォルマーレ様は気持ちを伝える為に女王様を辞めてここまで来て下さいました。それを無視していいものか」
「後一年ある。フォルマーレ様の気持ちに答えるのはその後でもよかろう」
「そうでしょうか?」
「そうじゃ、焦らずとも時間はあるじゃろ」
「女神様にはなぜ好かれたのか分からないですし」
「魔王様を女神様に変えたのはお主じゃろ」
「いいえ、白目の勇者パーティーの方々が最初に広めたんですよ」
「それでもじゃ、お主が勇者として活躍することによって女神様がより信憑性が高くなった」
フォルマーレ様と女神様がこちらに手を振っている。僕も振り返す。
「どちらにしても、女神様が女神様と呼ばれる所以は女神様が頑張った結果ですよ」
フォルマーレ様と女神様がこっちが美味しい、いや、こっちの方が美味しいとやり合っている。微笑ましい姿にチェーザレと僕はそっちへと向かう。ビアンカも慌ててやって来る。
僕はまだ、この平和が脅かされるとは思わずにいた。




