転生者達
葬儀は続いていたが、近衛騎士団のお茶が終わったタイミングで王子と近衛騎士団は帝国の帝都に帰っていった。
王子は僕に伝書鳩を預けていった。
僕は女神王国領の女神様の元へと戻って来ていた。僕は女神様に僕の微妙な立場を伝えた。
王国より赤目として帝国の要塞でお世話になったこと。
女神王国領で最南端の村にお世話になったこと。
女神王国領で探求者ギルドにお世話になっていること。
帝国の王子から暗殺部隊として女神王国領で戦争派を駆逐して欲しいと頼まれたこと。
伝書鳩を預かったこと。
帝国でも王国でも、転生者達が暗躍しているということ。
僕は転生者ではないので、女神王国領の転生者を探してほしいと頼んだ。
「女神様、信じられないかもしれませんが、転生者を見つけてください。王国や帝国では王女や王子が転生者だったので、女神王国領でもそれなりの立場のある人が転生者ではないかと考えているのですが」
女神様が言った。
「私がその転生者です」
「……はい?」
「私は『学園デスティニー~黒猫の髭~』のゲームをプレイしておりました」
「本当ですか?」
「本当です。あなたを誰の推薦状も無く、王城へと入れたのはあなたが主人公であると知っていたからです」
「あの……」
「はい」
「主人公という存在は一体何をすればいいのですか?」
「変な質問ですね。あなたはもう選択肢を選んだではありませんか」
「選択肢、ですか?」
「ええ、あなたは赤目になって南の帝国の要塞にやって来た時から、まごうことなき主人公をやっていますよ」
「身に覚えがないのですが……」
「要塞で赤目の者に魔森の神級モンスターを狩って持っていき信頼を気づいたことも、魔王国領を女神王国領としたことも、エリクサーを女神王国領に広めたことも、南の村を世界樹まで導き、避難させたことも。戦争を遠ざけることをしているではありませんか」
「要塞で赤目を襲う白目達を壊滅させたことも、女神王国領から戦争を仕掛けるべきと言う声を小さくしましたよ」
「あなたの行動は自然と戦争を遠ざけているのです」
「そう言われると……そうですかね」
そこへ伝書鳩がやって来る。帝国の王子殿下に、女神様に伝えたいことはあるかと聞いた返事だ。そこにはこう書いてあった。
帝国が女神王国領からエリクサーを譲ってほしいとの話だった。勿論莫大な対価と引き換えに、だ。
対価とは白金貨百枚、そして……和平交渉だと言う。
「あなたはまごうことなき、主人公です」
なんだか実感が湧かない。なんだか向かう方向が決められている気がして。僕というものがなんだか崩されていく気がする。
「女神様、今日はこれでおいとまさせて頂きます」
「ええ、和平交渉の際は仲立ちしてくださいね」
クスクス笑う女神様。
「考えすぎなくて良いのですよ」
「……はい」
僕は無性にビアンカに会いたくなり、世界樹の村へ急ぐ。とにかく、ビアンカに会いたい。今すぐビアンカに会いたい。会って抱きしめたい。僕は村へ急ぐ。もっと早く。
「村長、ビアンカは?」
「ビアンカなら、アルコバレーノくんの家にいるよ」
僕は自分の家に慌てて行った。
ビアンカがご飯を作っていた。僕は後ろから彼女を抱き締めた。
「……どうした?」
「何でもない」
「……むう。なんか変」
「本当に、何でもないんだよ」
「……そう」
僕はビアンカにキスをした。
「……ん。やっぱり変」
僕はそのまま、ビアンカを抱き締めた。
※※※
ベッドで横になる二人、服は着ていない。
「……ん。激しかった」
僕は真っ赤になった顔を見られたくないので、布団に潜っていた。
「…ごめん」
「……ん。今日は許す」
「ごめん」
「……ん」
ビアンカに頭を抱き締められた。
「……よしよし。お姉さんに何があったか話してみ」
※※※
「……ん。アルコバレーノは見た目よりも繊細」
「そんなこと分かってるよ~」
