僕と共和国の難民
共和国で戦争が始まった。
女神王国領にではなく、内戦が始まったみたいだ。国境を接している帝国から連絡が来た。
どうやら帝国に難民が押し寄せているらしい。
僕は物資と共にチェーザレの元に向かった。
帝国に着いたら、チェーザレより先に皇帝陛下に謁見した。
ティンバッロ皇帝陛下。
女性でありながら、求心力の高い彼女は、よく帝国をまとめている。
「女神王国領の勇者様、よくお越しくださいました」
玉座を下りて、僕の前に跪くティンバッロ皇帝。
謁見の間、左右に控える貴族達がこれに怒った。
ざわざわとざわめく。
「不敬であるぞ!」「赤目ごときになにを」「所詮女か」
「静まりなさい!」
謁見の間が静まり返る。
「勝ち目のない戦争をこちらから仕掛けておいて、負けたらへりくだるのがなぜ不敬なのですか? 王国の勇者に扇動されたとはいえ、こちらから仕掛けて負けた戦争です!」
「今は力を蓄える時です。勉強できる者は勉強し、女神王国領からは奪えるものは奪う。メンツなんて捨てなさい」
「「「はッ!」」」
女神様よりも女王らしい。そんな女傑だった。
「それで勇者様。帝国に来た難民の支援物資を運んで来て頂けたとか」
「はい。これが帳簿です」
「まあ、女神王国領は、女神様は太っ腹ですね」
「これでも、女神王国領の収穫の10分の1ですので」
「これで10分の1なのですか。無理して税金を上げたということですか?」
「いえ、税金は上げていませんよ。これが今の収穫量なのです。貯蓄してありますしね」
「はあ、やはり魔法の効果とかあったりするのですか?」
「ええ、ノームとかにはお世話になってますね」
「やはり四代精霊の力ですか?」
「そうですよ。女王陛下に食べて頂いた果物は全部三日で育ちました」
「三日ですか? あの果樹園が」
「はい、そうです」
「精霊とはこんなに偉大なのですね」
「いえ、そうでもないですよ。たまには構ってあげないとむくれます」
「そうなのですか」
「子どもみたいなものだと思って頂ければ結構かと」
「分かりました。良いことを聞きましたわ」
「そろそろチェーザレ殿下に会いたいのですが」
「では、チェーザレをここへ」
「かしこまりました」
ディアマンテがチェーザレを抱えてやって来た。
「よう来てくれた」
「難民が押し寄せて一刻を争う状況だと聞いたので」
「うむ。共和国の女神派閥の者が帝国に押し寄せてのう。略奪は起こるは、飢饉になるわ、
流行り病が蔓延するはで困っておったのじゃ」
帳簿を渡すと、チェーザレが困惑する。
「ありがたいが、こんなに食糧を分けてもらっても大丈夫なのか?」
「今年の収穫量の十分の一ですから。毎年積み上がっていく備蓄品をそのまま備蓄しても値動きしない量なので大丈夫ですよ」
「これも精霊の力か?」
「ええ、そうです」
「そう考えると、ますます惜しい人材を亡くしたものじゃな、帝国は」
「そうですね。要塞にいる間は知らなかったのですが、僕も要塞を出て女神王国領に行って初めて四大精霊の利便性に気づいたわけですから」
周辺にいる貴族達は、驚いていた。まだ、4歳のチェーザレ王子が、女神王国領の勇者と対等に、いや偉そうに話をしていたのだから。
「まあ、それはよいとしてだ。とりあえず共和国と接している村へ一緒に行って欲しい。万能薬もあるんじゃろう?」
「ええ、ありますよ」
「早く行こうではないか。皆が飢饉で飢えておるでな。流行り病で死者も出ておる」
「はい、急ぎましょうか」
「うむ」
「姉上、馬車を出して欲しい」
「まさか、あなたが着いていくのですか?」
「他にまともに指揮できる王族はおるまいよ」
「そうですわね。あなたが着いて行ってくれるのなら頼もしいですわ」
「帝国皇帝から命じます。チェーザレ。難民が集まる村を救ってきなさい」
「はッ!姉上必ず」
僕は帝国の馬車に乗ってチェーザレと共和国の接する村へと向かった。
