オークとの決別
帝国に戻る前にと、帝国の王女もとい、皇帝が元最南端の村へとやって来た。
今は世界樹の麓に存在し名前が変えられて、アルコバレーノ村と呼ばれている。ちなみに元の名前は『最南端の村』そのまんまだった。
彼女の名前はティンバッロ。オークと呼ばれる先帝が名付けた。彼女はアルコバレーノがやっているという果樹園の食べ放題にやって来た。
白目に忌避感がある赤目達が去っていく。
アルコバレーノに一枚の銀貨を渡す。
「時間が惜しいので、お勧めを教えて下さるかしら」
アルコバレーノが軽く礼をした。
「構いませんよ。一時間じゃ回りきれませんからね。そろそろ帝国へ戻られるのでしょう?」
「あらこれは何かしら?」バナナを見てティンバッロが呟く。「これはわかるわブドウね」「これはリンゴ」これは、「これはメロンです」アルコバレーノが答える。
「分からない果物が多いですが、私はこの甘酸っぱいイチゴというのが好きですわ」
「それは女性に人気があるんですよ」
「おねえちゃんも? わたしもこれすちなの!」
親子連れの女の子がティンバッロに話しかける。
ティンバッロが身を屈めて女の子に答える。
「お嬢ちゃんもイチゴ好きなのね。私と一緒ね」
「うん」
「お嬢ちゃんはお姉ちゃんが怖くないのかしら?」
首を横に傾ける女の子。
「全然こわくないよ。おねえちゃんのお顔やさしいんだもん。それに……」
「……それに?」
「精霊たちがおねえちゃんのまわりでたのしそうにおどってりゅの」
ティンバッロが屈んだまま、顔を上げ上目遣いでアルコバレーノに尋ねた。
「本当ですか?」
「ええ、精霊達がティンバッロ様の周りで遊んでます」
「そうですか。私は精霊様達に迎え入れられたのですね」
「そうですね。白目にしてはとても珍しいです」
「精霊魔法を覚えてみますか?」
「よろしいのですか?」
「白目が無理矢理使役する方法もありますが、精霊に愛されて四大精霊を覚えることが出来るのは、赤目ばかりですからね。白目が愛されているところも見てみたいのです」
「それは嬉しいですわ」
僕とビアンカは円周3メートルの結界を作り、帝国の姫様と精霊達が遊べるようにしてあげた。
「この子がノームです」
ノームが姫様に抱きつく。
「あらあら人懐っこいこと」
サラマンダーが現れて空に花火を打ち上げた。
「まあ、綺麗ですわ」
シルフが現れて涼しい風を吹かせる。
「天使のようですわね」
最後にウンディーネがザブンっと水をかけた。
「ウンディーネはいたずらっ子さんですのね」
シルフが暖かい風でティンバッロを乾かしていく。
「……ん。精霊達があなたと契約したがってる」
「……契約するのに痛いことはないのですよね?」
「痛いことはありません。ただ頭を撫でてあげたらよいのです」
それぞれの頭を撫でるティンバッロ。
契約の印が現れてそれぞれの精霊達のおでこに紋様が吸い込まれていく。
「これで四大精霊の魔法が使えるのですか?」
「……使える。けどみんな寂しがり屋。たまには構ってあげてね」
「精霊様は寂しがり屋なのですね。頑張って構ってあげますわ」
「……むう。適度に構ってあげて。ストレスが溜らないように」
「難しいのですね」
「猫や犬と一緒。構って欲しくない時もある」
「なるほど。そう考えればいいのですね」
「ん」
無い胸を張る合法ロリ。
そこへ執事がやって来る。
「お嬢様、そろそろお暇の時間です」
「ええ、わかりましたわ」
王女は控えていた馬車に乗ると、手を振って去っていった。
果樹園や村のみんなも手を振った。
「珍しい白目じゃのう」とプルプル震えるおじいさんが呟くと、「ほんに珍しい子じゃ」とプルプル震えるおばあさんが答えた。
※※※
走る馬車の中。カッポカッポと音が聞こえる。
「姫様、魔王国領とは思った以上に牧歌的であり、技術大国でもありましたな」
