フォルマーレ王女殿下は凄い
王女殿下が部屋へとやって来た。これから授業を受けるのだという。
この国で学校へ通い授業を受けるのは10歳のこと。稀に家に教師を呼び、先に知識を身につけさせておくことは珍しくないが、僕の実家では8歳から行っていたはずだ。
王族に対する礼節を学ぶ授業だ。今から勉強を学べるのは、正直助かる。
僕には知識が明らかに不足しており、王族に対するマナーもとても拙い。
だが、そんな僕の期待とは裏腹に、邪魔が入る。フォルマーレ王女殿下だ。
「あなたには、そんな授業必要ないわ。文字の読み書きは習っているのでしょう。計算も最低限は教わっているはずよ」
「はい。ですが、僕は王族に対する礼節やダンスの練習もまだ教わっておりません。大事な場所で礼節を欠けば、僕は殿下が望む主人公にはなれないのではないでしょうか?」
「むむ…いいわ。それじゃあ、私と一緒に学びましょう」
はい?
「構いませんが、王族への礼節を守る為に王族の方をパートナーにするのは、少しおかしくはありませんか?」
「いいのよ。どうせ年齢も一緒だし。それに、あなたはこれからずっと私と過ごすことになるわ。王族というより、私との関係を深く学んでいくことね」
それは……
「それは、やはり王女殿下の婚約者になれということでしょうか?」
顔を紅潮させるフォルマーレ王女殿下。
「……まあ、はっきりと言ってしまえばそういうことね」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
「えっと……すみません。今はまだちょっと受け止めきれないというか、夢のような話で……」
王女殿下は紅潮した頬に両手を当てながら答えた。
「言ったでしょう。あなたはこの物語の主人公だって。もし、まだ受け止めきれないと言うのなら、とりあえず私の小さな勇者になってちょうだい」
家臣に神の奇跡と呼ばれる王女様だ。僕には身に余る光栄だが、小さな勇者として彼女を守れというのなら、その努力は積むつもりだ。
僕は膝をつくと、家臣の礼をとる。
「今はとても小さなただの子どもですが……あなたが望むのであれば、一歩ずつでも勇者へとなっていきます」
僕はまだ身体強化という不遇と呼ばれる魔術に選ばれただけだ。僕自身はまだ何もしていない。可能性があるというのなら、この奇跡と呼ばれる少女の為に努力してみたいと思えた。
※※※
「…………」
「…………」
「ここの術式はですね…」
「…………あの」
僕は隣に座る王女殿下と一緒に、4大魔術の授業を受けている。
「先生ここの術式は、こうすれば素早く構築されるように出来ませんか」
「あら、まあ姫様はなんと素晴らしい。たしかに、この術式なら時間を短縮出来ますわね」
「…………あの!」
「なんでしょう、アルコバレーノ様」
「僕には4大魔術が使えないんですけど! なんで4大魔術の授業を僕が?」
「確かに。ですが、これは姫様の希望した授業ですので、わたくしはただ授業をこなすだけですわ」
僕と先生の会話を遮り、王女殿下が語り始めた。
「アルコバレーノ様。アルコバレーノ様の敵は、4大魔術を子どもの頃から覚えて4大精霊を使役してくる魔族ばかりですわ。まず敵を知り己を知れば百戦危うからず、ですわ」
「なるほど……ですが、身体強化でどう対応しろと?」
「それは、私達がこれから考えていくのです。勉学とはただ学ぶ為のものではありません。学び思考することですから」
「……姫様は、本当に5歳児ですか?」
ムスっとする王女殿下。
「その…いえ、別に悪い意味でなく、やはり頭がよろしいなと思いまして」
「まあ、よいですわ。それに、アルコバレーノ様。私からしたら、あなたも十分に頭がよろしいと思いますけれど」
「そうでしょうか。実感はありませんが……」
