留学生
学校に留学生がやって来た。僕が16歳になった春だ。
それは僕が知っている人物だった。
「「「あら可愛らしい」」」「「「おいくつなのかしら?」」」
教室がワイワイガヤガヤと騒めく。壇上に上がった順番で椅子に座っていく。
三人目の子は隣の男の子が持ち上げて、椅子に座らせる。
先生が言った。
「静かに、この子達は帝国から来た留学生だ。まずは、左から自己紹介を」
最初の黒く長い腰まで伸びた髪の女性が席から立ち上がり自己紹介をした。
「帝国から来たディアマンテです。一年間お世話になります」
次にブラウンの髪をボブにした、狐目の男性が名乗る。
「私は帝国から来たルビーノです。お世話になります」
最後に幼児が語った。
「我はチェーザレ、帝国第五王子、三歳じゃ。身分は気にせず気楽に話しかけて欲しい」
椅子の上に立って話をしているのが、クラスの皆は可愛くて仕方ない。
「チェーザレ殿下、それでは席へ」
狐目の男がチェーザレを抱きかかえようとすると、チェーザレは「自分で行く」と言う。
チェーザレは一番後ろの席にやってきた。隣には僕だ。僕に向けて両手を上げるチェーザレ。
「椅子まで頼む」
アルコバレーノは胸に手を当て深く一礼してから、チェーザレの脇を持って椅子の上に乗せた。
「どうじゃ。我も少しは成長したじゃろう」
「たった二ヶ月でこんなに大きくなれるんですね。今何キロですか?」
「よせ。なんか太ったみたいじゃないか」
クスクスと周りから笑い声が聞こえる。
「だからよせといったんじゃ……」
チェーザレの頭を撫でる僕。
「我は前世では40を超えると言ったではないか……」
「そんなこと言ってましたね」
じ―――ッとチェーザレのことを見つめるビアンカ。
「私も抱き締めたい」
「「駄目です」」
黒髪の女性とブラウンの狐目が言った。
力尽くでチェーザレを奪い返すディアマンテとルビーノ。
「ああ……」
ビアンカから遠ざけられたチェーザレ。
ジャージを着た壮年の男性が授業を始める。
「さあ、実技の授業をするぞ。皆運動場にて待つように」
「まずは留学生の四大精霊適性を見る」
「さあ、ディアマンテ。きみの適性から見てみよう。この水晶を触ってごらん」
ディアマンテが水晶に触れると淡い光を放った。
「四大適性はあるが、精霊召喚は無理みたいだね。魔力が少なすぎる」
「じゃあ、次ルビーノ」
ルビーノが呼ばれた。
ルビーノは心の奥で鼻で笑った。白目が精霊魔法が使えないのを知っていながらわざわざ測定をする。フンッ嫌味な教師だ。
ルビーノが水晶に手を触れると、案の定空振りだった。
最後にチェーザレが呼ばれる。
チェーザレくんこちらに来なさい。
「はい」
「この水晶を触ってごらん」
額に汗を浮かべるチェーザレ。
「怖いかい?」
「白目は一般的に五歳から適性の儀を行いますから。怖くて当然です」
僕がチェーザレの頭を撫でる。
チェーザレは覚悟を決めて水晶に手を当てた。
ぶわ―――――――と蒼い光が瞬いている……そして光は収束していった。
「……チェーザレくん、ウンディーネの召喚成功」
帝国留学生三人組がガッツポーズをする。
「一大精霊でも充分じゃ。これで、兄姉達を見返させられるぞ……」
「待ちなさい。チェーザレくんにはまだ適性があります」
水晶から赤い光が溢れてくる。サラマンダーの召喚も成功して見せた。
「二大精霊持ちか。白目が召喚の儀を成功させたのは歴史上初めてだ」
共に留学してきたディアマンテとルビーノがチェーザレを泣きながら抱き締めている。
授業終了の鐘が鳴る。
……言えない……あなたのお姉さんは全ての精霊を呼び出していたなんて……口が裂けても言えない……。僕は心の底から思った。
※※※
