この物語の主人公
帝国での職探しが始まり、なんとか難民支援は終えることが出来た。
まだ共和国と接している村に難民が来ることを考えて、馬車と配給物資は帝都と行き来させている。食料以外の配給物資が足りていないことがわかったからだ。
食糧は足りているが、服が足りない。生理用品が足りない。布団が足りない。
これも、直接前線へ赴いた成果だった。
やはり聞くと実際に行ってみるのでは知り得ることが違う。
僕は、しばらく帝国に留まった。
※※※
帝国で見つけたひなびた喫茶店で一服するのが、毎朝の僕の日課になっていた。
僕はカフェオレしか飲まないが。
店主が一斤はある食パンに卵サラダが挟んである朝食を運んで来る。
「どうぞ」
外は雨が降っていた。
「今日は天気が良いですね」
「ええ、とても良い天気です」
店主が僕の耳に口を近づける。
「王国の勇者が帝国まで来ているようです」
「理由は?」
「女神王国領の勇者様を葬りに来たと」
僕は金貨一枚払って店を出た。
「なるほど、王国の勇者の名声が地に堕ちた今、僕を殺しに来たというわけか」
猫の獣人がやって来て隣を歩く。
「勇者はこの町にもう入ったよ」
「どうする? 時間稼ぎなら出来るけど」
「住人を巻き込まない為に誘導できるかな? 闘技場に連れてきて欲しい」
「あい、わかった」
僕は辻馬車に乗り、闘技場を目指した。
※※※
闘技場に着いた。
中へ入ると、血走った目をした王国勇者が待っていた。
「オレ…オマエ…コロス……」
「お前、本当に勇者か?」
「あい、奴は神級クラスの魔物の魔核を取り込んで暴走してるにゃ」
「なるほど」
僕は大剣を背中から取り出す。
「失敗作か」
王国の勇者は歯をギリリと鳴らし、片手剣を手に飛び込んでくる。
「オマ、オマ、オマエノ…オマエノセイダ―ッ!」
王国の勇者は袈裟斬りに来たので、僕はその軌道を滑らせて払う。
勇者が合体魔法陣で四代精霊を重ねて片手剣に乗せ僕の頭上に飛ぶと、上段から落としてくる。
僕はイフリートを大剣に乗せ、勇者の四代精霊を振り払い、片手剣を溶かした。
片手剣を溶かすと、王国の勇者は身体を膨張させてドラゴンの拳で僕を薙ぎ払う。
僕はそれを受け止めると王国の勇者の胴を切った。勇者の身体は胴から下と上に別れる。
僕はイフリートで彼を焼くと、またしても煙となりいつの間にか観客席に立っていた女性が持つ水晶に吸い込まれていった。
僕は今回はそうはさせまいと、雷の早さで彼女に近づく。僕が水晶を砕くと、女性も煙となって消えていった。
「やっぱり今回も死んでないか」
「惜しかったにゃ」
「また頼めるかな、ガッタ」
「任せるにゃ」
「じゃあ、頼んだ」
「アルコバレーノ様はもうしばらく帝国にいるのかにゃ?」
「いや、一旦女神王国領に帰るつもりだよ」
「そうかにゃ。じゃあ、一緒に帰るにゃ。王国の勇者はアルコバレーノ様のいるところに現れるにゃ」
「そう考えると、帰りづらくなってしまうね」
「ビアンカ様もお強いにゃ」
「そうだね」
「じゃあ、帰ろうか」
「あい」
彼女の名前はガッタという。共和国から奴隷として売られてきたのを、僕が買った。
戦時中ということで、共和国では口減らしの為に子どもを奴隷商に売っていた。人間、獣人、関係なく一緒にだ。
彼女は14歳。性奴隷として売られているところを買った。当然ビアンカには怒られた。
しかし、性奴隷として売られているところを買ったのだ。僕が買わなきゃ性奴隷にされていたのだ。
その言葉でようやくビアンカの怒りは収まった。
ただし、今も納得したわけでなく、二人きりでいる時はやはり心配されてしまう。
女神王国領の世界樹の麓の村、通称アルコバレーノ村ではビアンカが僕とガッタの帰りを待っていた。
「ただいまー」「ただいまですにゃー」
包丁がビュンッと飛んで来る。
「おかえりなさーい……」
「うにゃ~!」
ビクッと跳ねて飛び退るガッタ。