「ええ、まずは魔王国領の技術を得なければなりませんね」
「では、帝国で留学生を募りましょうか」
「え、魔王国領は留学生を募集しているのですか?」
「ええ、もう千年も冒険者ギルドにて留学生を募集しておりますよ」
「それが本当なら、なんと勿体ない時間を費やしたのでしょう」
「オークの尻拭いは大変そうですわね」
馬車は帝国へと辿り着く。
「おーよくぞ帰った。我が愛娘よ」
帝国の城へ戻ると、オークのような容姿をした推定100キロは軽く超える男が玉座に座っていた。
「で、帝国はどうであった? 何か情報の一つでも持って帰ってきたのだろうな」
「帝国は留学生を募っておりました」
「そんなことは知っておる。しかしだ、魔王国領に喜んでいく人間はおるまい」
「……知って…おられたのですか? なんて愚かな……」
「……なんだと?」
「いえ、なんでもありません」
「あなたを愚か者と呼んだんですよ。皇帝陛下」
「チェーザレ……」
「者共出会え!」
「「「はッ!」」」
「その玉座に偉そうに座ってるオークを倒せ」
「何を言っておるのだチェーザレ。不敬であるぞ」
「皇帝陛下は女神王国領の勇者達に先日やられた。そこにいるのは陛下を語るただのオークだ。違いますか? 姉上」
「そうですわね。私達の父上は天に召されました。みなさん、やっておしまいなさい」
皇帝はチェーザレの部下、ビスタに討たれた。チェーザレに膝をつくビスタ。
「ビスタ、良くやった。姉上その様子だと、女神王国領との話は上手くいったのですね」
「え、ええ、チェーザレ。女神様とは仲良く出来そうですわ」
「僕がその他数名と留学します。姉上、いや、ティンバッロ皇帝陛下に玉座を預けます。表向きの政治はお任せしますよ」
「チェーザレ……あなたは本当にチェーザレですの?」
「はい、陛下の可愛い弟チェーザレですよ」
「そう。では、女神王国領はチェーザレに任せます。あなたは私に政治を任せて下さいますか?」
「当たり前です。お姉様こそ、その玉座に相応しい」
「まさか、三歳のあなたに留学してくれなんて本来なら言い出せませんでしたが、他の王子王女が当てになりませんからね」
「我も、ティンバッロ陛下と同じことを感じていました。ですが、女神王国領の勇者は信頼に値します。僕が留学したら、守ってくれるはずです」
「陛下、我は四大精霊を使役し、強くなって帰ってきます。どうか、我を信じてください」
「フフフ」
ティンバッロが不敵に笑う。
「どうされたのですか? お姉様」
「御覧なさい」
ティンバッロは四大精霊を呼び出す。
チェーザレが目を見開き、口をポカンと空けていた。
「なぜですか? 姉様」
「アルコバレーノ様に教わりました。どうやら私は精霊達に好かれる性質を持っているんだとか」
でかい胸を反らすティンバッロ皇帝陛下。
「私が使役する四大精霊達です」
「なんでも、白目にしては珍しいほど四大精霊に愛されているらしいですわ」
「姉上だけズルいです~」
不満を吐くチェーザレを抱き締めて頭を撫でるティンバッロ皇帝陛下。
「あなたは錬金術を学んで来なさい。彼の国にはエリクサーが量産されてましたわ」
「まあ、まずは文字の読み書きから始めないとなりませんが」
「文字の読み書きならとっくに履修しています」
「いつの間に……あなたはまだ三歳でしょう?」
チェーザレの目を正面から見つめるティンバッロ。
「我は二歳から学問を始めました。今は世界史を学んでいるところです。世界史に不足している女神王国領の歴史を直に学んで来たいと思っています」
チェーザレの落ち着いた瞳を見て、ティンバッロは決心する。
「私の名であなたを留学の代表団トップとして派遣します。随行者はあなたが信頼できる人員を選びなさい」
「は、陛下。謹んでお受けいたします」