数学の授業では皆眠い為、幻影の魔法を使う。生徒達が先生に向かって目と目を合わせる為だ。だがしかし、さすが魔法大国の女神王国領だ。探索者教師にはすぐばれる。寝ている全ての生徒に向けて、チョークを放つ教師。全て命中。
「う……いたた」
「いでえ」
「ウホッ!」
痛みの表情は千差万別だ。チェーザレがチョークをくらったディアマンテ、ルビーノの頭を撫で撫でし、痛いの痛いのとんでけ~。と歌った。
本物のチェーザレは葬儀の時のチェーザレか? それとも今のが本物のチェーザレなのか、分からなかった。
僕は意地悪な質問をした。
「チェーザレ殿下。チェーザレ殿下は僕を暗部に誘ったチェーザレ殿下ですか?」
「うむ。そうじゃ」
「チェーザレ殿下はもう暗部は要らないのですか?」
「オークの死と共に、女神王国領と同盟国になったからのう。なってくれるならありがたいが、女神様の機嫌を損ねても困るのは我らじゃ」
「じゃあ、これからは友人として仲良くしましょう」
「うむ。それが良い」
「それにしても、椅子に座っても授業が見えんのう」
僕はチェーザレ王子を膝の上に乗せた。
「これでどうですか?」
「うむ。助かる」
ディアマンテとルビーノがジト目で見つめてくる。
視線は痛いが、チェーザレ王子の居心地がいいらしいのでそのままにしておく。
項垂れるディアマンテとルビーノ。
「授業が全く分からない」
チェーザレが言う。
「まあ、ゆっくり勉強していこうではないか」
「「はい」」
※※※
ディアマンテとルビーノが呟く。
「なんで赤目にあんなに懐いているんだ」
「私だって知らないわよ」
チェーザレ王子が呟く。
「こうして考えると帝国の教育はなんと薄っぺらいものじゃったのかわかるな」
「数千年生きてるエルフ達の学問が私達にわかるわけないと思います……」
鐘が鳴って授業が終わる。
※※※
「ご飯を食べに行きましょうか」
留学生を誘う。
チェーザレが嬉しそうについて来た。後に続いてついて来るディアマンテとルビーノ。
「わあ、デザートまであるのね」
ディアマンテが嬉しそうに並んだ食事を取っていく。
ビュッフェ形式だ。
「我のも取ってくれるか、ディアマンテ」
勿論です。と嬉しそうに取っていく。
チェーザレはどこに行っても人気者だった。
ルビーノが心配して抱き上げる。
チェーザレは心の年齢は40以上である。
しかし、外見は3歳なので出来ることが限られている。ルビーノ達はそんな3歳児のお世話がしたくてしょうがないようだった。
今日のご飯は鳥の照り焼きがメインで白パンとコーンポタージュがついてきた。デザートにチーズケーキ、飲み物に紅茶。
鳥の照り焼きは醬油ベースでほろほろ崩れ、コーンポタージュはコーンたっぷり甘味が強く、白パンはふわふわ、チーズケーキは程よい柔らかさの、チーズの風味が強いケーキだった。
「うむ、美味い」
皆が白目を遠巻きに見ている中、僕とビアンカは三人と一緒にご飯を食べた。
周りからキャーキャー言われるチェーザレ。チェーザレはルビーノに抱っこしてもらいながら、皆に手を振って歩く。
「「「可愛い」」」
眠そうにしていたので、チェーザレは保健室で眠りに行き、ディアマンテやルビーノがそれに付き従った。
僕とビアンカはチェーバレ達が受けていない昼の授業を、ノートに書き写し、保健室へと向かった。そこには熟睡しているチェーバレがいた。傍らには椅子に座ったディアマンテやルビーノがいる。
「何しに来た?」
ルビーノが僕に向けて警戒態勢に入る。
「……ん。これ」
ビアンカがノートを渡す。
「……ん。お昼の授業をノートにまとめておいた」
ルビーノが雑にノートを受け取ると、「帰れ!」とばかりに掌でシッシッとされた。
「ごめん。ビアンカ余計なことしたかな」
「……ん~ん。ノートは一応受け取って貰えた。重畳」
「それもそうか」
僕とビアンカは家路についた。といっても80階あるギルドの40階に帰っただけだが。