「アルコバレーノは外面は綺麗だけど内面は可愛い」
「男に綺麗とか可愛いとか言うな~」
「……ん。アルコバレーノは私の主人公」
「……」
「……アルコバレーノは私だけの主人公。誰にも渡さない」
僕は溢れるほど涙を流す。鼻水と涙で布団がビショビショだ。
「うん……。僕はビアンカだけの主人公だ。僕ら二人の生活を築こう」
「今日は畑づくりでもしようか」
「畑はこれでもかってくらい果物が実ってる」
「そういえば、ビアンカの畑を果樹園にしたんだ」
「二度とと果物に困らない」
「実はね、果樹園で思いついたことがあるんだ」
僕らは畑へとやってくる。
「……ん。果樹がいっぱい」
「お金を払ってもらって1時間食べ放題にしようと思ってね」
「……ん。食べ放題よいかもしれない」
「そう思うだろ」
※※※
「食べ放題はこちらでーす」
「……ん。銀貨一枚で食べ放題」
皆がどよめく。
私は果物博士と言っていいほどの果物好きだ。
なんでも、ここではあらゆる果物が銀貨一枚で食べ放題らしい。
「ちょっときみ」
私は綺麗な金髪の男? に声をかける。何でもここの経営者らしい。
「本当に銀貨一枚で食べ放題なのかね? 詐欺じゃないのかね?」
「一時間好きなものが食べられますよ」
「ふむ」
「ブドウにイチゴ、ナシにリンゴ、バナナにキウイ、サクランボにマンゴーメロンやスイカまで。どうなっとるんだこの畑は」
「世界樹産ですから。妖精たちが力を貸してくれているんです」
なるほど、よく見れば、鹿の角を生やしたノーム達が土に潜って寝ておる。
だがしかし、果物を採った瞬間から新芽が出て花となり果実が出来ていく。
採っても採っても実がなるのだからそりゃあ赤字にはなるまい。
試しに桃をもいで食べてみた。これは
「うまあああああああい!」
食っても食ってもお腹に入る。果物はあらかた食ってきたが、糖度が高くて酸味も丁度良く美味しい。こんな美味いものがこの世にあっていいのか。
「果樹園の経営者を呼んでくれ」
さっきの金髪の男がやって来る。
「どうされましたか?」
私の目から涙が頬を伝っていた。
「シェフ、美味しいものをありがとう」
「いえ、私は果物を育てただけの経営者ですから。シェフではありません。それに主に畑を作っているのはノーム達ですし」
「いやいやいや、今までで一番美味い果物の食べ方だったのでな、つい。ハハハ」
「ハハ、それは嬉しい限りです」
「いやあ、また腹が空いた頃に来るよ。美味しいものをありがとう」
「いえ、いえ、またおいでください。お待ちしております」
僕はこの果樹園で一財産築いた。
「お疲れ様、ビアンカ」
僕は夜になると自分の家へと帰った。
ビアンカがご飯を作るために先に帰っていた。
「おかえりなさい、アルコバレーノ」
「ただいま、ビアンカ」
僕は気づいた。
転生者なる人々が何を言っても、僕が気にする話ではない。僕はこの世界で、戦争を終わらせて、平和を取り戻す。主人公なんて気にしない。この世界の全ての人が、自分にとっての主人公なのだから。
「ビアンカ、今日も美味しいご飯をありがとう」
「……ん。もっと褒め讃えよ」
笑い合う僕ら。
僕は僕のままでいいんだよね。僕がこの世の誰だろうと、この世に生まれて来て、ビアンカに出会って、家庭を築こうとしてる僕がいる。
異世界転生者なんて知らない。僕の平和な日常を潰そうとするなら戦うし、守ろうとしてくれるなら一緒に未来を築いていく。ここにいる僕は、自分で未来を選んだし、自分でビアンカを選んだ。誰かに頼まれたからここにいるわけじゃないし、誰かに頼まれたからビアンカを選んだわけじゃない。僕は僕とビアンカの幸せの為に生きていくんだ。
楽しんで頂けたら評価をお願いします。
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