※※※
馬車の中。
「本来ならこんなことは起こらないんじゃがな」
「AIとやらの暴走ですか?」
「暴走というよりは、ゲームでは決められた役をしておった者が、皆独自の動きをするようになっただけじゃ」
「じゃあ、僕に気安く声をかけてから皇帝陛下に恭しく接したのも暴走を防ぐ為ですか?」
「そうじゃ。あのままでは姉上が命を狙われかねんかったからのう。まあ、我の行動が真逆の行動を生じさせる可能性もあるが」
「もう本来のエンディングには期待できないということですかね?」
クスクスと笑うチェーザレ王子。
「まあ、其方がその元凶よな」
「僕がですか?」
「其方が考え出した結果じゃ。其方が考え出したことで、全ての命運がわからなくなってしまった。生きていたはずの者が死に、死ぬはずだった者が生き残った」
「其方は人間じゃない。じゃが、人間にも劣らぬ思考力や感情を持った生き物じゃ」
「それがAIですか?」
「AI より更に特殊かもしれんのう」
チェーザレが僕の肩をポンっと叩いた。
「難しく考えんでいい。其方は普通の人間そのものじゃ。ただそれだけのことじゃ」
「生きたいように生きればいいということですか?」
「そうじゃ。生きたいように生きてれば幸せになるかもしれんし、ならんかもしれん」
「それじゃあ、駄目じゃないですか?」
「それがわからんから、生きていて楽しいんじゃ」
※※※
共和国と接している村にやってくると、そこは地獄だった。
皆、生気が無くガリガリで木の皮をかじっていた。病気は流行り病と聞いたが、何の病気か分からない。栄養失調からくるなにかなのか、現実に存在する病気なのか?
エリクサーを元気な人達と一緒に重病人に飲ませて行った。病や栄養失調はあっという間に治っていき、怪我も治癒した。
病気が治った人達から、配給をしていく。配給を受けた人から、手伝ってもらい皆に行き渡るのに半日かかった。だが、エリクサーと配給で元気になった為に、村で住めるようにと暴動が起こり始める。
暴動を治める時に怪我人を出してしまい、またエリクサーで回復した。
食糧はある。薬もある。ただ仕事が無かった。
チェーザレが公共事業を仕事として与えることを考え出した。村から帝都まで整備された道が無い為に、整備された道を作る。
整備された道を築いた彼らを帝都まで連れていき、帝都の住人にしようという考えだ。
年齢関係なく、男女も問わず帝都までの道を整備していく。日に三度の配給。小さな子どもと母親は、食糧に入っていた空になった馬車に乗せ帝都まで連れて行った。
アルコバレーノも手伝う。
「アルコバレーノ、お主がわざわざ一緒にやらなくてもよい」
「いえ、手伝わせてください。これがもしも、僕の答えで生まれた結果なら僕には手伝う義務があります」
「アルコバレーノ、未来は別に決まっちゃいない。どんな未来が待っていようと、お主のせいではないし、他の誰かのせいでもない。そういう世界になっただけなんだ」
「身体鍛えるのに丁度良いですし、殿下も手伝いますか?」
「うむ、舗装用床タイルなら我でも楽しめそうじゃの」
馬車から下りる殿下とディアマンテ。
「ディアマンテ、お主も手伝え」
「え? 私もですか?」
「そうじゃ、お主も手伝った方が無駄な肉も落ちよう」
「太っているみたいに言われるのは心外です」
「胸が太っておる」
「これは、こういうものなのです!」
「そうか、まあよい。とにかく我もやるから手伝ってくれ」
一緒にタイル張りをしていく僕と殿下とディアマンテ。
「やり始めると、なんだか楽しいですね」
「そうじゃろう、じゃがあんまり時間がかかるのもあれなんでな。アルコバレーノ頼む」
「はい。『ノーム』おいで」
ポンポンとノームが出てくる。その数は数十匹。数十匹のノームがもの凄い速さでタイルをはめていく。一ヶ月後には帝都まで道が繋がっていた。