ビアンカは頭に鬼の角のように蝋燭を飾り、藁人形を持っていた。
「うにゃあ~!」
ガッタが僕の後ろに隠れる。
「落ち着いて!ビアンカ!落ち着いてってば」
「私の代わりにアルコバレーノの隣に別の女がいるなんて許せない……」
「ビアンカ、怖いよ!」
「……ん。冗談」
「冗談になってないからね」
ニコニコして圧力をかける僕。
「……ん、ごめん。もうしない」
「料理作ってたの?」
「うん、シルフがアルコバレーノ達が帰ってくるって教えてくれた」
「確かに三人分あるね」
「よだれ鶏があるにゃ~」
「うん、料理上達したね。ビアンカ。凄いよ」
「ふふ~ん♪ もっと褒めてくれてもいい」
「食べようか」
「うん」
「あい」
ガッタがご飯をかき込んでいる。
「ガッタお行儀悪い。丁寧に食べなさい」
しゅんとするガッタ。
「ガッタ気にしなくていいよ。好きに食べなさい」
ガッタの瞳にハイライトが入る。
「あい!」
「もう~アルコバレーノはすぐに甘やかすんだから、歯はちゃんと磨いてね」
「あーい」
ご飯にがっつくガッタ。
「美味しいこれ!」
ナイフとフォークで丁寧に食べるアルコバレーノ。
「うん、美味い」
「ふふ~ん」
無い胸を張るビアンカ。
「『無い胸を張る』はいい加減にしろ!」
ビアンカが誰かに叫んだ。
「「「ごちそうさまでした」」」
ガッタがソファーにクッションを抱き締めて丸まって眠っている。
「おかあ……さん。おとう…さん……。」
目に涙を溜めているガッタ。
ソファーに座り、頭を撫でてあげるビアンカ。ハンカチで涙を拭く。
「……ん。共和国は、今どんな状況なんだろう?」
「それは……あの帝国の要塞やビアンカの最南端の村みたいな状況じゃないのかな?」
「どれだけの人がガッタみたいな思いをしているの」
「こんなことは無くさなくちゃね」
「アルコバレーノは、共和国にも行くの?」
「女神派か魔王派かは僕には判断出来ないよ」
「行っても意味ないってこと?」
「そうだね。それこそ女神様が行かないと」
「女神様が行く?」
「それを宰相達が許さないだろうけどね」
「そっか。お腹空くのは辛いのを知ってるから、ひもじい思いをしてる人達を増やしたくないなぁ」
「西の公国と戦ってるコンフィーネ子爵も停戦するみたいだよ。コンフィーネ子爵領に隣する土地に公国の避難民が集まっているからね」
「じゃあ、女神王国領では戦争は無くなる?」
「そうだね。無くなることになるよ」
「……ん。一先ず安心」
「そうだね」
「…む。アルコバレーノ、心ここにあらず」
「ごめん。また王国の勇者を逃してさ。王国まで直接行くべきか悩んでるんだ」
「ん、それは嫌。心配」
「だよね……」
「私が一緒に行くならいい」
「私と勇者三人組と一緒に行くなら、一緒に行こう」
「うん。しばらく考えてみるよ」
「ううん。相談して」
「わかった」
ガッタに毛布を被せて、ビアンカとは別々の部屋で眠った。
深夜。
ドーンッと音が響いて家の壁に穴が空く。ビアンカが攫われた。
僕は眠ってしまっていた。まさか、女神王国領にまで進入してくるとは思わずにいた。
僕はビアンカの気配を探って雷の早さで走る。
しかし、途中で女神王国領の中からビアンカの気配と勇者の気配が消えた。
僕は一旦帰ると、僕より嗅覚や気配に強いガッタに案内してもらい、ビアンカを追う。
途中でビアンカの気配に辿り着いた。
まだ近くにいるらしい。
ガッタが空間把握。僕が空間斬撃で空間魔法を破いた、勇者と戦うビアンカがいた。勇者に多少押されているが、500レベル以上のビアンカがそう簡単に負けるわけもなかった。
「ビアンカ!待たせた!」
「……ん。心配ない。こいつ、弱体化してる」
「空間魔法の中にいたから気づかなかったのか」
「ん。そうみたい」
「シュシュシュ、シュジンコウヲオレニヨコセ……オレガコノセカイノ……シュシュシュ、シュジンコウニナルンダ」