アルコバレーノの肩をバンっと叩くフォルマーレ王女殿下。
「自信をお持ちになって。あなたは疑うことなく、私の伴侶になるお方なのですから」
叩かれた肩も痛かったが、それ以上に胸が痛かった。こんな小さな幼女の肩に、世界の全ての人間が重い荷物を背負わせているようで。僕くらいは彼女の荷物を共に背負ってあげられたらいいなと、王城に来て2日目で思わせられるなんて。まだ2日目で……。
「フォルマーレ殿下、僕がここに来てまだ2日目です。少しずつ助け合っていきましょう」
王女殿下がフフフと笑う。
「そうでしたわね。まだ2日。まだ時間はあるのですもの。急ぐ必要はありませんわ」
殿下がそういうと、僕と殿下は目を合わせて笑い合った。その後、僕は王女殿下と昼食を取り、兵士たちのお昼の訓練に加わり、陽が沈む頃に眠った。なんだか忙しい1日だった。
※※※
僕は3日目にして身体強化をマスターしてしまった。
どうだ? 凄いだろう?そうだ。伸び代がこれ以上ないのだ。そういう魔術なのだ、身体強化とやらは……。
2日目の勉強前に、僕は王女に身体強化を鍛え終わったことを告げた。
「まあ、それは素晴らしいですわ」
僕は彼女の返事を素直に嬉しいと受け取っていいものか悩んだ。しかし、生まれ持った魔術を鍛え終えたんだ。素直に喜んでみたら、王女殿下も一緒になってお祝いをしようとケーキを持ってきてくれた。実際には王女殿下付きのメイドが運んできたものだが。
王女殿下は僕にリンゴを持たせると、片手で割って見せてくれと言う。僕は軽々とリンゴを割って見せた。
「まあ、素晴らしいですわ」
褒められるほど空しくなるこの気持ちを、ぼくはどこへと吐き出せばいいのか……。
「他に何が出来ますの?」
他に何も出来ないから、無能の証みたいなもんなんだけど……。
「あそこにある丸太を、片手で持ち上げたりは出来ませんの?」
「あの木刀のこと?」
「木刀なんですの? あれ……」
僕は王女殿下が丸太と呼んだ、おじいさまに貰った木刀を片手で持ってみる。すると
「あれ、こんなに軽かったっけ?」
片手であっさり持ててしまった。
「その丸太を軽々と持てるのですもの。大岩を城壁に投げつけて破壊することも出来るのではありませんか?」
試すわけにはいかないけれど、なんだか自分でも出来るような気がしてきた。
「もしかしたら、もっと凄いことが出来るかも?」
「そうですわね、素晴らしいですわ」
「そうだね。なんだか素晴らしいことが出来そうな気がするよ」
王女殿下がそういうと、なんだか本当にそうなる気がして不思議だ。
「なら、試してみましょう!」
僕は兵士の訓練場に出ると、分厚いミスリルの鎧を前に、リンゴほどの大きさの鉄球を手に持った。僕はミスリルの鎧に向けて、鉄球を放つ。放たれた鉄球は、弧を描かず、直線状に飛んでいき、ミスリルの鎧を大破させた。
訓練場の兵士たちが静まり返る。そして、誰かが声を上げるとその場にいた兵士みんなに伝播していく。
「「「うおおおおおおおッッッ!!」」」
「あれが身体強化か?」
「まさか、あんなの見たことも聞いたこともねえよ!」
「でも俺だって鍛錬すればあんなことが出来るんじゃねえか!」
「夢見るんじゃねえよ、お貴族様の身体強化だぞ! お前の身体強化と一緒にするんじゃねえよ!」
兵士たちが騒いでいることさえも気にならなかった。なにやら静かな空間で、僕がボールを投げた瞬間に何かが弾けた。僕が覚えているのはそこまでだ。身体が熱い、胸の鼓動が頭に移ったようにうるさく脈打つ。これが、歓喜か。歓声が、僕の耳に遅れて届いた。
王女殿下に出会ってたった3日。僕は、紛れもない自信を手に入れた。
フォルマーレ王女は、凄い。
楽しんで頂けたら評価をお願いします。
つまらなかったという方もつまらなかったという評価をお願いします。
<(_ _)>




